マッチフィットネス──日本語に訳すと“試合勘”が最適か。厳密には意味が異なる気もするけれど、いずれにせよこの言葉が、今季二度目のマージーサイドダービーのキーワードだった気がする。

 現地時間17日、新型コロナウイルスの影響で中断されていたプレミアリーグがついに再開され、21日夜には首位リバプールがピッチに戻ってきた。多くのファンが待望していた仕切り直しの一戦は、同じくマージーサイドに本拠を置くエバートンとのダービーとなった。

 前回の対戦では、リバプールが本拠地アンフィールドで5-2の快勝を収め、エバートンはマルコ・シウバ前監督を解任。彼らはそこから3つのリーグ戦を暫定監督のダンカン・ファーガソンのもとで乗り切り、クリスマスの直前にカルロ・アンチェロッティ新監督を迎えた。

 このイタリア人指揮官が就任した当初は白星が先行していたものの、中断前の3試合はアーセナル、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシーに一度も勝てなかった。エバートンにとっても、今回のダービーの持つ意味は大きかった。

中断前、スランプに陥ったリバプール。

 一方のリバプールはここまでのリーグ戦で27勝1分1敗。勝ち点は82で、後続のマンチェスター・シティに25ポイント差をつけており、あと2試合に勝利すれば、30年ぶりのリーグ優勝を遂げることになる。つまり3月の時点で、記念すべき戴冠に王手をかけていたわけだが、中断される直前はスランプと評すべき状態にあった。

 チャンピオンズリーグのラウンド16では、アトレティコ・マドリーに連敗して欧州連覇の夢が潰え、その間にはワトフォードに0-3で完敗し、今季リーグ戦で唯一の敗北を喫していた。さらにFAカップ5回戦ではチェルシーに0-2と敗れ、シーズンに残されたタイトルはプレミアリーグだけになった。

 中断前の全公式戦6試合の戦績は2勝4敗。あんなに強固だった守備陣が四度も複数失点を喫し、あれだけ面白いようにゴールを重ねていた攻撃陣が三度も無得点に終わっていた。

 リバプールもまた、中断期間をポジティブな転換期──少なくともフットボール的な観点からいえば──と捉えているはずだった。

サラーとロバートソンを欠いて。

 3カ月に及んだ公式戦のない日々は、大方の負傷者を回復させ、選手たちをリフレッシュさせた。「たとえファンがいなくても、ダービーは選手たちの力を引き出してくれるはずだ。なにしろ、これはダービーだからね!」とキックオフ直前にユルゲン・クロップ監督が陽気なトーンで話していたとおり、観客はいなくても(擬似的な歓声や効果音を導入する工夫はあった)、久しぶりにピッチに戻ってきた選手たちはしっかりと集中してプレーしていたと思う。

 ただし──。試合勘だけは実戦でしか養えない。あらためて、そう感じた90分でもあった。

 リバプールはモハメド・サラー、アンドリュー・ロバートソンとふたりの主軸を欠きながらも、国内リーグで首位を独走する欧州王者らしく、主導権を握って試合を進めた。

南野のプレーは悪くない出来だが。

 前者の代役に抜擢され、プレミアリーグ初先発を飾った南野拓実は10分、ボックスの外でボールを受けると、挨拶がわりのミドルを枠外に放った。

 この25歳の日本代表は右のウイングに配されながらも、サイドに張ることはほぼなく、中央寄りの位置から動きをつけてジョーダン・ヘンダーソンやトレント・アレクサンダー・アーノルドらと連携し、打開を図っていった。また34分には、右サイドで一度は失ったボールを相手の足元でつつき返し、すかさず逆襲につなげている(ロベルト・フィルミーノのシュートは枠外へ)。

 南野は前半の終盤にも周囲とのコンビネーションから、最後は自らゴールを狙ったものの、相手DFにブロックされ、ハーフタイムにはアレックス・オクスレイド・チェンバレンと交代した。

 南野のプレーは悪くない出来だったが、世界王者の一員としてピッチに立ち続けるには、それだけでは十分ではない。特別な武器を備え、それを発揮していく必要がある。彼に代わったオクスレイド・チェンバレンには、圧倒的な推進力とパワフルな一撃があり、拮抗した状態を打開するにはうってつけのカードと言えた。

 しかし選手が代わっても、ピッチ上の展開に大きな変化はなかった。リバプールは、中断期間にアンチェロッティ監督の手法を確かに咀嚼したエバートンの組織的な守備を攻略できず、終盤には逆に相手のカウンターを受けてしまった。トム・デイビスのシュートがポストに阻まれていなければ、エバートンが1-0の勝利を収めていたはずだ。

クロップが口にした「物足りなさ」。

「我々にふさわしい勝ち点1を手にしたが、終盤にエバートンがこの試合で最大のチャンスを得た」とクロップ監督はゴールレスドローに終わった一戦を振り返り、このようにも評している。

「長い中断明けの試合のパフォーマンスとしては満足している。フィジカルの準備は整っていたし、守備は固かった。だが試合に勝つには、攻撃面が物足りなかった」

 そこを充実させる要素はいくつかあるはずだが、試合勘もそのひとつだろう。実戦でしか養えない感覚──それはある程度プレーした者にしかわからない独特の勘のようなものだ──が戻って来れば、また惜しいシーンも増えるのではないだろうか。

 どれほどトレーニングでうまくいっても、公式戦のピッチでその通りにプレーするのは、言うほど容易ではない。そして攻撃面こそ、その感覚のすり合わせが重要になると思う。

 再開初戦も白星を逃してしまったが、いずれにせよリバプールは今季のプレミアリーグを制すはずだ。1日でも早く中断前の停滞感を払拭し、またあの迫力ある攻撃が蘇り、30年ぶりのリーグ優勝を清々しく決めてくれるといいのだけれど。

(「球体とリズム」井川洋一 = 文)