上半身の強化やダイエット、生活習慣病の改善、腰痛・肩こり対策など、「水泳」には様々な効用がある。短時間で高い運動強度を得ることができるので、30~50代の忙しい現役世代にもぴったりのスポーツだ。とはいえ、安全に楽しむためには、年齢に応じた心得も必要だ。スポーツ整形が専門でスイミングにも詳しいDr.KAKUKOスポーツクリニック院長の中村格子医師にお話をうかがった(全3回の2回目/

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へ)。

──30代から50代ぐらいまでの、まだ体がよく動く世代の人は、どれくらいの頻度で、どんな水泳をすればいいでしょうか。

 久しぶりに泳いだら、いきなり長くは泳げませんよね。25メートルで限界という人もいると思うのですが、続けていると徐々に距離も延び、タイムも早くなっていくはずです。家庭でも仕事でも忙しいと思いますので、1、2週間に1回でもいいので、泳いでもらえると嬉しいです。

 ただし、民間のジムはプールのあるところが少なく、みなさん区民プールなど公営のプールに行っておられますが、競泳用の施設だと50メートルの真ん中あたりでは水深が2.5メートルくらいあって、足がつかないんです。25メートルしか泳げないと溺れかねませんから、初心者の方は25メートルの浅いプールを探してください。

 水泳って特殊なスポーツで、泳ぎ方を獲得できる年齢って、わりと若いんです。ですから泳ぎに自信のない人は自力で習得するのは難しいので、最初はプロのインストラクターに泳ぎ方を習ってもいいと思います。自己流で泳ごうとして、なかなか前に進めないとつまらなくなりますので。どの地域にも初心者向けの水泳教室はあると思いますよ。

クロールと平泳ぎ、どちらもできるならば…

──クロールと平泳ぎでは、どちらがいいでしょうか。

 どちらでも得意な泳ぎでかまいません。フォームがきれいでなくても、速く泳げなくても、試合に出るわけではありませんから、気にする必要はありません。ただ、やはり平泳ぎのほうが大胸筋を使いますよね。ですから、どちらも無理なく泳げて、上半身を鍛えたいなら、平泳ぎがいいでしょう。

 ただし、平泳ぎは脚を開いたり閉じたりするので、ひざや股関節の柔らかさが要求されます。ですから、ひざや股関節が痛い人は縦方向のキックをするクロールのほうがいいかもしれません。

 ひざや股関節が痛くてクロールすらできないという人には、ビート板を足に挟んで上半身だけで泳ぐように指導しています。それだけでもやせることができるので、ひざや股関節の負荷が軽減し、痛みの改善が期待できます。それでも痛くて泳げないという人は、プールサイドに座ってキックの練習をするとか、水中でストレッチするくらいに留めたほうがいいでしょう。

できるだけ速く泳いだ方がいい?

──ほかに注意点はありますか? 人によって泳ぐスピードも違うと思うのですが。

 そうそう、一般の人が利用できるプールって、カメさんとか、ウサギさんとか、泳ぐ人の速度によってレーンが分かれていますよね。なのに、カメさんやウォーキング専用のレーンで、全速力で泳ぐ人がいるんです。中高年の中にもいて、マスターズに出る予定なのかもしれないですが、やめてほしいんです。すいているところで思いっきり泳ぎたい気持ちはわかりますが、そういう暴走族のような人がいるプールは行きたくなくなります。自分のペースで、のんびり遠泳したいのに、あおる人がいる。あおり運転は禁止です!

──ほんとうにそうですね。ただ、速く泳いだ方が、運動としては効果的ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 そうですね、速く泳ぐ方が心拍数も運動強度も上がるので、カロリーはより多く消費できます。ですが、中高年の場合は心臓に負担をかけ過ぎないことも大切です。60歳までの場合ですが、最大心拍数の7~8割で運動すると心肺機能が上がり、6~7割で泳ぐと脂肪が燃焼するとされています。ですので、それを目安にスピードや距離を決めるといいと思います。

 そのためにおすすめなのが、アップルウォッチなどスポーツ機能の充実したスマートウォッチです。これまで、水中で心拍数をモニタリングするのは難しいことだったのですが、最近はスマートウォッチの防水機能がすごく高まったので、つけたまま泳ぐことができ、心拍数もちゃんと記録されるんです。ランニングや水泳をしていると、自動的に安静時心拍数や最大心拍数を計算してくれます。

やればやるほど成績も上がると思い込むのは

──時計をつけたまま泳ぐことができるとは。そこまで機能が向上してるんですね。

 とにかく、中高年の水泳で怖いのは「やりすぎ」なんです。とくに中高年になってトライアスロンを始めた人とか、高齢者でマスターズに出ている人は要注意です。試合に向けて練習しすぎるのと、緊張、楽しさ、いろんなことが複合して、負荷をかけ過ぎてしまうきらいがあるんです。

 みなさんのまわりでも、昭和の生まれの人って、やればやるほど自分の成績も上がると思い込んでる人が多くないですか? 練習の後しっかり休みをとらなかったり、仕事のスケジュールが詰まっているのに試合を入れたり、楽しくなっていくつも試合をエントリーしてしまう。ストレスは発散されると思うんですが、知らない間にすごく疲れてしまっていることもよくあるんです。

──それはよくないですね。

 トライアスロンは「スイム(水泳)」「バイク(自転車)」「ラン(マラソン)」の三種目をこなさなければいけません。「鉄人レース」というだけあって、体に大きな負担がかかります。そのため、レース途中で亡くなる人もごくたまにいるのですが、実は死亡事例はランよりもスイムのほうが多いんです。飛び込んで、しばらく泳いでたら、心筋梗塞を起こして浮いてたとか。体調万全で臨んでいても、なにかが起きてしまうことがある。ですから、本当にやり過ぎには注意してほしいんです。

自分がやり過ぎかどうかがわかる数値とは

──自分がやり過ぎかどうか、どうやって調べるんですか。

「心拍変動(Heart Rate Variability)」という数値があり、これも自動計測してくれるスマートウォッチが出ています。HRVは心拍と心拍の間隔の変動のことで、呼気と吸気で差が出てくるんですが、その動きは交感神経と副交感神経からなる自律神経と連動しています。自律神経は血管の収縮や拡張も司っていて、きゅっとしめたりぱっと開いたり、うまく調節してくれているんですが、オーバートレーニングになると、緊張状態のときに働いて、血管を収縮させる交感神経が高ぶってきて、HRVがすごく低い値になってくるんです。ぜひそれをチェックしてください。スマートフォンと連動させれば、自動的に記録されます。

──水泳もほどよい疲れが出るくらいにしておいたほうがいいと言うことですね。

 年を取るほど、それが自分ではわかりにくいんです。これがほどよい疲れなのか、やりすぎてるのか。ですから、スマートウォッチなどを利用して、数値で把握しておくことが大切です。私はアップルウォッチを24時間つけているのですが、何時間で何カロリー消費したか、すべて計算してくれます。しかも水泳なら、平泳ぎをやったとか、クロールをやったとか、背泳ぎをやったとか、腕の振りで判断して、泳ぎ方別に数値を出してくれます。運動が足りてないとか、座り過ぎだとかも、すべてわかるんです。私も自分が設定した目標カロリーを消費して一日を終わるように、運動をがんばっています。

 ちなみに、30代のときは高級なブランド時計を買って粋がっていましたが、自動巻きだと止まってしまうし、時間がずれて合わせなきゃいけない。それに、なんにも計算してくれません。それに比べてアップルウォッチは、ものすごくいろんなことをしてくれます。

 診療中は電話に出られませんが、アップルウォッチをつけていれば、誰から電話があったか知らせてくれる。電車もタクシーも、これをつけていれば乗ることができる。ランニングの時だって、お財布を持っていなくても、電子マネーを使えばこれで飲み物が買えるんです。今までウエストポーチに重たいものを入れて走っていたのが、全部要らなくなった。本当に便利です。中高年で運動をする人には、ほんとうにおすすめです。

──そこまで言われたら、私もアップルウォッチが欲しくなってきました(笑)。

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中村格子なかむらかくこ

Dr.KAKUKOスポーツクリニック院長。1966年生まれ。横浜市立大学医学部卒業。自治医科大学整形外科学講座助教、国立スポーツ科学センター医学研究部研究院などを経て、2014年に東京都渋谷区代官山で開業。スピードスケートや新体操日本代表のチームドクターを歴任。『実はスゴイ! 大人のラジオ体操』や『田中雅美×中村格子の ビューティースイミング』など、美と健康をテーマにしたエクササイズの本を多数出版している。

(「Number Do Ex」鳥集徹 = 文)