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 J.T.氏は大学卒業後に単身渡米。スポーツ科学(コーチング)修士号を取得し、サンディエゴ・パドレス傘下マイナーリーグAAでS&Cインターンとして経験を積んだ。

 メジャーでセットアッパー及びクローザーとして活躍した大塚晶文投手(現中日派遣コーチ)の通訳兼コンディショニング補佐を務めた後、千葉ロッテマリーンズ、東京ヤクルトスワローズ、横浜DeNAベイスターズでコンディショニング・コーディネーターとして活動した。

 17年から独立し、プロ野球選手、オリンピック陸上選手、パラリンピック車椅子フェンシング選手などのアスリートだけでなく、子供から高齢者まで老若男女問わずトレーニングをサポートしている。米国や日本の球団を渡り歩いた経験を生かし、コーポレートコンディショニングという企業のトレーニング意識を変えるコーチングも行っている。

 J.T.氏は「米国で培った経験が自分の人生、仕事に対する向き合い方の原点になっています。米国ではトレーナー、グラウンドキーパー、クラブハウスマネージャーのことを裏方とは言いません。彼らは選手と対等な立場であるという認識で、『自分の人生は自分が主役』という考え方です。これは日本で生まれ育った私には衝撃でしたね。だからそれぞれの仕事が全て格好よく、輝いて見える」と振り返る。

パドレスで大塚晶文投手(現中日派遣コーチ)の通訳兼コンディショニング補佐を務めたJ.T.さん(右)

 ある出来事を鮮明に覚えている。S&Cのインターンで参加した03年のパドレスのスプリング・キャンプだった。メジャー歴代2位の601セーブを挙げ、伝説の投手として知られるトレバー・ホフマンが右肩を手術し、当時リハビリ組で調整していた。

 ホフマンは「その道のプロフェッショナルだから全部任せる」とチームのトレーナーにリハビリメニューを一任。04年に大塚が入団した際は気さくに話しかけるなどチームに溶け込みやすい環境を作ってくれた。

 「ホフマンの凄いところは僕みたいな若造のトレーナーにも積極的に話しかけてくれたことです。日本ではスーパースターと入ったばかりのトレーナーが接する機会などほとんどありません。

 トレーナーにメニューを一任する姿勢も、仕事ぶりに敬意を払っているからこそだと感じました。ホフマンの人間性に感動しましたし、仕事に優劣はなく互いに尊敬しあう関係性が大事なことを学びました」と強調する。

 グラウンドキーパー、クラブハウスマネージャー、球場の警備員…野球に携わるすべての人たちが自分の仕事に誇りを持っている。クラブハウスマネージャーが仕事の対価として「選手から受け取るチップが少ない」と主張することも珍しくない。警備員は選手が球場入りする際に「頑張れ!」とグータッチで激励する。日本では考えられない光景だ。

 メジャーリーグの生存競争は厳しい。昨日までチームメートだった選手がトレード、戦力外通告を受けてチームを去るのは日常茶飯事だ。J.T.氏はここにも日本と大きな違いがあると指摘する。

 「日本は未だトレードや戦力外がネガティブな形で受け取られることが多い。お別れの時も重苦しい雰囲気になったのを日本の球団で何度も経験しました。でも米国でプレーする選手たちは捉え方が違います。『新しい環境でプレーできる』ことを前向きにとらえます。

 周りのチームメートも『またどこかで会おうぜ』とガッチリ握手する。ユニフォームや環境は変わっても野球をできることには変わらないという思いが根底にあります。悲観することはなく、気持ちの切り替えが早いですね」

 選手、コーチ、サポートするスタッフだけではない。

 ファンと選手の距離感も日本と米国に違いを感じるという。「米国は野球が文化として根付いているので、ファンが選手をリスペクトしていると強く感じさせられます。もちろん不甲斐ない結果に対してブーイングをすることはありますが、それは結果に対してです。

 日本は球場に来た一部の人たちが選手に汚いヤジを飛ばしますが、ああいったことは米国では考えられません。日本のファンも野球に対して熱い思いで応援する人が大多数だと思います。どちらが良いとは一概には言えませんが、観戦のスタイルは違いますね」

「米国で培った経験が自分の人生、仕事に対する向き合い方の原点になっています」と語る J.T.氏

 米国での得難い経験は自身の活動の礎になっている。現在はストレングス&コンディショニング領域をアレンジ、シンプル化させ、「俺、最高。」「やってみるをかなえる。」をキーワードに自分の肉体の可能性を高め、向上していくサポートを行っている。

 日本を飛び出し、中国やブラジルで選手たちの指導を行うことも。「日本のトレーナーの技術力は世界的にも評価されています。米国だけでなく、色々な国で活躍するチャンスは今後増えると思います。僕が米国から多くのことを学んだように、若い人は早い時期から海外に行って色々経験して欲しい。その手助けもしていきたいですね」と言葉に力を込めた。

記事・写真=平尾類