グラウンドに子供たちの明るい声が戻ってきた。

 新型コロナウイルスの影響で活動自粛となってから約3か月。栃木県にある矢板中央高が6月初旬からトレーニングを再開している。

 2月27日の政府からの要請により、学校は3月2日から休校。それに伴い、サッカー部も活動休止となった。自宅から通う生徒は練習を行なえず、寮生も健康を維持する範囲で自主的に身体を動かす程度。自粛期間中の4月3日にはプリンスリーグ関東の開幕延期が決定し、同26日には今年8月に群馬で開催予定だったインターハイの中止も知らされた。特に夏の全国大会を失ったことは選手たちに大きな衝撃を与え、落胆せずにはいられなかった。当時の様子をキャプテンの坂本龍汰(3年)はこう振り返る。

「昨冬の高校サッカー選手権では準決勝で敗退(0-1で静岡学園に敗戦)したので、今年のインターハイは日本一を取りにいくつもりでした。なので、チームとしてのモチベーションがかなり高かったんです。でも、開催が白紙になってこのままどうなるのかなと…」

 消えたインターハイ。サッカーができる当たり前の環境が失われた中で、選手たちは現状を飲み込むしかなかった。

 気持ちを切り替えて迎えたチームの再始動――。「プリンスリーグ関東も残っているし、冬の選手権で日本一を目指す」とキャプテンは気持ちを新たにし、6月1日から全部員が揃ってトレーニングをスタートさせた。

 ただ、公式戦の再開は9月以降で、練習試合も当面は組めない。その中でモチベーションを維持させる作業は難しく、チーム内での競争意識は自ずと下がってしまう。そこで髙橋健二監督が動いた。インターハイ・栃木県予選の初戦が行なわれるはずだった6月13日に、3年生全員で公式戦ユニホームを着用した上で紅白戦を行なったのだ。

 その理由について指揮官は言う。

「公式戦の延期や中止によって、子供たちは目標を失いかけていました。特に3年生は最後の1年。今はまだ選手権が残されているとはいえ、ただボールを蹴るだけではなかなかモチベーションを上げるのは難しいなと感じていました。だからこそ、雰囲気を作るためにインターハイ初戦と仮定して紅白戦を行なったんです」


 40分ハーフで行なわれた紅白戦は、決着が着かなければ、10分ハーフの延長戦を実施。さらにタイスコアの場合はPK戦を行なうなど異例の設定で戦わせたのも、より本番の雰囲気に近付けるためである。

 3年生・51人のうち、怪我などで出場できなかった4名を除いて全員が出場した試合は、序盤から白熱。赤チームが2−1でリードして迎えた後半アディショナルタイムには、青チームが土壇場で同点弾を決める。しかも、ネットを揺らしたのはペナルティエリア手前にポジションを取っていたGK佐藤翔希(3年)で、強烈なミドルシュートが決まると、選手たちのテンションは最高潮に達した。

 延長戦では赤チームがゴールを奪って勝ち越しに成功。そのまま決着が付いたものの、久々の真剣勝負に子供たちは胸を踊らせた。

 試合後、キャプテンの坂本は久しぶりのゲームに充実感を滲ませた。

「選手権に向けて、やっとみんなでプレーができました。この紅白戦は1人ひとりのモチベーションが高く、本当に気持ち良くプレーできたと思います」

 髙橋監督も最後に子供たちに言葉をかけると、一からポジション争いをスタートさせていくと明言。敗戦チームながらゴールを奪ったGK佐藤にMVPを与えると、BチームからAチームに引き上げる可能性も示唆した。久々にチームへ漂った緊張感。異例の紅白戦を行なった指揮官の意図を、選手たちは確かに受け取った。今後の予定は未定だが、矢板中央にとって、この試合がシーズン開始の合図になったのは間違いない。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)