3月4日にロナウジーニョと兄アシスがパラグアイの首都アスンシオンに到着した際、入国審査でパラグアイの偽造パスポートを提示して入国しようとして拘束、逮捕されてから、6月11日で100日が経過した。

 2人には、パラグアイの偽造パスポートと偽造IDカードを所持、使用したこと以外にも、彼らをパラグアイへ招聘した地元の女性実業家ダリア・アンヘリカ・ロペスの巨額の脱税やマネーロンダリングなどの犯罪に関与した容疑がかけられている。

 ブラジルの隣国パラグアイへやって来た目的は、以下の3つとされている。

1)パラグアイ全土を巡回して貧困家庭の少年少女に無償で病気や怪我の治療を行なう、という触れ込みの移動診療車の発表イベントに参加する。この事業を推進するのは、ロペスが設立した「アンヘリカル友愛財団」(アンヘリカルはロペスのミドルネームをもじった言葉で、「天使の」の意味がある)

2)アスンシオンに設立されたオンライン・カジノのイベントに参加する

3)自身の半生を描いた『人生のスーパースター』のパラグアイでの発売告知イベントに参加する

 しかし、到着した4日に1)の一部は終えたものの、その日の夜から拘束されているため、2)と3)は取りやめとなった。

ほぼ取り調べは受けずホテルに70日。

 当初、ロナウジーニョは捜査当局の取り調べを受けながら警察の留置所に収監されていた。しかし、4月7日、兄と2人分の保釈金160万ドル(約1億7200万円)を納め、市内のホテルへ移った。それでも勾留されていることに変わりはなく、逃亡を防ぐため、外出は一切許されていない。

 以後、ほとんど取り調べを受けることもなく、さりとて刑が確定して服役するわけでもなく、ホテルで無為な日々を過ごしている。ホテルへ移ってからだけでも、6月15日で70日が過ぎた。

キーマンのロペスがいまだ逃亡中。

 なぜこのような状況が続くのかというと、捜査が遅々として進んでいないからだ。

 最大の障害は、事件のカギを握るはずのロペスが3月7日に逮捕状が発行されたにもかかわらず、逃亡を続けていること。

 国外へ逃げた可能性があり、パラグアイ警察はインターポール(国際刑事警察機構)を通じて国際手配しているが、手がかりすらつかめていない。
 
 またブラジル、パラグアイ両国が加盟するメルコスール(南米共同市場)の市民は自国のIDカードだけで域内の国に出入国できるにもかかわらず、なぜわざわざパラグアイのパスポート(しかも偽造!)を提示したのかという疑問も解けていない。

 ロナウジーニョらは、「ロペスからプレゼントとして手渡された。偽造とは全く知らなかった」としか答えていないが、今後、ロペスらと組んでパラグアイ国内で違法の経済活動をするつもりで取得したのではないか、と疑われている。

 ただし、その真偽もロペスを取り調べなければわかりにくい。

怪しい“慈善事業”の片棒を担がされ。

 ロペスは、外国製高級車の輸入と販売、牧畜業などを手掛ける実業家とされる。

 かつてアルゼンチンの雑誌に「自分はビジネスが好きだが、人生で最も重要なものはお金ではない。ビジネスで得た収入で恵まれない人々を助けることに、私は最大の喜びを感じる」などと、もっともらしいことを語っていた。ただ実際には、慈善団体を隠れ蓑として、脱税をしたり違法に蓄えた金を洗浄していたらしい。

 ロナウジーニョは、知ってか知らずか、“汚れた天使”ロペスの怪しい“慈善事業”の片棒を担いでいた。また、オンライン・カジノの広告塔を務める予定だったが、ブラジルでも違法の賭博組織に自身が所有する建物を貸与していたと報じられ、賭博関係者とのつながりが疑われている。

 自身の半生を描いた「人生のスーパースター」のプロモーションをすることになっていたが、皮肉にも、ピッチの中ではともかく人生においてはそうではないことが明らかになった。

捜査当局は10数人を逮捕したが。

 パラグアイの捜査当局も、ここまで何の成果も挙げていないわけではない。

 ロナウジーニョらが所持していた偽造パスポートと偽造IDカードは、番号は実在しており、写真と個人データだけが改竄されていた。

 警察はこれらの身分証明書の本来の持ち主だったパラグアイ人女性2人を逮捕し、偽造に関与していたアスンシオン国際空港の出入国管理事務所の職員や元警察官ら10数人を逮捕した。

 5月13日にはこれらの身分証明書を偽造したと思われる市内の会社を捜索し、数十枚の偽造証明書などを押収した。

 しかし、ロナウジーニョと兄アシスが係わる犯罪に関してはまだ不明な部分が多く、ロペスを逮捕して取り調べを行なわない限り、事件の全容解明は困難とみられている。

パラグアイ紙のインタビューにて。

 ホテルへ移って以来、ロナウジーニョは二度、メディアのインタビューを受けた。

 最初のインタビューはパラグアイの日刊紙「ABCコロール」へのもので、4月27日の紙面に掲載された。

 黒いベレー帽を被り、黒のTシャツに黒と白のバミューダという軽装で、髪の毛からもみあげ、顎ひげまで全部つながっている。顎ひげには、白髪が目立つ。
 
「パラグアイというと、1997年のU-17ワールドカップに出場して優勝したときのことを思い出す。僕が手にした最初の世界タイトルで、キャリア上、非常に重要な意味があった。そのパラグアイで、このようなことで長期滞在するとは予想していなかった。

 入国した際に提示したパラグアイのパスポートが偽造されたものだとは、夢にも思わなかった。逮捕されたときはとても驚き、大変なショックを受けた。

 捜査には全面的に協力しており、1日も早く釈放されてブラジルへ戻りたい。帰国したら、まず母親を抱きしめてキスをし、今回のことで心配をかけたことを詫びたい」

バルサ贔屓紙にはクラブ愛を伝えた。

 そして6月9日、スペインはバルセロナのスポーツ紙「ムンド・デポルティーボ」にインタビュー記事が掲載された。

 やはり黒のベレー帽で、黒いTシャツの上に白と黒の長袖を羽織り、白いパンツをはいている。バルセロナのユニフォームを手にしたり、クラブの旗を掲げてみせた。口を少し開いて特徴のある前歯を見せているが、彼のトレードマークである大輪の花のような笑顔はない。

「これまで在籍したすべてのクラブに愛着があるが、僕が最も幸せだったのはFCバルセロナで過ごした数年間だ。バルセロナの町も、自分にとって第二の故郷となった。今回の事件については、FCバルセロナの関係者、元チームメイト、サポーターたちから多くの励ましのメッセージを受け取った。心から感謝している。

 今はほぼ毎日、ホテルのスポーツジムで運動し、大広間でボールを蹴って心身の健康を保とうとしている。でもできるだけ早くこのような生活から解放されて、ブラジルへ帰りたい」

帰国がいつになるか見当がつかず。

 パラグアイ警察は、3月6日の逮捕から最長で6カ月間、ロナウジーニョとアシスを拘束できる。すなわち、2人は9月6日まで勾留される可能性があり、実刑判決が下れば、パラグアイ国内で刑に服さなければならない。

 現時点では、2人の帰国がいつになるか、誰にも見当がつかない。

 ただし母国でも、自身が広告塔となったデジタル通貨のねずみ講(オーナーの1人、という触れ込み)に出資して損失を被った150人の顧客からの約3億レアル(約63億円)の損害賠償請求、かつて事実上の重婚生活を送った女性からの慰謝料請求など20を超える訴訟が列をなす。

 さらに、不動産の土地家屋税の滞納分約750万レアル(約1億5000万円)、違法建築物への罰金支払い約60万レアル(約1260万円)などの支払いも待ち構える。

 インタビューに答えたロナウジーニョは、時折笑顔を浮かべているものの、どこかぎこちなく、眼光も弱々しい。彼が置かれた状況を考えれば、それも当然かもしれない。
 
 世界フットボール史上、ファンから最も愛された選手の1人であるこの男が、引退後、かくも苦しく悲しい状況を迎えると誰が予想しただろうか。

 少し時間はかかるかもしれないが、彼がまたあの光り輝く笑顔を浮かべる日が来ることを切に願っている。

(「熱狂とカオス!魅惑の南米直送便」沢田啓明 = 文)