鹿島アントラーズの小泉文明代表取締役社長は、コロナ禍における中断期間で実施した数々の企画について、こう語っている。

「基本的に継続できないものは、最初からやらないほうがいいという考えです。この中断期間に試みた施策については、さらにブラッシュアップをしながら継続していければと思っています」

“今だからこそできる企画”というだけでなく、“今後も継続してできる企画”。本当の意味で目指すところは「コロナ後もみんなでできること」というコンセプトが企画の根底に見えてくる。

 2020年2月、新型コロナウイルス感染症の影響でリーグ戦が中断した。7月4日からJ1リーグ再開が決まったものの、無観客でスタートする。その後も、徐々に観客動員を増やしていく流れが確実で、これまで通りの観客動員はまだ先の話となりそうだ。これにより、各クラブは大きな減収を覚悟しなければならなくなった。アントラーズでいえば、年間収入の約30%弱にあたる「入場料収入」と「グッズ収入」において、今季は10億円から20億円単位で減収の可能性が出てきた。

 経営にこれだけマイナスの影響を受ける状況で、クラブは中断期間を漫然と過ごしていたわけではない。「いまだからできることをみんなで」というキャッチフレーズのもと、様々な施策を実現していった。企画数は20以上におよび、今もその施策数は増え続けている。

テクノロジーを活用した新企画「鹿ライブ」。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、人間の生活や価値観が変化したといわれる。「NEW NORMAL」。スポーツ界においては、スタジアムに人が来られなくても収益を上げられる構造が必要となった。

 そこでアントラーズでは、テクノロジーによる収入補填の仕組みづくりに活路を見出した。デジタルで新たなサッカーの価値を提供し、減収を補っていくという考えだ。

 5月16日、リモートマッチを想定した収益事業のテストとして、スポーツライブエンターテイメントアプリ『Player!』上で「鹿ライブ」を実施した。同日にJリーグ公式YouTubeとNHK BS-1で配信・放送される過去の試合にあわせて、当時試合に出場していたクラブOBや現所属選手など、アントラーズに関わる豪華ゲストが一緒に観戦し、過去の逸話などを交えながら楽しむライブ配信イベントだ。

ギフティング(投げ銭システム)で新たな観戦方法を。

 ここで新たにトライしたのが、ギフティング(投げ銭システム)である。

 ギフティングとは、インターネット上でクレジットカード決済による500円以上の寄付を、何度でも好きなタイミングですることができるシステムだ。これによってサポーターは、家にいながら直接クラブを支援することが可能になる。映像を見ながら、良いプレーがあれば投げ銭で応援するという新たな観戦方法をテストした形だ。

 クラブ初となったこのイベントでは、サプライズで登場した小笠原満男(現テクニカル・アドバイザー)が大いに盛り上げた。同期の中田浩二(現クラブ・リレーションズ・オフィサー)が軽快にトークを回し、曽ケ端準、柳沢敦(現アントラーズユースコーチ)とともに、2001年にジュビロ磐田と戦ったJリーグサントリーチャンピオンシップ第2戦を観戦しながら解説した。

試合の解説を、実際にプレーした選手がする!?

 GK曽ケ端がパンチングをした場面では、小笠原から「そこはキャッチだなあ」と強烈なツッコミ。ハーフタイムのロッカールームの様子が暴露されたりと、盛りだくさんの展開に。

 Vゴール方式の延長戦で劇的な直接フリーキックが決まった場面では、小笠原が舞台裏を語り始めた。

「前半の最後に蹴ったフリーキックでは、GKのヴァンズワムが真ん中に立って動かなかった。そして、第1戦で中田が蹴ったときも動かなかった。ヴァンズワムは割と先に動く傾向があるGKなんだけど、このときどうポジショニングするかを見ていたら、俺から見て右側に立った。これは“誘っているな”と思って、GKがいる方に蹴れば入るんじゃないかと思って蹴りました」

 ピッチ上で繰り広げられた、駆け引きがあった。当時の感動とともに、そのピッチに立っていた当事者の思いを聞くことができる。ファン・サポーターの興奮は、数字に表れた。

新企画に対し、視聴者からの好意的なコメントが続々。

 権利面の調整から告知期間が実質2日間だったにもかかわらず、総閲覧回数は約5万7000回、総視聴者数は約1万5500人、同時視聴者数は最大3700人を超えた。視聴者の反応も良く、小笠原がサプライズで登場すると視聴者数とギフティングが増加。「#鹿ライブ」「#満男」がTwitterで当日のトレンド入りを果たした。

 実際にSNS上には視聴者からの好意的なコメントが並んだ。なかには「事前課金してタップで投げ銭できれば、もっと投げちゃう」「投げ銭して、もらえるデジタルフォトの種類を多く用意してランダムでの提供にすれば、コンプリートしたくなるのでは?」など、より良くなるためのアイディアもあふれた。

 担当スタッフも「施策に対しては新しいチャレンジをポジティブに受け取ってくださる方が多く、“この状況でも一緒に頑張りましょう”という声をいただき、手応えを得ることができた」と振り返る。

 ギフティングについては、視聴者のうち約6%の計926人が配信番組に対して支援した。収益額は非公表だが、小笠原の現役時代の背番号にちなんで4040円と設定する人や、2万円以上を寄付する視聴者なども多く見られたことから、単純計算以上の収益を得られたことが容易に想定できる。

リアルタイムでの試合にもギフティングを導入。

 6月20日の町田ゼルビアとのトレーニングマッチで、クラブとして2回目の実施が発表されている。過去の名勝負観戦での施策を経て、次は現在進行形のチームの戦いとなる。次にどんなプレーが出るのかわからないなかでのチャレンジだ。そこで視聴者はどんな反応を見せるのか。新しい課題も可能性も見えてくるだろう。

 小泉社長はこう振り返る。

「あの小笠原選手のフリーキックは改めて見ても興奮しました。サポーターの皆さんも喜んでくれたのではないかと思っています。ギフティングは、いずれ取り入れたいと考えていたのですが、タイミング的にも、この状況下だったからこそ前倒しでトライしました。実質、準備期間は1週間程度でしたが、実施できてよかった。無観客のときだけでなく、様々な活用方法があるので、今後につながるものになったと感じています」

クラウドファンディングからふるさと納税まで。

 クラブ初の取り組みは、まだまだ終わらない。

 6月16日、「鹿島アントラーズ クラウドファンディングプロジェクト」開始が発表された。ホームタウンである茨城県の鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市、そして全国のサポーターからの「アントラーズを応援したい」という声に背中を押され、鹿嶋市のふるさと納税を活用したクラブ初のクラウドファンディング実施を決めた。

 クラブ自らネット上で寄付を募るものだからこそ、支援者への御礼(リターン)はアントラーズサポーターが喜ぶ豪華なギフトが並ぶ。

 金額は1万円から最高金額1000万円。

 ザーゴ監督のサッカー講座を受けられる特別セミナー参加、ピッチ上でレジェンド相馬直樹・熊谷浩二とともにボールを蹴るトレーニング体験、小泉社長と食事をともにしながら自ら考えた施策を提案することができる交流会、ホームゲームVIPヘリコプター観戦プランなどなど、普段は大金を用意しても体験できないような御礼が目白押しとなっている。

 また、個人による寄付は「ふるさと納税」の対象となるため、税金控除の対象となる。

 たとえば3万円の寄付をした場合、2万8000円は税金控除となり、自己負担は2000円。控除額の上限は個人によるが、支援者は通常の寄付と比べてローコストでハイリターンを受けられる。

ホームタウンが潤う施策も用意。

 その他にも、カシマスタジアム内にあるカシマウェルネスプラザでインストラクターが行なうスタジオレッスンをオンラインで受けられるプログラム「アントラーズコネキタール」をスタート。選手と一緒にレッスン参加できるという特別企画も提供した。

 ホームタウンに向けた施策としては、鹿行地域および近隣の「食」を通販・テイクアウト&デリバリーできる事業者と、外出を制限されている消費者とを結ぶ「鹿行の『食』を届けるプロジェクト」を実施。

 他クラブが追随する企画が生まれた。

デジタルとリアルの融合から新たな収入源が。

 中断期間におけるクラブスタッフの動きを振り返ったとき、小泉社長は表情をゆるめた。

「みんながみんな自発的に動いてくれた。そこがすごくアントラーズらしくていいなと感じています。おそらく、この期間に社員全員が何かしらの施策を提案して実現させていたように思います」

「すべては勝利のために」。クラブ全体に流れるパッションだ。

 強化部門ではザーゴ監督を新たに招聘して、リアクションサッカーからアグレッシブなサッカーへの変貌を掲げる真っ只中にいる。進化への挑戦は事業部門でも同様だ。小泉社長はアフターコロナ、ウィズコロナに向けて、前を見据えた。

「例えば、今回のようなデジタル施策を導入することで、これまでアウェイゲームになかなか応援へ行けなかった人の見方や楽しみ方を変えられるのではないかと考えています。中断期間はマイナスな面もありましたが、ピンチはチャンス。下を向くのではなく、前向きにポジティブなチャレンジができた期間になりました。今後はデジタルとリアルが融合していくと見ています。その両方が収益源となるように考えていきたいと思っています」

(「スポーツはどこへ行く」池田博一 = 文)