ブンデスリーガは6月16日と17日に第32節を行い、降格圏に位置するブレーメンと対戦したバイエルンがアウェーで1-0と勝利。2位ドルトムントとの勝ち点差を10とし、2試合を残して前人未到のリーガ8連覇を成し遂げました。

 僕は個人的にバイエルンのことが嫌いです(笑)。ここ十数年はドイツ国内の有力選手を軒並み獲得して栄華を極め、豊富な資金力と威厳からリーガ内での発言力が大きい点に判官贔屓の感情が芽生えてしまうのが、その理由です。

 ただ、これはあくまでも極私的な感情であって、僕の思念が彼らの達成した偉業に何の影響ももたらさないことは明らかなのであります。

 2019-20シーズンのバイエルンの道のりは、決して順風満帆ではなかったと思います。なにしろシーズン中に1人の監督が職を辞しているのですから。

混戦4位から見せた揺るぎない強さ。

 昨シーズン、リーガとDFBポカールの2冠を獲得したニコ・コバチ体制のバイエルンは今季序盤からチームコーディネイトに苦しみ成績が安定せず、2019年11月2日のリーガ第10節で、かつてコバチ監督が指揮したアイントラハト・フランクフルトに1-5の大敗。その後、監督が辞任を申し出てクラブを去りました。

 コバチ監督としては世代交代の時期にさしかかったバイエルンのチーム刷新を目論んで編成変更に着手したと思われるのですが、その改革は既存選手たちの反発に遭い、それがチーム成績の低迷へと繋がったようにも感じます。

 ちなみに、コバチ監督が辞任した時点のバイエルンの順位は勝ち点18の4位でした。ただ、首位ボルシア・メンヘングラッドバッハと勝ち点4差、2位ドルトムントと勝ち点1差、3位RBライプツィヒとは同勝ち点。彼らにしては伸び悩んでいたものの、それでも混戦模様で挽回の余地は十分にあったことも確かです。

 いずれにしても、当初は臨時で指揮を託されながら偉業に導いたハンジ・フリック監督の才覚を褒め称えるべきでしょう。

 フリック監督が指揮を執るようになった第11節以降の成績は、なんと19勝1分2敗と堂々たるもの。また、チャンピオンズリーグでもオリンピアコス、ツルベナ・ズベズダ、トッテナムといった各国の強豪チームを蹴散らし、新型コロナウイルス感染拡大によってシーズンが中断する直前の決勝トーナメント準々決勝・第1戦のチェルシー戦ではアウェーで3-0の圧勝と、揺るぎない強さを誇示したのです。

フリック監督の秀逸な手腕。

 フリック監督は今回、初めてブンデスリーガ1部のクラブを指揮したわけですが、その指導者人生の過程は知見の機会に満ち溢れていました。

 最初に彼の存在がクローズアップされたのは2006年、ドイツ代表アシスタントコーチ就任時です。現職でもあるヨアヒム・レーブ代表監督の下で研鑽を重ねて、EURO2008ではレーブ監督の退場処分によるベンチ入り停止を受けた準決勝ポルトガル戦で急遽チームを指揮して勝利し、ドイツ代表を決勝に導いてもいます。

 フリック監督の采配を分析すると、強固なチームベースを維持したうえでの適材適所の起用法が光ります。兎にも角にも、まずはチーム全体の結束力を取り戻すために、年代、年齢の差異なく現況のベストメンバーを模索し、それを4-2-3-1のベーシックシステムに当てはめる手腕が秀逸だと感じました。

 特に代表から外れて“晩年期”と称されたDFジェローム・ボアテンク、MFトーマス・ミュラーに全幅の信頼を寄せてレギュラーへ再抜擢した点は、今季のバイエルンが苦境をリカバリーできた最たる理由だと思います。

窮地のバイエルンを救うため。

 そもそもバイエルンは、守備陣の核であるニクラス・ズーレが昨年10月に左膝前十字靭帯を断裂して長期離脱を余儀なくされて窮地に陥っていました。

 そこでフリック監督は左SBのダビド・アラバをCBにコンバートし、経験豊富なボアテンクを彼のパートナーへ据えることで守備の安定化を図りました。そして左SBに19歳の“新星”アルフォンソ・デイビスを抜擢。また、フランス代表としてロシアW杯優勝にも貢献したバンジャマン・パバールを代表と同じ右SBで起用して盤石の体制を築きました。

 また、レオン・ゴレツカとヨシュア・キミッヒの両ドイツ代表を中盤底に置いたのも英断でしょう。戦況把握力に優れるキミッヒが縦横無尽にピッチをカバーし、シュート力が際立つゴレツカが前線の攻撃陣とコラボレートしてアタックに迫力を与える図式は重厚の一言です。

 そして攻撃陣は1トップのエース、ロベルト・レバンドフスキを筆頭に、右にキングスレー・コマン、左にセルジュ・ニャブリという生きの良いアタッカーが並び、トップ下に新監督の下で再生を果たしたミュラーが鎮座するという豪華布陣。ちなみに、ニャブリは日本人的に発音が難しいのですが、こちらは総じて「グゥナーブリ」と呼んでいるように聞こえ、あの愛らしい容姿を連想させる「ニャ」の響きが感じられないのが残念です。

リーガ中断明けの快進撃。

 新型コロナウイルス流行前からフリック体制のバイエルンは安定した成績を残し、監督自身は昨年11月に暫定の文字が外れて正式に“盟主”の指揮官に就任して、リーガ中断期間中の4月3日には2023年6月30日までの契約延長と相成りました。

 その間、チームは他クラブを圧倒し続けたのですが、特筆すべきはリーガ中断明け後の破竹の快進撃でしょう。この原稿を執筆している6月18日現在、中断明けの成績は7戦全勝。DFBポカールでもアイントラハトを下して決勝に進んでいるため、チャンピオンズリーグを含めたトレブル(3冠)の可能性を残しています。

 これは少々穿った見方かもしれませんが、無観客試合ではファン、サポーターの存在がスタジアムにないことから、試合内容が外的要因に左右されないように思われ、対戦相手同士の明確な実力差がそのまま結果に表われるようにも思います。

アウェーでは身体負荷が高く。

 ただ、だからと言って、無観客試合においてホーム&アウェーの有利不利がなくなったわけではありません。

 いまだにウイルスの猛威が懸念されるドイツでは各地域への移動にある程度の制限があり、宿泊施設なども通常時の営業状況には戻っていません。その結果、バイエルンはアウェーゲームの際は試合当日に会場入りし、試合後もすぐさま地元に戻る強行軍で戦っています。

 優勝を決めたブレーメンとのアウェーマッチは現地時間20時30分キックオフでしたが、お昼のテレビでは小雨が降るミュンヘンのクラブハウスからチームバスが出発するライブ映像が映し出されていました。

 ドイツ南部のミュンヘンからドイツ北中部のブレーメンまでは約750キロ以上の距離があるわけで、おそらくチャーター機で移動したものと思われますが、その移動負荷は非常に高かったことが容易に推測できます。それでもバイエルンは熾烈な残留争いを戦うホームチームを1-0で捻じ伏せてしまうのですから、その強者ぶりがうかがえます。

「沈まない。支え合ってきたから」

 ここまで“国内無敵”の強さを見せつけられると、僕などはグウの音も出ません。

“アンチ・バイエルン”のせめてもの抵抗は、「バイエルンのマスクを買って送ってくれ」という日本の友人に、「そんなもんはフランクフルト市内で一切売っていない!」と嘘をつき、我が街のクラブ、アイントラハトのクラブマスクを送りつけることくらいです。

 まだウイルスが猛威を振るっていなかった昨年12月、大迫勇也が所属するブレーメンが1-6で大敗したバイエルンのホーム、アリアンツ・アレナの雰囲気は荘厳で重厚で、なによりもチーム、ファン、サポーターを含めたすべてのバイエルン・コミュニティから漂う“キングの佇まい”に圧倒されたものでした。

 そんな彼らが大声量で奏でるチームソング『Stern des Sudens』(ドイツ語で『南の星』の意)には、以下のような意味の歌詞が付いています。

「FCバイエルン、南の星。君は決して沈まない。なぜなら、僕らは良いときも悪いときも互いに支え合ってきたから。FCバイエルン! ドイツ・チャンピオン! これが、我らがチームの呼び名だ。昔も今も、そしてこれからも、それはずっと変わらない」

一喜一憂できる現況に幸福を。

 現状において、嘘偽りなく、その歌詞通りに頂点に君臨するバイエルンを、僕を含めた他クラブのファン、サポーターは歯軋りしながらも認めざるを得ません。

 ドイツ国内での一強時代に終止符が打たれる日は果たして訪れるのでしょうか。同じく『Stern des Sudens』で歌われる、「バイエルンの勝利以上に美しいものがあるか?」という問いに対し、他クラブは現状を真摯に受け止めながらも奮起しなければなりません。

 コロナ禍は未だに途上ながら、それでも時は確実に刻まれています。今はただ、苦難の先にある明るい未来に思いを馳せながら、サッカー界のトピックに一喜一憂できる現況に幸福を感じたいと思っています。

(「ブンデス・フットボール紀行」島崎英純 = 文)