6月19日、開幕戦の東京ドーム、巨人阪神戦。

 巨人の7回の攻撃で、先頭の代打・石川慎吾がライト前に弾き返して無死一塁を作る。

 ここで投手・菅野智之の代打に、プロ3年目の内野手・湯浅大(20歳・172cm70kg・右投右打・健大高崎高)が起用された。

 1点リードされて終盤7回なら、死んでも進めろ! のプレッシャーMAXの場面だ。

 送りバントなら、田中俊太に北村拓己……アマチュア時代から場数を踏んだ先輩たちも控えていたはず。そこで「湯浅」なのだから、この一軍初体験のハタチの若者、よほどベンチの信頼を得ているのだろう。

 リリーフ代わりばなの左腕・岩崎優から、ピシャリときめてみせた送りバントが見事だった。

 右ヒザを地面につけるほど低く構えると、バットと目を同じ高さにしてボールを殺した。ミートポイントと顔面がすぐそこの、王道の送りバントだ。

 足のある石川が二塁に進んで、左腕・岩崎のセットポジションの視野から消える。背中のモヤモヤ感が打者に対する集中力を半減させたのか、4球続けた「内角」の4球目がわずかに中に入ったところを、1番・吉川尚輝が絶妙のバットさばきでライトスタンドに持っていった。

高校1年から守備は抜群だった。

 この逆転弾でそのまま3-2で逃げ切り、まず開幕戦で「先手」を奪った巨人。

 時間をかけずに「1死二塁」を作り、攻めにスピード感と勢いを加えた湯浅大の「つなぎ」は、間違いなく殊勲の働きだった。

 湯浅大の野球上手ぶりは高校入学前から耳にしていたが、実際、1年秋から健大高崎のレギュラーとしてのプレーを見た時は驚いた。

 とりわけ、そのフィールディングだ。高校生であんなに上手いヤツ見たことない。打球によって自分の動きの強弱・緩急を使い分け、確かなプレーもアクロバチック系も、なんでもこなす「スーパーショート」だと驚いた。

スピードと“おとぼけ感”の見事さ。

 湯浅が打球を追うのではない。ゴロのほうから湯浅にすり寄ってくるように見える打球の合わせ方。

 シートノックから始まって実戦の最後まで、一塁送球も併殺プレーも、カットプレーのロングのスローイングに至るまで、すべてストライクスロー。

 二盗阻止で高く抜けてしまった捕手の送球をジャンプ一番、グラブを放り投げるようにして捕球すると、それだけじゃない。滑り込んでくるランナーの足元にちゃんと下りてくるから、捕手のスローイングミスもアウトに持ち込む。

 ランナーが二塁に進むとまた面白い。深く守ってノーマークのふりをしておいて、一転センター方向に大きめにふくらみながら、二塁ベース真後ろから入って牽制球でランナーを刺す時の、アッと驚くスピードと“おとぼけ感”のメリハリの見事さ。

 このショートにしかできない、文字通りの「パフォーマンス」を何度も楽しませてもらったものだ。

バッティングはちょっと心配していた。

 そんなスーパーショート・湯浅大がプロ3年目のこの春、ちょっと心配していた「バッティング」で台頭してきたから、またまた驚いた。

 1年目のイースタンは打率0.133。2年目の昨シーズンは0.240と一気に数字を伸ばしたとはいえ、あくまで「ファーム」でのことだ。

 練習試合が再開された6月7~10日の3試合で、10打数6安打7打点のなんと6割。ホームランも2本放って、中でもヤクルト期待の左腕・高橋奎二から東京ドームのレフト上段に放り込んだ一弾などは、打った瞬間! の大アーチだったと聞いている。

 二、三塁の二塁ランナーになると、すぐさま大きなリードをとって牽制球をもらい、三塁ランナーのホーム突入をうながす陽動作戦。当時、母校・健大高崎のスローガンだった「機動破壊」を地でいくようなアクション。動きのスピード以上に、2次リードをサッと大きくとるタイミングがすばらしかった。

出場機会さえあれば、絶対に伸びる。

 高校3年春のセンバツ前に右手首骨折。このケガは湯浅にとって痛かった。

 何事もなく、3年の春から夏にかけて飛び抜けた野球センスを実戦の舞台で披露し続けていれば、「ドラフト8位」なんてことはなかった選手だ。 夏の予選にはなんとか間に合わせたが、追いかけている球団は巨人のほか、あと1つ2つだった。

 突き抜けたセンスを持った人間は、高いレベルに置くほど、さらに輝きを増す。野球の世界に限らず、世の中一般に通ずる絶対共通項と考えている。

 西武・源田壮亮内野手がプロ入りした頃、彼をこれぐらい褒めちぎった時に、みんなからキョトンとされてしまったのだが、この湯浅大だってレギュラーで使われれば、そう時間をかけずに名手・源田壮亮と肩を並べるほどの「守備名人」になれる。私は、勝手にそう踏んでいるのだが、さてどういうことになるか。

才能の重複が……いかにも惜しい。

 そのために、巨人にいるのがベストかどうかは難しいところだ。

 なんてったって、レギュラーショート・坂本勇人は押しも押されもせぬ「ナショナルフラッグ」である。脂の乗りきった今年31歳、まだ3年や4年は元気なはずだ。抜くとか、追いつくとかいう言い方は、あまりに失礼であろう。

 二塁手には、「リードオフマン」を期待されている吉川尚輝が頭角を現わしつつある。

 となれば湯浅大ファンとして期待するのは、こんなことを言うとまた怒られそうだが、早めの「トレード」。これに尽きる。

 ショートのレギュラーがはっきりしない楽天なのか、日本ハムなのか……。

 先方にも、オコエ瑠偉や清宮幸太郎と、環境の変化で劇的な“化学変化”を起こしそうな新鋭がいる。

「暴言」と笑われるのを承知でこうまで言いきるのは、才能の重複がいかにも勿体ないからだ。

 才能の重複……確かに、それがプロの世界で他チームに差をつける重要な手段の1つなのはわかるが、湯浅大ほどの“才”を持てる力量の半分ほどしか見られないのは、あまりにも惜しい。

 西武・奈良原浩、ロッテ・小坂誠、阪神・久慈照嘉に広島・梵英心。重なる「守備名人」は何人も浮かぶ。高いレベルの実戦でセンスと技を磨いていけば、偉大な先輩たちと肩を並べられるほどの素質は保証しよう。

 もちろん、湯浅が巨人で活躍してくれるならそれだって大歓迎だ。

 5年後の「レギュラー・湯浅大」を見てみたい。

(「マスクの窓から野球を見れば」安倍昌彦 = 文)