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写真:戸嶋ルミ

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 2019年シーズン開幕前のこと、SNSに上がっていたオリックス・バファローズの選手のトレーニング動画に目が釘付けになった。比較的小柄で細身な選手たちが、目を疑うほどの身体能力の高さで動き回っていたのだ。

 動画に写っていたのは投手を中心としたメンバーで、そこにはトレーナーの方の名前も載せられていた。オリックス・バファローズのチーフトレーナーの鎌田一生(かまだ・いっせい)さんという方だった。

 鎌田さんはアメリカの大学院を卒業後、クリーブランド・インディアンスでトレーナーを務め、その後は北海道日本ハムファイターズ、阪神タイガースを経て、現在はオリックス・バファローズでトレーニング担当を務めている。

 メジャーリーグでの経験を、現在どのように活かしているのか? そもそもどのようにしてアスレティックトレーナーになったのか? お話を伺った。

(取材日は2019年6月上旬)

■アスレティックトレーナーを志したきっかけ

 鎌田さんは、高校まで硬式野球をやっていた元球児。中学生の頃の夢はもちろん、プロ野球選手だ。しかし、選手時代は度重なる怪我に悩まされることが多かったという。

鎌田「高校まで硬式野球をやっていたんですが、怪我が多くて。自分なりに一生懸命やっているつもりだったんですが、努力の方向が間違っていたのと、技術不足で”悪い動き”をいっぱいしていたんだと思います。それで体にひずみがきて、怪我をしてしまっていたのではないかと。そこでトレーニングに興味を持ってやり始めたんですが、今度はやり過ぎてオーバーワークで怪我をして……という感じでした」

 本人は「元々野球はうまくなかったけれど」と言うが、怪我の多さなどから大学で野球を続けるということは諦めたそうだ。

鎌田「選手以外の道で野球に携わる方向を考えたときに、”同じ境遇にいる選手の助けになりたい”と思ってトレーナーへの道を志しました。リハビリやトレーニングなどの分野はアメリカの方が進んでいると聞いて、英語も好きだったのもあってアメリカの大学へ進学を決めました。全部で9年間アメリカにいましたね」

 鎌田さんは日本の高校を卒業後、アメリカの北コロラド大学に進学。大学在学中はアスレティックトレーニングというプログラムを履修し、シアトル・マリナーズで3年間インターンを経験。卒業後はオレゴン州立大学大学院に進んだ。

 そして、大学卒業後にATC(Athletic Trainer,Certified:米国公認アスレティックトレーナー)、大学院在学中にCSCS(Certified Strength and Conditioning Specialist:認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)の資格を取得。

 日本のアスレティックトレーナー資格はいわゆる”民間資格”で、資格としての法規制はないが、アメリカの場合は異なる。「CAATE(アスレティックトレーニング教育認定委員会)が公認する4年制大学、もしくは、大学院のアスレティックトレーナープログラムを卒業すること」と「インターン等の実務実習経験」が受験の条件とされている国家資格だ。

 鎌田さんが取得したATCはアメリカ医学会(America Medical Association)に認められており、取得者は看護師や理学療法士と同じ准医療従事者として扱われる。特に取得が難しいとされている業界最高峰の資格である。

■クリーブランド・インディアンスでの経験

写真提供:共同通信社

 大学院卒業後はメジャー30球団に履歴書を送り、クリーブランド・インディアンスから声がかかり、フルタイムのポジションで採用が決まった。

 当時インディアンスではチームに4人程度トレーナーがついていたが、マイナーの場合ルーキーリーグから3Aまでは一つのチームに一人しかトレーナーがいなかった。そのため、一人で全部みなくてはならなかったそうだ。当時は物理療法をメインに、テーピングからリハビリエクササイズ、簡単なトレーニングなどを行っていたという。

鎌田「ラテン系の選手はみんな陽気なんですが、怪我をしたときは泣いてたりするんです。でも次の日になってリハビリにきたときは、イヤホンで音楽聴きながらノリノリだったりして……昨日は泣いていたのにビックリしますよね(笑)そういう選手が多かったんです。

不思議とこっちまで明るい気持ちになってくるんですよね。そういう彼らを見ているうちに、一つのことに対してあまり真剣になりすぎてもよくないのかな、と思うようになりました。自分に対して厳しすぎると成功の範囲が減ってしまうと思いますし、手を抜くとかではなくて、いい意味でイージーにいこうと考えるようになりましたね」

 インディアンスにて3シーズンをトレーナーとして務め、知識や経験の他コミュニケーションの大切さを学んだという鎌田さん。自身の考え方に影響を与えたという当時の選手たちの様子をこのように語った。
  
 インタビュー後半では、現在勤めているオリックス・バファローズでのお仕事についてや、普段心がけていることなどについて伺った。

文:戸嶋ルミ
取材協力:オリックス・バファローズ