eスポーツの世界はファンもプレイヤーも拡大して順風満帆に見えるが、足りていないものもある。その中で忘れられがちだが、重要な要素の1つがカメラマンだ。

 スポーツがより多くの人の心を動かし記憶に残るうえで、写真の持つ力は大きい。優れた写真は目に入った一瞬でその競技や人物の魅力を伝えることができる。動画のように再生ボタンを押す必要もなく、一瞬でだ。

 つまり競技の魅力や文法を知り尽くしたカメラマンがいることは、その競技が成長するうえで大きな力になる。

 その意味で、モータースポーツを題材にした『グランツーリスモ SPORT』は大きなアドバンテージを手に入れたと言えるだろう。

『グランツーリスモ SPORT』の撮影陣に、夏冬のオリンピックやF1界で25年以上のキャリアを持つトップカメラマン、クライブ・ローズ氏が加わったからだ。彼が所属するGetty Imagesは『League of Legends』などの人気eスポーツとも提携する、世界最大のフォトエージェンシーだ。

「僕はアイルトン・セナが亡くなった1994年にF1を撮りはじめて、それから世界中のサーキットを回り続けています。カメラマンになる前は本当はドライバーになりたかったけれど残念ながらその才能はなくて、それでもモータースポーツに関わるのを諦めたくなかった。それなら、誰よりもかっこいい写真を撮るカメラマンになりたいなと思ったんですよ」

なんとかして人と違う写真を。

 実はモータースポーツはスポーツの中でも、固有の難しさを抱えている。選手の顔はヘルメットで見えないし、静止画の中に”スピード”は存在しない。それでもローズ氏がトップカメラマンと呼ばれるのは、彼がモータースポーツ写真の常識を更新してきたからだ。

「F1では毎年同じサーキットの大体同じカメラポジションへ行くことになるけれど、いつもと同じ写真を撮っても仕方ない。ポジション、角度、それにカメラやレンズの種類を変えることで写真は全然違うものにできる。そうやって、なんとかして去年の自分と違う写真を撮ってきたんだ。

 中でも大切なのは、サーキットを調べること。たとえば日本の鈴鹿は、晴れた夕方には信じられないくらい美しい写真が撮れるけど、それには時間や天気、機材のセッティングを知り尽くしていることが必要なんだ。だから毎年日本へ行く数週間前からずっと天気予報を見てるんだよ(笑)。今年は日本GPがなくて本当に残念だね」

「車ってこんな風にも見えるんだ」

 今でも、リアルレースの撮影について「やり尽くした」感覚はないとローズ氏は話す。それでも『グランツーリスモ』の撮影の話が来た時には、迷わず引き受けたという。

「ゲームの中でカーレースを撮影するなら僕が世界で一番の適任者なんじゃないか、って思ったんだ(笑)。レースゲームは昔から興味を持ってきたけど今は映像がリアルで、コースもレーザーでスキャンしたと聞いて驚いたよ。あとは太陽の位置、光の反射の再現度が本当にすごい。僕が25年撮り続けてきたサーキットが忠実に再現されているんだ」

 映像技術の進化はいちじるしく、『グランツーリスモ』の映像を現実のカーレースと区別するのはぱっと見では難しいレベルに達している。

 ただ1つ気になるのが“リアルすぎる”ことで、「それならゲーム内で撮影する必要がないのでは」という風になってしまわないかということだ。

 そんな疑問を伝えると、クライブ氏はニヤリと笑った。

「そう、まさにそうなんですよ。今はみんなの興味が『こんなにリアルで、現実のレースと同じ写真になるよ!』って、いかに現実っぽい写真を撮るかに向いている。

 でもゲームの中では、カメラをコースの真ん中に置くことだってできるし、レース中のボディやタイヤにギリギリまで近づける。現実のレースでは絶対に不可能なことが色々できるんだから、これまでと同じ写真を撮るだけじゃ意味がない。僕は今まさにそれを探している途中で、『車ってこんな風にも見えるんだ』という新しい写真の可能性を日々発見している。逆に最近は、リアルのサーキットへ行くと撮影手段が限られていてフラストレーションを感じることもあるくらいだよ」

「よくある報道写真」以上のものを。

 技術の進歩が勝負を分けるモータースポーツの世界と同じように、スポーツ写真も日々進化している。「よくある報道写真」を抑えるだけでは、ファンはあっという間にその怠惰を見抜いてしまうのだ。

「僕らのような現実のレースを撮ってきた人間には、アドバンテージもあるけれど実はハンデもある。伝統的な写真の撮り方、美学が染み付いているからね。

 だから逆に、レースカメラマンにとってバーチャルでの撮影は必須のスキルになっていくだろうと思っている。バーチャルでの試行錯誤がリアルレースの撮影方法のヒントになるし、新しい“かっこよさ”が生まれてくる。だから僕はリアルとゲーム両方のサーキットで撮影していくし、それが新しい写真を発明する近道だと思うんだよね」

リアルとeスポーツ、どっちに……?

 インタビューの最後に、ローズ氏に1つ意地悪な質問をしてみた。あなたの写真を見てかっこいいと思った人に、リアルレースとeスポーツのどちらに興味を持って欲しいですか? と。

「僕はF1に憧れる子供だったから、やっぱり実際に車を運転することに興味を持って欲しい気持ちはある。ゲームの映像と音は本当にリアルだけど、僕はサーキットの匂いも好きなんだよね。エンジンの匂い、タイヤが焼ける匂い……嗅覚で感じるものはモータースポーツの魅力の1つだから。

 でも鈴鹿のようなサーキットを実際に走れる人はほとんどいないのも事実で、コースを自分で走れる点では、eスポーツが完全に勝っている。写真の可能性も、まだ開拓されていない要素が多いのはeスポーツの方だと思う。

 だから……両方に興味を持って欲しいっていうのはダメかな?(笑)」

(「eスポーツは黒船となるか」八木葱 = 文)