<ぜじんの目>

Jリーグの芝に再びボールが転がり出しました。当たり前だったサッカーのある生活は新型コロナウイルスに奪われてきましたが、週末には4カ月ぶりにJ1も戻ります。日刊スポーツでは毎週月曜日に担当記者、識者らによる、サッカーやJリーグの独自コラムをお届けします。初回はサッカー担当歴23年目の記者、盧載鎭(ノ・ゼジン)による「ぜじんの目」です。

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サッカーを担当して23年。最も記憶に残る言葉がある。「うちの冷蔵庫にはカズさんの写真が貼ってあるんです」。個人的に、歴代最強センターバックだと思っている、松田直樹さんの言葉だ。高いフィジカル、熱いハート、リーダーの自覚、大胆な駆け引き、足元の繊細さと柔軟なキックなど、中央DFとして必要なものは、ほとんどそろえていた。ただ唯一、若い時はメンタルが、他の能力には追いつかなかった。

松田さんが横浜F・マリノスに所属していた99年、高校3年で、のちに日本代表になったある有望選手が練習参加した際の一幕。練習前の軽いランニング中に「今日はどこに遊びに行こうか?」の声が聞こえてきたという。選手らの“夜の街会話”はランニング中に続き「このチームと契約するのはやめよう」と思ったという。その会話の中には松田さんがいた。松田さんはサッカーが大好きだったが、夜遊びも好きだった。

色白で筋肉質のイメージがあるが、実は太りやすいタイプだ。食べるのが大好きで「高校時代は落ちたものも普通に拾って食べてました。まあ、今でもそうだけどね」というくらい“3秒ルール”の実践者だった。つまみ食いも好きで、家の冷蔵庫には甘いおやつなどが必ず入っている。「このままじゃオレはサッカーをやめないといけなくなる」。極限まで自分を鍛えるカズの写真を冷蔵庫のドアに貼り、ためらいながら冷蔵庫のドアを開ける日々。自然とベスト体重を維持できた。

「なんかつまみたい時、寝る前に小腹がすいた時、冷蔵庫の前でカズさんの写真をみて、我慢している。オレは家族を守らないといけないし、その唯一の手段がサッカーだからね」。02年ワールドカップ(W杯)日韓大会の年、色紙に好きな言葉を書いてもらった。考え込んでから書いた選手が多かったが、彼はためらいなくペンを走らせた。

「家族」。夜遊びをやめ、好きなおやつを断ったのは、家族のため。その心の財産を残し、11年8月の練習中に34歳の若さで急に逝ってしまったことは、無念でならない。20年ぶりに、本棚にしまっておいた色紙を取り出した。彼の筆跡には優しさと力強さを感じた。

生きているなら43歳。サッカー選手としては全盛期を過ぎたはずの年齢だが、松田さんは引退しなかったと思う。横浜から松本山雅FCへ移籍した際、松田さんは言った。「カズさんがやめない限り、やめない」。J2松本を再びJ1舞台へ戻すため4カ月ぶりのピッチに立っていたはずだ。

あこがれのカズはJ1再開、4日の札幌戦を控えている。カズは「ゴールを決めたら1人カズダンスを踊る」と宣言した。個人的には、ぜひゴールを決めてほしい。そして天に向かって右手人さし指を高く突き上げてほしい。その指した先には松田さんがほほ笑んでる-。私はそう信じている。【盧載鎭】

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、ソウル生まれ。88年来日、96年入社と同時にサッカー担当。2年間は相撲担当。サッカーにかかわって23年目に突入。