2015年シーズン以来のJ1の舞台を目指すモンテディオ山形は、石丸清隆新監督を迎え、新たなシーズンに臨んだ。「前進」をスローガンとするチームは今季、いかなる戦いを見せるのか。
 今回、サッカーダイジェストもその一員を成す「DAZN Jリーグ推進委員会」では、「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE - 」と称して、各クラブ関係者へのインタビューを実施。山形では、就任2年目の相田健太郎社長にクラブへの想いやシーズン再開への心境などについて語ってもらった。

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 モンテディオ山形の相田健太郎社長は2019年より、株式会社化した後、民間企業出身者として初めてクラブ社長に就任した人物だ。毎日コムネットからJ2水戸ホーリーホック、プロ野球楽天イーグルスの運営会社である「楽天野球団」を経て、2017年からはヴィッセル神戸で強化部長兼スカウト部長、戦略室長兼アカデミー部長と重職を歴任。プロスポーツビジネスの世界を渡り歩いてきた。

 その手腕は就任1年目から発揮されている。昨年の1試合平均観客数は、J2リーグ在籍時におけるクラブ過去最高(8,289人)を記録。チーム内からは「今までにないくらいのスピードでいろんなことが変わっている」(山田拓巳キャプテン)と声が上がるほど、クラブ改革は様々な面に及んでいるようだ。

就任2年目を迎えた今季、図らずも直面したコロナ危機。相田社長はリーグ再開をどのような心境で迎えようとしているのか。

――ようやくリーグも再開されようとしていますが、自粛期間中にファンの方々からはどのような声をもらいましたか?

 やはり一番は「試合が見られなくて残念です」という反応で、あとは「病気にかからないように気を付けてください」という声を多くいただきました。あとは地域の医療従事者の方々に向けてこんなことをやりませんかなど、色々なご意見などもいただきました。ただし、そこについては素人の私たちが何かをやるのではなく、すでに関わっている方々の応援に徹する形をとらせていただきました。やはり、なんと言っても「試合が見たい」というのが一番。本当に、それは強く感じました。

――クラブ経営に関わるスポンサー企業の動向も気になったのでは?

 スポンサー企業の皆様は基本的にあまり気にせず、頑張れと言っていただいたところが多く、ご協賛を見送られたり、減額のご相談をいただいたところがほとんどありませんでした。「やめるなんて考えないから、再開したらちゃんと地域のために頑張ることをしっかり考えてほしい」というふうに言っていただいて、こちらが「何かお返しに」と言えば、「それは考えてくれたらいいけど……」とおっしゃっていただきました。土地柄もあるかもしれませんが、色々とイメージしていた反応とは違ったので、本当に嬉しいことでした。

――こうしたファンやスポンサー企業からの声に、社長ご自身はどういった想いを抱かれましたか?

 もう、純粋にありがたかったですね。ひとつ思ったのは、僕は野球の世界に10年半いたのですが、サッカーの協賛企業は野球に比べて想いの方が強いのかもしれないと感じるところがあって。野球は意外とドライな時が多いような気がします。野球は娯楽性が強いというか、競技に対する執着よりもけっこうみんなライトで浅く広く。一方でサッカーはどちらかというとホームタウンを見ることが多いので、狭くて深い。だから、サポーターという文化があると思うんですけど、今回のコロナ禍ではそうした文化にすごく救われたと感じています。また、今後通常下でさらにファンを増やしていくとなった時には、気軽にスタジアムに足を運んでいただける方々が増えるように、広く見る必要も当然あるので、その時は働きかけていけるようにしたいです。

――社会では新しい生活様式が求められる中で、スポーツイベントにも新たな対応が求められますね。

 まずはJリーグから出ているプロトコルに従って、運営や広報、売店回りも含めて実際やってみないと、何が良くて、何が不要、もしくは見直す必要があるというのは見えてこないと思っています。お客様の入場も、政府が7月10日からとは言っているものの、リーグとしてまだ最終決定をしているわけではないし、やはり実際に再開してみないと分からないというのが今の状況かなと思います。まずは今考えられることをやっています。

――ただし、リモートマッチ(無観客試合)、観客の人数制限といった制約がある中でも、サッカーの魅力を発信していかなくてはなりません。

 そうですね。今回、私は案外チャンスだと思っていて。我々は山形県全域をホームタウンとはしているものの、実際来ている方の大半は山形市とスタジアムのある天童市の方々になっています。庄内地域の酒田や鶴岡からも来ている方はいますが、その数はイメージしている数よりも微々たるもので、県外も含めて幅広くファンを取り込むことを考えると、無観客・リモートで何ができるかというのはすごく大事だと思います。それをマネタイズ(収益化)できるところまでできれば、通常下でもそれを続けていくことによって別の収益が見込めるので、そこはしっかりやっていきたいですね。

 今後、他のクラブもそうしたことを進めていくでしょうし、19日からはプロ野球も開幕するので(※インタビューは6月17日に実施)、他の様子も見ながら、どういうやり方がいいのか考えていかなければなりません。ライブ感を伝えるというのが今までの興行の一番の魅力だったわけですが、それができるまでには時間がまだかかると思います。昨年のような興行ができるまでには、なんとかリモートでの発信が形になるようにはしたいですね。

――新型コロナの影響による中断期間でクラブの選手、スタッフとはどんな話をされたのですか?

 たしか首都圏に緊急事態宣言が出る直前の4月5日に活動を止めて、練習をやめたんです。その日に何人かの選手と監督・コーチ、強化部のスタッフと、「この状況でどうしましょう」と話をした時に、「色々と大事なことはあるけれど、命あってなので、まずは感染しない努力をすることを優先しましょう」ということになって。まだその時はどんな病気なのかも分かっていないし、どうやら感染するリスクが高そうだということで、じゃあ一回止めようということにしました。

 結構厳しくやっていて、まず日常の買い物はしょうがないにしても、基本は自宅にいること。グランドも締めてしまったので、トレーニングはどうしましょうという話には当然なって、コンディションが落ちてもしょうがないという考えにはなりました。ただ、河原で走るのとかはダメだと言っているわけではなさそうだから、公園で走るとか、あまり人目がないところでそういうのはやってもいいよねとということで、2週間、その状況が続きました。

 結果的に4月25日くらいまでその状態が続き、翌週くらいからグラウンドを開けて、グループに分けて自主練をやれるようになりました。それから徐々にグループの人数を増やしていって、5月のゴールデンウィークが明けてから本格的にフィジカルをいじり始めて、10人1組の3グループで身体を動かし始めたり。トレーニングが本格的に始まったのは6月1日からです。

――その間は選手にとっても、厳しかったでしょうね。

 外食は禁止、寮に住んでいる選手も隣にいる選手と一緒にご飯を食べさせるとかもしなかったです。みんな感染防止を気にしながら、頑なにそれは守っていて、こう言っては失礼ですが、けっこう意外でした。本当にウチは真面目な選手が多くて。とくに変な事もなく、落ち着いて過ごしていたみたいです。そのうち、お料理を始めちゃう選手も出てきたりして……。

――それを「自炊チャレンジ」としてSNSで紹介する動きもありましたが、一躍、全国放送にもつながりました(6月9日にNHK総合『サラメシ』で放送)。あれはどんな経緯で?

 あれはNHKさんのほうからクラブのSNSを見て取材を、という形でオファーをいただいて、もう「いけいけ」という感じで。そんな番組あるんだって、私は全然知らなかったんですけどね(笑)。

――地上波で全国に向けて放送された訳ですから、相当反響もあったのでは?

 そう、ありましたよ。全国放送の番組の中で15分くらい取り上げてくれたので、けっこう効果も大きくて、LINEが来たり、電話が来たり。「そうですね、良かったです~」くらいしか言葉がなかったですけどね(笑)。でも、結果的にあのPR活動は良かったです。

――SNSで料理の画像を公開する流れは、どうやって生まれたのでしょう?

 それこそ広報担当者や強化スタッフの若い子が「ちょっとこういうの、選手にやらせてみましょうよ」というところからですね。「ステイホーム」を言いましょう、というところから始まって、でもそれだけじゃつまらないから、ごはんを作り始めたのであれば載せてみればという話になって。それをうまく見つけていただいたという感じです。

 でも、本当にこの2か月間でSNSのフォロワー数が増えていたり、あとJリーグID(※Jリーグの各種サービスで利用できる共通の会員IDサービス)の登録者数がウチは増えていたり、そこは一定の結果を作ったのかなと感じています。SNSに関しては、以前から広報担当者がすごく力を入れて取り組んでいるところなので、そういう面では今回ああいう形(テレビ放送)につながったのは良かったなと思いますね。

――さて、J2リーグもいよいよ6月27日に再開します。ファンの期待も膨らんでいると思いますが、どんなシーズンにしていきたいですか?

 選手は今シーズンに向けて、それこそ前向きにやってくれているのは間違いないです。ただ一方で、他のクラブもそうだと思うのですが、クラブとしてどんな戦略をとっていけばいいのか、深く考えなければいけないシーズンになるでしょうね。

 というのも、今季はプレーオフがなくなりました。その段階で別に(J1昇格圏の)1・2位に入ることを諦めるわけじゃないですが、可能性は減りますよね。さらに、来年上がっても、もし「4チーム以上が降格」というレギュレーションになったら、おそらく今年やるのに精一杯なクラブは勢いだけで上がってしまうと、J1でズタズタにされて1年で落ちてしまう可能性が高いわけです。それがクラブや支えている方々にとってハッピーなのかどうか。

 J1に上がるのであれば、J1でも勝てる上がり方をしないとダメかなと思っています。もちろん、今年のメンバーがそれを実現できないわけではなく、J2は常に僅差の戦いなので、そういう覚悟も持たなければいけない。それを考えると、選手たち自身は良いモチベーションでやってくれていると思いますが、僕ら自身、こういう状況の中、どこまでいけるのかはフタを開けてみないと分からないと感じています。

――今季に向けてのチームとしての目標、クラブとしての目標を聞かせてください。

 もちろん狙っているのはJ1昇格で、このJ2リーグにいる以上は昇格を狙わなきゃいけないのは常なので、そこはブレずに狙っていく。ただ、こうした状況の中で試合をやらせていただくので、試合ができる環境を作っていただく方々には感謝をしなければいけないと思っています。特に地域の医療従事者の方々や、日常を支えている皆さんに対して、喜んでいただけるような試合をひとつでも多くするのが、今年の一番の目標です。

――クラブとしては、先日新しいクラブハウスも完成しましたね。

 そうですね。そこは去年から考えていたことなので粛々と進めてきましたが、新しいスタジアムの話も出ているので、そこもしっかりと見据えながら。まだ何も具体的には決まっていないんですが、やっぱり目標はただ建てるだけでなく、地域課題を解決するものにしなくてはいけない等をできるものにしなくてはいけないと思うので、そこに対して丁寧にやっています。どうせ作るのであれば、良いものを作りたいです。

――では改めて、再開に向けてファン・サポーターの方々へメッセージをお願いできますか?

 こうして試合ができるようになったのは、多くの方たちに支えていただいているからです。その方たちの想いにしっかり応えて、いずれお客様が入っていただける状況になれば、「来てよかったね」と言っていただけるような試合を見せたいですし、スタジアムの雰囲気も含めて、感動をもたらせる興行を頑張って作っていきますよ。

取材・構成●長沼敏行(サッカーダイジェストWeb編集部)