背番号7にボールが集まる。巧みなトラップで足元に収めると、周りを見てテンポよくパスを散らす。左右の足で苦もなくボールを捌くその姿は、まさしくチームの中心と呼ぶに相応しかった。

 ついに再開をしたJ2リーグ。ザスパクサツ群馬vs.水戸ホーリーホックの一戦で、ゲームを巧みにコントロールした水戸MF山田康太のプレーに目を奪われた。

 小学校3年生のころから下部組織で育ち、“ハマのプリンス”として愛された横浜F・マリノスを離れたのは、昨年8月のこと。名古屋グランパスに期限付き移籍、そしてプロ3年目となる今季は、またも期限付き移籍で水戸にやってきた。いわゆる武者修行中である。

 この日も4-4-2のダブルボランチの一角として出場。時間は空いたが開幕戦から2試合連続スタメンとなった。

4カ月ぶりの実戦、頭の中は冷静。

「もう一度、開幕戦を戦っているような感覚でしたね。(開幕戦の)大宮アルディージャ戦も待ち望んだ試合でしたが、(群馬戦でも)最初は緊張というか、硬さがありました」

 実に4カ月ぶりの公式戦。胸の高鳴りはなかなか収まらなかった。しかし、山田の頭の中は非常に冷静だった。

「群馬は僕たちと同じ4-4-2なので、ボールを動かしづらい展開になると思っていました。そうなると攻撃の部分で(ボールを)変な取られ方をしたり、相手が勢いに乗ってしまうような取られ方をしてしまうのが怖かったし、相手に『自分たちの守備がハマっている』と思わせるのも嫌だなと思った。相手が活気づくようなプレーをさせてはいけないと思っていたので、この試合ではフィニッシュに絡むの仕事よりも、ビルドアップのところに専念した。失点のリスクを減らし、攻撃の起点にもなる中盤のリンクマンの仕事に徹しようと思いました」

黒子に徹し、相手の心理を読みながら。

 確かに山田は、この試合では完全に「黒子」に徹していた。大宮戦では積極的にアタッキングエリアに顔を出し、同点となる今季初ゴールを叩き出していた。だが、群馬戦は大宮戦で見せた攻撃的なスプリントを封印。中盤で首を何度も振って周りの状況を確認しながら、間のスペースに頻繁に顔を出してボールを受け、ダイレクトパスやゆっくりとしたボールキープからの長短のパスを駆使し、チームのパス回しに緩急を加えた。

「いざ試合が始まってみると想定していた通りだったし、群馬(正田醤油スタジアム群馬)は湿度が高くて暑かったので、ボールを動かされる方は運動量が落ちていくと思っていました。再開後1試合目で、自分を含めて、ピッチに立つ全員が体力面で不安を抱えている状態での試合だと思ったからこそ、そこで優位に立つことに徹しようと途中で意思決定をして、タスクを黙々とこなしました」

 前半1度目の給水タイムではCB細川淳矢にポジショニングや連携面での確認を取った。自らの意思とチームとしての戦い方をリンクさせた山田の狙い通り、ゲームは徐々に水戸のペースとなっていく。

相手を手玉に取った山田の“緩急”。

 34分に右CKからFW中山仁斗のゴールで先制をすると、後半はタイミングを見て攻撃のスプリントを繰り出すようになった。

 64分には、最終ラインでのゆっくりとしたポゼッションにポジションを落として加わると、左サイドのDF前嶋洋太にパスが入った瞬間、前に走り出しながら両手を上げて縦パスを要求。このタイミングではパスは来なかったが、再びポジションを取り直すと、MF木村祐志からのバックパスが最終ラインに落ちていたボランチの安東輝に渡った瞬間、クサビのボールを呼び込んだ。

「あのシーンは相手も『またゆっくりと回してくる』と思っていたシーンだったので、そこで僕が緩急のをつけて崩そうと思っていた。輝くんにボールが渡る前に周りを見たらマークが完全に外れていたので、パスを要求してすぐに縦に仕掛けようと思っていた」

 正確なファーストタッチで素早く前を向いた山田に、完全に群馬の対応が遅れた。スペースに運ぶと、ファーサイドでフリーになっている中山の姿を捉えた。

「変にライナーで蹴って、中山くんの手前にいたDFに引っかかってカウンターを受けると危険だと思ったので、浮かせるボールを選択しました」

 左足ですくい上げるようにアーリークロスを送り込んだ。中山の右足ボレーはミートし切れず、ゴールを捉えられなかったが、まさに“緩急”で相手を手玉に取った。

喜びを爆発させた背番号7。

 67分には守備でも見せる。CKの崩れから群馬のMF田中稔也が左サイドから放った強シュートを、身を挺してブロック。ゲームを作るだけでなく、気迫のディフェンスで同点を許さなかった。

 71分、中山がこの日2点目を決めたが、この推進力ある攻撃の起点になったのも山田だった。相手のクリアボールに反応し、マイボールにした味方に素早くサポートに入ってボールを受け、再攻撃につなげた。

 終盤に追加点を奪った水戸は、試合終了間際に1点こそ返されたが、3-1で今季初勝利。フルタイムピッチに立った「背番号7」はタイムアップの瞬間に喜びを爆発させた。

「個人的にはまだ体の重さはありますが、全体的にはボールを保持できたし、相手の足を止めることができたので、得策を選べたかなと思います」

 コンディションは万全ではなかったが、その分、頭をフルに使った効果的なプレーでチームに勝ち点3を引き寄せた。

見つめ直すことができた中断期間。

「今、どうやったら自分とチームがうまくいくかを考えながらやれています。それにやっぱりサッカーができて嬉しいのが正直な気持ちで、プレーのしんどさ、疲れすらもサッカーで得たものなので楽しいんです。きつい練習をみんなで乗り越えて、それを試合を通してみんなで発揮する。このサイクルがどれだけ幸せなことかを再認識しました。初心というか、当たり前だと思っていたことが本当に素晴らしいことだったんだって。

 それに水戸は『Make Value Project(MVP)』など、さまざまなサッカー外のアプローチをしてくれるので、中断期間に自分がサッカーをやり続けている意味をじっくり考えることができたし、自分を見つめ直すことができた。それを通して今まで見えなかった人の顔が見えるようになって、自分はいろんな人に支えられてサッカーができているんだ、ピッチに立つ責任ってこういうことなんだと学ぶことができた。そういう部分を含めて今は純粋にサッカーに向き合えています」

 実は今年の3月にも、彼にインタビューをする機会があった。その時、彼の話の中に「マリノス」という言葉がたくさん出てきた。もちろん彼は覚悟を持って水戸にやってきたことは間違いないのだが、言葉の端々に「マリノスの選手である自分」が見え隠れした。だが、群馬戦の彼のプレーは完全に水戸ホーリーホックの選手としての誇り高き姿を見せていた。

「マリノスが好き」は変わりません。

「マリノスが好きなチームであることは一生変わりません。正直名古屋にいた時も、水戸に来てからも、つい最近までも、『マリノスプライド』が残っていたのは事実です。でも、群馬戦の前日ミーティングで強化部の西村(卓朗)さんに『応援してくれる人たち、スポンサーの人たちのためにも必ず勝ってほしい』と伝えられて、『自分たちだけで水戸が成り立っているのではない』という気持ちにさせてもらった。試合までまだ1日あったにも関わらず、自分の中で気持ちが昂ったんです。

 試合当日もウォーミングアップで音楽をかけながらみんなで気持ちを高めて試合に向かって行ったシーンで胸が熱くなりました。(前述の)シュートブロックのシーンも秋葉(忠宏)監督がよく口にする『水戸のDNA』が咄嗟に出たんです。秋葉監督から常に『最後のところで身体を張る、走りきるガムシャラさを持たないと、絶対に上にはいけないチームだ』と言われているので、それが染み込んできたのかなと感じたんです」

「1つにまとまれたような気がした」

 この勝利は山田康太にとって、ただの1勝ではなかった。

「勝利してロッカールームに帰ってきて、みんなで喜びを爆発させた光景を見て、本当に心が震えたというか。まだ、たった1勝ですが、本当に『なんて素晴らしいチームなんだ』って感動したんです。ああやって純粋に勝利を喜べて、水戸というチームがまた1つにまとまれたような気がしたんです。

 ピッチ外の取り組みも含め、『このチームは本気で上を目指しているんだ』というのを日に日に強く感じるので、物凄くやりがいのあるシーズンになるという確信を持っています。この1年で自分が相当伸びるんじゃないかという期待があります。変なプライドは全て消えました。今は純粋に水戸の一員として真っ直ぐに戦いたいです」

 プロ3年目。改めてプロとしてのあり方、そしてやりがいを本当の意味で手にしたのだろう。それは成長への切符であり、未来を切り開くために重要な時間を過ごしている証拠でもある。誰のものでもない、サッカーにまっすぐ向き合う「プリンス」の姿から目を離せない。

(「“ユース教授”のサッカージャーナル」安藤隆人 = 文)