2019-20シーズンのブンデスリーガ2部から、ビーレフェルトの1部昇格が決まった。第32節で2位ハンブルクがオスナブリュックに1-1で引き分けたため、残り2節を残しながらも、首位ビーレフェルトとの勝ち点差が7ポイントに開き、1位が確定した。

 1部リーグ復帰は、実に11年ぶりで、1部昇格はクラブ史上8度目となる。今季は1試合を残して17勝をあげ、負けはわずかに2敗。ライバルクラブが勝ち点を取りこぼし続けるなか、15節以降は首位の座を一度も譲ることなく駆け抜けた。

 今季の2部リーグは、名門クラブで金銭的にも力のあるハンブルクやシュツットガルト、1部から降格のハノーファーやニュルンベルクが圧倒的に有利とみられていた。シーズン前にビーレフェルトを昇格候補に挙げる識者はほとんどいなかったが、ここ数年の戦績とクラブの変遷を見れば不思議ではない。

 2000年代は1部リーグの常連だったが、2008-09シーズンに2部へ降格すると、翌シーズンにはさらに3部リーグまで落ちてしまう。2013-14シーズンに一度2部まで戻るも、翌年にはまた3部へ降格。2015-16シーズンに再び2部昇格を果たすが、17年にクラブ経営に問題を抱えてしまう。

 年末には2900万ユーロ(約35億円相当)の負債を抱え、もはや破産もやむなしとされるほど厳しい状況にまで追い込まれた。だが、彼らはそこから息を吹き返す。かつてドルトムントのマーケット部で敏腕をふるっていたマルクス・レジェックが、不可能とみられていたミッションに答えを見出したのだった。

 レジェックは「オストベストファーレン(ビーレフェルトのある地域)のきずなのために」と地元企業に共同基金をつのり、数多くの賛同者を見つけることに成功したのだ。彼は「わずか1年の間に2000万ユーロ以上の負債を返すことができたのは一つの奇跡だ」と振り返っていたが、立て直しへの道筋をイメージすることはできていても、それほど短期間で返すことができるとまでは想像していなかったことだろう。

 確かにビーレフェルトは1部に在籍していた時代も、ビックネームが集うクラブではなかった。だが、地域との結びつきはとても強いクラブだ。町の東部住宅街の真ん中にあるスタジアム。ビーレフェルトファンはスタジアムへの道を「アルムアウフトリーブ(アルムへの推進力)」と呼ぶ。

 ファンが吸い寄せられるようにスタジアムに向かうことから、そう名づけられたという。近くの小学生は学校帰りにスタジアムへと向かい、そこで選手と握手をしたり、サインをもらったりすることもある。おらが町の愛するクラブで、町の熱狂を集めるクラブなのだ。だから、地元企業もできる限りのサポートをしようと立ち上がった。

 そんなビーレフェルトにはクラブの象徴とされる選手がいる。背番号9、ファビアン・クロス。キャプテンであり、点取り屋だ。今季19点で2部リーグの得点王争い首位に立っているだけではなく、アシスト数も10をマークし、チーム59得点中約半分の29点に直接絡んでいるのだ(第32節終了時)。

 クロスは、将来を有望視されていた選手ではない。地元クラブでサッカーを続け、プロの育成アカデミーでプレーしたことはなく、成人チームでは9部リーグクラブでプレーする選手だった。

それが、銀行員としての研修をスタートさせた年に、ヴォルフスブルクのセカンドチームから声がかかった。5部とびぬけのステップアップだ。さらに24歳の時にビーレフェルトからオファーを受けて3部リーグへ移籍。それ以来9年間、ビーレフェルト一筋でやってきている。

 公式戦通算325試合に出場し、150ゴール。2度の2部リーグへの昇格、そして3部リーグへの降格も経験している。1部リーグ出場記録は、まだない。他クラブからのオファーがまいこむこともあった。だがそれをすべて断ってきた。「ビーレフェルトは金銭的に多くを出せる状態ではなかった。他のクラブに行けばもっとお金を稼ぐことはできたかもしれない。でも、ぼくは心から安心してサッカーができる環境が必要なタイプなんだ」とクラブ愛を語る。

 そんなクロスは、強いシンパシーを感じる選手として元リバープールのスティーブン・ジェラードの名前を挙げている。

「ひとつのクラブと永遠に結びつきつづけるというのはとても印象深い。それもサッカーのトップレベルの世界で、そうした人物がいるということにね。僕もビーレフェルトとそういう関係でい続けたいんだ」

 32歳と年齢的にはすでにベテランのクロスだが、いまなお成長を続けている。その理由の一つに、クラブを昇格へと導いた指揮官ウーベ・ノイハウスの存在がある。18年12月から指揮を執ると、当時14位に沈んでいたクラブは上昇気流に乗せた。

 4-3-3を基本システムに、ショートパスでボールを大事につなぎながら、自分たちでチャンスを創出するオフェンシブサッカーを志向している。だが、それを言葉だけで終わらせず、実際にピッチで実現するために丁寧なアプローチでチーム作りに成功。クロスも「ウーベ・ノイハウスのプレーアイディアそのもの、そしてそれを実際のプレーに落とし込む手腕。今まで一度も体験したことがないものだった。細かいところまで丁寧に指導する」と絶賛している。

 金銭面からしたらビーレフェルトは2部リーグでもトップレベルではない。名門クラブとされるハンブルガーSVやシュツットガルトと比較したら人件費も選手層も何もかもが違う。そのためドイツメディアには「ビーレフェルトの奇跡」という見出しで記事を書かれることが多かった。

 だが、選手も監督も奇跡的なことをしているつもりはない。クロスはこう語る。

「最近ずっと『ビーレフェルトの奇跡』という記事を読むけど、これにはちょっと納得はいかないんだ。僕らが成し遂げたことは奇跡なんかじゃない。優れたコーチングチームと、貪欲に学び自信を勝ち取り続けたチームの成果なんだから」

ノイハウスは現在60歳。新進気鋭の若手とはちがう味がある。

「謙虚な野心家」

 レジェックはノイハウスをそう称した。そんな老練な指揮官に率いられたチームは、クラブの象徴的選手を中心にまとまり、見事な1部復帰を成し遂げた。

 いまは新型コロナウィルスの影響で無観客試合が行われている。昇格を決めたが、ファンとともに盛大なセレモニーをすることはできない。だからこそ、来季1部で観客が入ったスタジアムを中心に、人口33万人のビーレフェルト全体が揺れ動くその時を、みんなが待ちわびている。

筆者プロフィール/中野吉之伴(なかの きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中