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写真提供=戸嶋ルミ

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 前回に引き続き、アスレティックトレーナーの鎌田一生(かまだいっせい)さんのインタビューをご紹介したい。鎌田さんはアメリカの大学と大学院を卒業後、クリーブランド・インディアンスで3シーズンほどトレーナーを務められた。その後は北海道日本ハムファイターズ、阪神タイガースを経て、現在はオリックス・バファローズでチーフトレーニング担当を務めている。

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■NPBでトレーナーとして10年目 日本の球団ではどんなことをしているのか

 鎌田さんいわく、プロ野球チームでトレーナーをやっていると言うと「マッサージできるの?」と言われることが多いという。実際、スポーツ系のドキュメンタリー映像では、マッサージを受けている選手の様子が映し出されることが多い。鎌田さんはチームでどのようなことをしているのだろうか。

鎌田「オリックス・バファローズでは、トレーナーはメディカルとトレーニングのグループに分かれています。僕はトレーニング担当で、毎日のウォームアップやグラウンド上でのトレーニング、ウェイトルームでのトレーニングを指導しています。走ることも含めて、選手のコンディションを整えたり向上させたりというところでしょうか。メディカル担当は、筋肉が張っているなど、痛みがある選手に対して、その選手が試合に出られるようにマッサージや鍼などを使ってコンディション調整を行います。僕達のやっているトレーニングは”いじめる側”で、メディカルは”癒やす側”ですね(笑)」

 鎌田さんの一日を追っていくとしよう。例えば18:00試合開始のナイターゲームの場合、選手達が来る前の午前中に球場入り。14:00からのチームのウォームアップや、17:00からのセカンドアップも鎌田さんの出番だ。試合終了後はメディカルチームと試合中に怪我などをした選手がいればその確認などをする。また、試合後にウェイトやトレーニングを行う選手の付き合いもするという。

 シーズン中はこのような”出勤パターン”で、秋季キャンプが終われば他のスタッフとシフト制のような形になる。球団職員ではあるが現場職なので、試合スケジュールや選手の要望に合わせた形での勤務形態だ。

■仕事をする上で大切にしていること

 
――日々選手と接する中で、どのようなことを大切にしていますか

鎌田「コミュニケーションですね。まず自分がどういう人か知ってもらうことが大事だと思っています。自分の知識や経験を一方的にあれこれ選手に伝えても、選手が聞き入れる体勢になっていなければ、響かないので伝わりにくい。まずは自分がどういう人か知ってもらい、選手を観察するところから入るようにしています」

写真提供=共同通信

鎌田「選手によって性格はそれぞれですので、できるだけその選手に合うアプローチを探します。手法は一つじゃなくて無限にあると思うので、その選手がよくなる方向に導いてあげられたらと。その選手にとって今日より明日、明日より明後日のほうがよくなるように、日々コミュニケーションを取っています」

 また、時には不測の怪我も起こりうる。怪我をしてしまった選手に対するトレーニングは、リハビリなどフィジカル面だけではないと鎌田さんは言う。

鎌田「怪我によって落ち込んでしまったメンタルケアもリハビリの一つだと思っています。そう思って、大学在学中は副専攻で心理学やコーチング学を学びました。怪我は”治ったから終わり”じゃないんですよ」

写真提供=戸嶋ルミ

鎌田「怪我も病気も、大きくても小さくてもその人にとっては一大事ですよね。例えばある選手が怪我をした場合。その選手へ”過去に同じ怪我をして復帰した選手の話”をすることによって、何かしら希望が生まれることもあるのではないかと僕は考えています。実際に怪我を経験した選手同士が話す方がわかりあえることもありますから、選手同士の心のつながりや絆も生まれると思うんですよね」

――この仕事をする上でのやりがい、醍醐味などを教えて下さい

鎌田「やっぱりチームが勝った時はものすごく嬉しいですし、優勝したときは何よりも嬉しいです。この一年間が報われたという気持ちになります。あとは、選手達が成長していく姿を見届けられるということでしょうか。入団当初はまだまだの体つきだった選手が、体格がしっかりして更には技術もついていって……選手として立派に成長していく姿を見るのが好きです。僕には子どもが2人いるんですが、子育てと似たような感覚がありますね」

 若い選手が躍動するチームにとって、NPB10年目のトレーナーは”業界のよき先輩”であり、時には父親のような存在なのではないだろうか。本場アメリカで学んだ知識と豊富な経験で、これからも選手の活躍を支えていってほしい。

文:戸嶋ルミ
取材協力:オリックス・バファローズ