受験にひびくかも――。今夏の香川県の独自大会の日程が発表されると、高松高校(高松市)野球部の3年生部員の多くはそう思った。県内有数の進学校で全員が進学志望だが、大会は8月半ばまで続き、勝ち進めばそれだけ勉強に影響するかも知れない。でも、引退を選んだ部員はいなかった。目標は先輩が目前で果たせなかった「優勝」だ。

 18日午後5時、野球部員が練習するグラウンドには3年生9人のうち4人の姿しかなかった。この日は校内模試があり、理系クラスの部員は直前まで数学の試験を受けていた。間もなく全員がそろい、打撃練習や筋トレに汗を流した。

 平日の練習時間は約2~3時間。学習塾に通う部員もいる。時間が限られる分、効率を上げるため週ごとのミーティングで練習内容を細かく決める。

 一昨年夏の第100回全国高校野球選手権記念香川大会で、同校は64年ぶりに決勝に進出。「甲子園」にあと一歩まで迫ったが、丸亀城西に4―9で敗れた。

 この時、1年生だったのが今の3年生だ。スタンドで先輩に声援を送り続けた主将で内野手の坂上晶亮君は「僕たちでも甲子園に行けるかもしれない。本気で行きたいと思った」と振り返る。

 以来、誰よりも大きな声を出し、仲間とコミュニケーションを取るよう心がけてきた。昨夏の香川大会は初戦で敗退。新チーム結成後の最初のミーティングで、石田茂登監督(51)から主将に指名された。秋季四国地区高校野球県大会で初戦敗退に終わると、練習に一層熱が入った。

 今年3月から新型コロナウイルス対策で休校になり、部活動も中断したが、自宅でキャッチボールや筋トレを重ねた。しかし、5月、今夏の選手権大会の中止が決まった。致し方ないと思いながらも「甲子園」という目標を失い、落ち込んだ。

 同月末の分散登校の日。石田監督は3年生の部員を集めてミーティングを開いた。「もし引退したければ、後で個人的に教えてくれ」。部活を続けるか、勉強に専念するか、各自の判断に委ねようと考えた。

 6月初め、県の大会開催が正式に決まった。例年の香川大会は7月中に終わるが、今夏の大会は7月23日に開幕し、8月中旬まで続く。一方、学校の授業は8月7日まである。野球と勉強。先輩たちよりも厳しい両立を迫られる。

 坂上君は国立大の獣医学部を志望している。小学生のとき、車にはねられ大ケガを負った野良猫を飼っていたが、面倒をみてくれた獣医師に憧れた。

 準備が必要な科目は多いが、野球に打ち込めばその分、勉強時間は減る。でも、学校の本格再開とともに久々に仲間と練習をしていると、楽しくてたまらない。「最後までやり切らないと未練が残り、勉強にも集中できない」

 ほかの仲間も思いは同じだった。投手の佐藤浩太郎君は大会がなかったら引退していたかもしれないと話す。「練習の成果を発揮する場を設けてもらい、感謝の気持ちでいっぱいです」

 3年生9人の目標は一致している。香川の頂点だ。坂上君は「少しでも長くみんなと野球ができるよう、一戦必勝で臨む」と話す。2年前の夏、スタンドから見つめた先輩たちを超えるべく、最後の夏に挑む。(平岡春人)