角田裕毅にとって第2戦エミリア・ロマーニャGPは、これ以上ないほど苦いレース週末になった。 開幕戦で手応えを得たアルファタウリ・ホンダのパフォーマンスを、オフの間にとことん走り込んだ地元イモラで結果に結びつける。レース週末前から角田は、は…

 角田裕毅にとって第2戦エミリア・ロマーニャGPは、これ以上ないほど苦いレース週末になった。

 開幕戦で手応えを得たアルファタウリ・ホンダのパフォーマンスを、オフの間にとことん走り込んだ地元イモラで結果に結びつける。レース週末前から角田は、はやる気持ちを隠そうともしなかった。



予選でマシンを大破させてしまった角田裕毅

 しかし、金曜に電気系トラブルで走行時間を失ってドライビングのビルドアップに後れを取り、土曜午前のFP3でもトラフィックに引っかかってしまい、100%満足のいく確認走行ができないまま予選を迎えることになった。

 そして予選Q1のアタック1周目、100km/h以上のスピードで右・左とクイックにマシンの向きを変えるバリアンテアルタでクラッシュ。ギアボックスが折損してリアエンドが脱落するほどの大きなダメージを追い、決勝は最後尾からスタートすることとなってしまった。

「今週末のマシンのパフォーマンスを考えると、Q1という早い段階であんなふうにプッシュする必要はなかった。そんな状況のなかで、どうしてあそこまでプッシュしてしまったのかわかりません。僕のミスだし、そこから学ぶしかないと思います」

 アルファタウリAT02の性能があれば、Q1で下位5台に入ることはない。つまり、限界ギリギリの走りをするような場面ではなかった。

 そんなQ1の、それも計測1周目のバリアンテアルタで、無意識のうちにいつもよりも何十メートルも奥までブレーキングを遅らせてしまっていた。そのためオーバースピードでシケインに侵入し、暴れるリアを抑え切れずにクラッシュしてしまった。

 無意識のうちのオーバードライブ。角田が開幕前からことあるごとに口にしていた「ミスを恐れず攻めて、マシンの限界を学ぶ」というのとは、明らかに違うミスだった。

 角田は「ミスをしたあとはいつもよく眠れないけど、とくに昨日はそうでした。そのくらい、僕にとってはすごく大きな出来事だったということです」と土曜の夜を振り返る。

 予選5位に入ったピエール・ガスリーとは対照的に、最後尾グリッドからの決勝。

 直前の雨で難しいコンディションのなか、角田は慎重にスタートしながらも空いたスペースには飛び込んでスルスルと順位を上げていった。予選での教訓がしっかりと生きた、アグレッシブかつステディなドライビングだった。

 路面が乾いていき、各車がインターミディエイトタイヤからスリックタイヤに換えた段階での順位は10位。十分に入賞が可能なところまで挽回してきたのは見事だった。

 しかし、バルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)とジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)の大事故による28分間の赤旗中断が、角田の集中力を奪った。

 セーフティカー先導からのレース再開直後、目の前で空いていたルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)のインに飛び込んだものの、オフラインは当然濡れたダンプ状態。スロットルを踏み込んだ瞬間、足をすくわれてスピンオフし、最後尾まで落ちてしまった。

「自分自身にものすごく腹が立っています。今日は速さがあったし、ルイスをオーバーテイクしかけたんです。それなのにアグレッシブにスロットルを踏みすぎて、リアがスナップしてスピンしてしまいました。その後もペースがよかっただけに、すごく残念です」

 そもそも、濡れた路面で抑えて走るハミルトンを抜くことに、あまり大きな意味はない。路面が乾けばハミルトンのほうが速く、いずれは抜き返される。それよりもハミルトンの背後についていって、一緒に前走車を抜いて行く方が賢明だった。それはチームとしても指示すべきことだったかもしれない。

 いずれにしても角田は、予選と同じように攻める必要のないところで攻めすぎて、ミスを犯してしまった。ここで学ぶことができたのは、ウエット路面でのスロットル操作の是非ではなく、レース全体を見て攻めるべきか引くべきかを考えるということだ。

 そこから前の集団を追いかけたものの、入賞のチャンスをフイにする大きなミスを犯してしまったという自分自身に対する苛立ちと、集中力を欠いた状態でのドライビングはやや粗く、4度のトラックリミット違反を犯して5秒加算ペナルティと1点のペナルティポイントを科されてしまった。



今季初優勝を飾ったマックス・フェルスタッペン

 僚友ガスリーはウエットタイヤスタートの戦略が外れ、一時は最後尾まで落ちながらも挽回して7位フィニッシュ。何事もなければ角田もポイントが獲れていただけに、悔やまれるレースとなった。

「赤旗中断まではとてもいい集中力を保つことができていたんですが、赤旗中断の間に少し集中力を失ってしまったんだと思います。集中力を保つことというのも、今後に向けた課題だと思います」

 レースを終えた角田は、大きく肩を落とした。

 良薬は口に苦し。

 エミリア・ロマーニャGPは期待値が大きかっただけに、あまりに苦すぎる週末となってしまった。だが、角田はこれを薬として大きく成長してくれるはずだ。

 一方、レッドブル・ホンダはマックス・フェルスタッペンが予選Q3のアタックラップを決めきれず予選3位に沈んだものの、決勝では濡れた路面で抜群の加速を見せてトップへ浮上してみせた。

 昨年何度も苦汁をなめたスタート時の制御は、レッドブルとホンダがクラッチやトルクデリバリーなど様々なパラメータを研究し、改善に努めてきたところだった。まさに、その成果が勝利への大きな後押しになったわけだ。

「勝利のキーポイントになったのは、スタート発進加速だと思う。僕自身も少し驚いたくらいだよ。去年はいつもウエットのスタートで苦しんでいたから、この冬の間にチーム全体で懸命に改善努力をしてきたんだ。今日は本当にすばらしいスタートだった。

 去年はストレートで少し苦労していたけど、僕らはこのオフの間にものすごく努力を重ねてきて、今日はかなりよくなっていた。今日の僕らはすべて、うまくやれたと思う。リスタート直前のハーフスピン以外はね(笑)」

 王者ハミルトンが濡れた路面でコースオフを喫したのに対し、フェルスタッペンは完璧なレース運びで勝利を収めた。

 開幕戦バーレーンでは勝てたはずのレースを落としたが、第2戦イモラでは予選でつまずきかけたのをしっかりと挽回し、勝利をもぎ取った。これでフェルスタッペンはハミルトンに1ポイント差に迫り、チャンピオン争いにはっきりと名乗りを挙げたことになる。

「去年と比べるとメルセデスAMGとの差は、追いかける我々からすれば前が見えてきている感があります。開幕戦でポールポジションを獲り、今回は優勝ということで、非常に拮抗した戦闘力のレベルまで来ることができたかなと思います」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、メルセデスAMGと戦えるという手応えをしっかりと掴んでいる。

 だが、もちろん手綱は緩めず、勝って兜(かぶと)の緒を締めて、残り21戦のラストシーズンを悔いなく戦い抜くつもりだ。

「2戦目にして勝てたのは、気持ちとしては非常に明るくなれる結果です。しかしまだ2戦目でしかありません。我々はやるからには、毎回勝つんだという気持ちで戦っています。最善を尽くし、ミスのない作業と持てるものを最大限に引き出すのが我々の使命ですから、気持ちはこれまでと変わりません」

 レッドブル・ホンダとマックス・フェルスタッペンが、初めてタイトル争いに名乗りを挙げた。長い、長いシーズンの戦いは、まだ始まったばかりだ。