リール、リヨン、シャルケ、ローマなどを歴戦して昨年引退したブラジル人MFミシェル・バストスが、「脱税」および「脱税マネーローンダリング」の容疑で取り調べを受けていることが判明。その原因となった「呪われた館」が話題を呼んでいる。

 問題の館はリヨン近郊の閑静な住宅地にある。リールからリヨンに移籍してしばらくした2010年、バストスは妻の夢だったプールつき邸宅を77万ユーロ(約1億円)で購入。居住スペースは300平方メートルあり、映画鑑賞ルームを備え、さらに20万ユーロ(約2500万円)も投入して豪華なリフォーム工事をした。

 幸福をつかんでいたはずの2012年、バストスは在宅中に妻、息子とともに強盗に襲われてしまう。強盗は家主の頭に武器を突きつけて脅したという。その後、元ブラジル代表MFはシャルケにレンタルされ、複数のクラブを転々とし、この邸宅に住まなくなってしまった。

 代理人によると、バストスは当初、リヨンの選手に貸し出したいと思っていたようだ。しかし、「強盗に入られた館」という理由で、クラブは他選手に勧めるのを拒否。バストス自身も忘れられてしまい、2014年夏にはついにフランスにも正式に別れを告げた。


 こうして空き家となった屋敷には、ホームレスやごろつきが入り込むようになり、あちこちが破壊され、1日置きにアラームがけたたましく鳴り響き、夏には若者たちがプールに集まって騒ぐようになった。近所からの苦情も絶えなかった。

 バストスはフランス税務当局に負債があり、2016年には「3か月以内に家を売却せよ」との命令も出た。だが、バストスは何とか別途負債を返却し、ゆっくり家を売却する猶予を得た。ところが、なかなか買手がつかなかった。

 2017年7月、「リヨンで働いていた」という何人かの紹介で、代理人がある人物と接触。この人物は42万ユーロ(約5300万円)で邸宅を購入したという。購入者は代理人に16万ユーロ(約2000万円)を2回に分けて札束で渡し、現金は代理人の手で、スイスにいるバストスの口座に入金されたという。

 邸宅の当時の推定価格は90万ユーロ(約1億1250万円)だったというから、かなりの安売りである。バストスは「(売りに出したとき)値段をつけても、みんな高すぎると感じていた。みんながいわくつきの家だと知っていたからなんだ。…あの家はとにかく早く売ってしまいたかった」(『L’EQUIPE』紙)と語り、他意はなかったと強調している。

 多額の現金が動いたことについて、代理人は「現金のやりとりが大きな場を占めているブラジルで生まれ育ったから、あまりショックは受けなかった。もしフランスの教育を受けていたら、もっとショックだったかもしれない」と弁明した。

 だが、決定的な問題は、邸宅を購入したその人物が、大がかりな麻薬の取引に関わっていたことだ。

 2018年10月にはリヨン警察署がこの人物「TH」と共犯を疑われるふたりを捜査し、その一環で元バストス邸を家宅捜索。すると2階の映画鑑賞ルーム内の一カ所で、麻薬捜査犬がピタリと止まった。そこにはスポーツバッグがあり、開けると中から25万2650ユーロ(約3200万円)もの現金の山が出てきたという。

 さらにワインカーヴには、超高級シャンパーニュ(シャンペン)が数十ボトルあった。しかも同日、「TH」がアジトとして使用していたらしいリヨン市内の別のマンションで、36キロものコカインと拳銃6丁が押収されたのだった。

 報道によると、「TH」と共犯者たちはドローム県やグルノーブル郊外に怪しい夜間移動を行なっており、共犯者とされる人物は、マルセイユにも出向いて有名ギャングに会っていたという。このため当局は、彼らが大がかりなコカイン輸送を担当していたと睨んで捜査を詰めている。バストスと代理人は、これに関与していた可能性を含めて、取り調べられているようだ。

 捜査対象となったふたりの弁護士は、「ミシェル・バストスはブラジル市民であり、スイスの口座も祖国で申告されている」「したがってブラジル税務当局とは法に適った関係にある。彼も彼の代理人も、あの家の購入に麻薬取引に由来する金が絡んでいたらしいなどという点については、いかなる情報も持っていなかった」と表明。相手の素性を知らずに売ったと強調している。

 はたして、バストスと代理人は、本当に何も知らずに家を売り急いだだけなのか? それとも何となく黒いカネを予想しつつも、とにかく現金収入が欲しくて売ったのか? はたまた本格的に麻薬絡みの黒いカネを白くするマネーローンダリングに関わったのか?

 いずれにせよバストスは、「呪われた館」にしばらく苦しめられそうな気配だ。

 フランスでは、現金の所持そのものは違法ではなく、限度額もない。ただし、申告されていない現金や出どころを証明できない現金の所持は違法であり、脱税やマネーローンダリングの容疑対象となる。

 また、不動産売買の現金取引限度額は3000ユーロ(約37万5000円)。それも全て公証人を通じて証明されねばならず、納税の対象だ。16万ユーロもの現金を2回にわたってこっそり受領した場合は違法となる。

 大金を稼ぐフットボーラーには魑魅魍魎(ちみもうりょう)がすり寄りやすい。かくして、バストス夫人の夢は、いつしか恐ろしい悪夢に変貌してしまったのだった。

取材・文●結城麻里
text by Marie YUUKI)