-Baseball Job Fileの記事一覧はこちら- プロ、アマを問わず野球界に関わるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、現在の野球中継に欠かせない存在であるリポーター、インタビュアーとして活躍中の羽村亜美さんに、仕事の内容と…

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 プロ、アマを問わず野球界に関わるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、現在の野球中継に欠かせない存在であるリポーター、インタビュアーとして活躍中の羽村亜美さんに、仕事の内容と仕事へのこだわり、ベンチリポート&ヒーローインタビューの奥の深さを聞いた。

■球場に足を運び、独自のネタを集める

――お仕事は今、どういうことを主にやられているのですか?

羽村 フリーのスポーツリポーターの名の下、野球を中心に中継のリポーター、ヒーローインタビューを担当させてもらっています。プロ野球だけではなく、高校野球、大学野球、そして社会人野球も担当しています。

 プロ野球は2010年から5年間楽天の主催試合を担当して月に半分ぐらいは仙台にいました。その後、2017年からはオリックス主催の試合の中継を担当しています。

――普段、担当するプロ野球の試合がある日は何時頃から球場にいるのですか?

羽村 ナイターでも昼前には球場へ行くようにしています。選手が来るのがお昼前くらいなので、その前には球場へ行きます。1対1で話してくれる内容と、報道陣がたくさんいてカメラが回っているところで話す内容では全然違ってくるので、ゆっくり話を聞けるように、できるだけ早く球場へ行っています。

 また早く行くことで見られる早出練習だったり、選手たちのちょっとした変化も見逃さないようにしています。足を運ぶことが私のモットーなので、関東で試合をする時など、できる限り球場へ行くようにしていますね。アマチュアの取材では「子供連れておいで」と言って頂ける現場が多くありがたいです。

――その中で面白い話を聞いて、独自のネタを集めることがリポートするためには非常に大切になる?

羽村 はい。ベンチリポートは、聞いている人が「あ、なるほど」と思えるようなリポートをしたいと思っています。そのためのネタ収集は大事です。

 例えば中継中に解説の方が「○○投手のスライダー去年と曲がり方が違いますね」という話になったとします。そこで「そのスライダーですが、実は…」というリポートが入れば、放送席の話題も広がるし、絵もつながる。

 視聴しているファンの方も「へぇ~」と感じてもらえる。聞いている方に「へぇ~」って言ってもらうためには、選手から直接話を聞かないといけないですし、野球についても知っておかないといけない。

 野球は難しいです。「知ったふり」をしないで、わからないことはわからないで聞いたり、学んだりしています。その会話の中で「あの時、こうでしたよね」って話をするためには、常に試合を見ておかないといけない。

――じゃあ、取材したものはノートなどにビッシリと書いている感じですか?

羽村 いや、そりゃもう、すごいっす(笑)。取材ノートだけで言ったら200冊とか…。清書した綺麗なノートと汚いメモノートがあって、汚いものはこの間、引っ越しの際に一気に捨てたんですけど、いやもう、ものすごい量でした(苦笑)しかも取材ノートの自分の字、読めません(笑)

――中継中はリアルタイムで試合が動いて状況も変わっていく。レスポンスの速さ、タイミングが大事になって来そうですね?

羽村 はい。そこがすごく難しいとことですね。CMに入る関係もあって、2アウト2ストライクは注意ですね、ただ、放送席の話とマッチしていて、これは入れた方がいい!と判断したら入れています。

 もちろん、完結でまとめられるように。リポートの時間は何秒と決められている訳ではないですけど、実際のプレーと放送席の話が合うように、限られた時間の中にしっかりと情報を入れて話さないといけません。

 すでに新聞に載っている話をそのままリポートはしたくない。あと、映像とマッチして入れたい情報があったとしても、野球中継のポイントというか、「見せ場」だと、リポートは控えますね。今日の試合はここだろう!!という「見せ場」です。この場面は放送席に任せて、見せた方がいい!というところは我慢します。

 独自のネタを10個持っているとしたら、1ついれればいいくらい。「捨てる我慢」も大切です。いつかその情報も絶対生きてくるので。

――ネタ集めのコツや選手に取材する上で心がけていることなどはありますか?

羽村 とにかく足を運ぶことですね。仕事がなくても足を運んで顔を合わせる。そうすることで選手の少しの変化に気付くことがありますから。

 社会人や大学の試合も担当しているので、そこで取材した選手などがプロに行って活躍したりして、ヒーローインタビューをできた時は嬉しいですね。

■報道陣の要望に応え、ファンを盛り上げ、選手の笑顔を引き出す

――ヒーローインタビューも担当されていますが、試合中のリポートとはまた違った難しさがあると思いますが?

羽村 めっちゃ難しいですね(苦笑)。ヒーローインタビューは元々はテレビ中継のために始まったそうですが、今はスタンドのファンの皆さんを盛り上げることも大事になってきた。

 イベント演出要素もありつつ、やはり代表インタビューなので、テレビにも新聞にも使えるような内容を聞いて、選手のコメントを引き出さないといけないと思っています。試合によっては、ヒーローが1人の時もあれば2人、3人の時もありますし、場合によっては4人なんてこともある。決まりはないのですが、私は、真面目なコメントだけではなく、普段の選手の表情だったり、笑顔を引き出したいので、お立ち台に上がった選手同士を絡ませることもあります。

 そのため、選手たちがどういう関係性かを知っておきたいですね。ヒーローの直前には監督インタビュー担当する日もあるので、考える余裕はあまりないですね(笑)
もちろん、両チームのヒーローを担当しているので、1球も見逃すことはできません!!

――お立ち台という特殊な場所で選手から面白い言葉を引き出すには工夫が必要になりますよね?

羽村 そうですね。私が気を付けているのは、なるべく当たり前のことは聞かないようにして、その上で何を聞きたいかというものをハッキリとすることですね。たまに選手が「はい、そうですね」だけで終わってしまうインタビューがありますけど、そうならないよう、選手の言葉を全部言ってしまわないように気を付けています。

 「どんな気持ちでバッターボックス入りましたか?」「マウンド上がりましたか?」のお決まりのフレーズは使いたくないですね。試合のポイントを押さえて、ファンが聞きたいこと、報道陣が聞きたいこと、その全てを聞き出さないといけないですし、選手の笑顔も欲しい。

 場合によっては、直前までヒーローインタビューが誰なのか分からないこともあったり、突然、違う選手が出てくることもあったりしますからね。

――今までで印象的だったヒーローインタビューはありますか?

羽村 楽天が優勝した2013年の田中将大投手ですかね。

 その年は田中投手が24連勝したシーズンで、連勝記録をどこまで伸ばせるかに注目が集まっていたんですけど、ヒーローインタビューでも普段の取材でも誰が聞いても、「数字は関係ありません。チームが勝てればそれでいいんです」と同じ答えで、インタビュアーとしては「何か別の言葉を引き出したい」と思っていたんです。

 そんな中で迎えた7月26日でした。ロッテ戦で、井口選手(現ロッテ監督)が田中投手から本塁打を放って2000本安打を達成して、ロッテが1点勝ち越したまま9回裏の攻撃。

 もう私の頭の中は「2000本安打のヒーローインタビュー!」、ものすごい責任のあるインタビューで「私でいいのか?」と、もうホント、そこしか考えられなくて…。そうしたらあれよという間に同点に追いつき、嶋選手がサヨナラタイムリー。

 田中投手が連勝記録をまた伸ばして、お立ち台は嶋選手と田中選手。頭の中は2000本安打だったんですが(笑)、自然と「田中投手が投げれば負けない!これはファンのみなさんが感じてますよ!」って言葉が出たんです。

 そうしたら田中投手が「ヤバイですね」って答えてくれた。ホント、自然な笑顔で。そしたら、その日のニュース、次の日の新聞、ほぼ「ヤバイですね」で。インタビュアーとして違う言葉を引き出せたという嬉しさがありましたね。

■「自分だから聞けること、自分にしか聞けないこと」

――子供の頃から野球が好きで、学生時代はマネージャーを務めていたそうですが?

羽村 野球を見始めたのは父の影響ですね。でも高校ぐらいまでは全チームは言えなかったですよ(苦笑)。

 中学の時はソフトボールをやっていて、高校の時に野球部のマネージャーをしていたんですけど、そこでスコアブックで自責点を間違えて監督にものすごく怒られたんです。

 でもそのことがきっかけで自責点の奥深さにハマって、自然とルールの難しさにもハマって、監督に「ルールブックを持ち歩け!」と言われて、今も常に持ち歩いているんですけど、「野球規則の本」が愛読書なんです。暇さえあれば読んでます(笑)

――なるほど(笑)。電車の中とかで「野球規則」を読んでいる人がいるとちょっとギョッとしますけど(苦笑)、すごいですね。それも含めて、お仕事をしている中でどのような部分に面白さを感じますか?

羽村 いろいろあるんですけど、人と出会えることですね。高校時代に取材していた選手が大学に行って活躍したり、社会人でもプレーしたり、そこからまたプロに行った選手を取材できたりする。

 高校時代に対戦していたとか、選手同士の繋がりを感じることができるのも面白い。私自身も取材を通じて、選手たちから信頼してもらえたら嬉しいですし、それがリポートなどに反映できた時は嬉しいですし、ヒーローインタビューがバシッと決まった時もすごく気持ちがいい。そういう日はホント、ビールが美味しいですね(笑)。

――2013年の楽天の優勝時にはビールかけの中継も担当しました。お酒が強いという噂もお聞きしましたが?

羽村 はい。ビールが好きなんですけど、その後も永遠と飲めますし、次の日はケロっとしてます(笑)。2013年のビールかけでは中継をやらせてもらったんですけど、周りからは「皮膚からも吸収して酔っ払うから気を付けて」と言われていたんですけど、ぜんぜん吸収しなくて…、足りなかったです(笑)。

 その時もそうですけど、単純に「ビールの味、どうですか?」とか、普段のヒーローインタビューでも「ナイスバッティングでしたね?」という単純な質問だけじゃなくて、自分だから聞けること、自分にしか聞けないことを聞いて、選手の言葉を引き出せるようにしたいと思っています。

 そのためには、やっぱり普段から球場に足を運んでコミュニケーションを取ることが大事だと思います。

――プロアマ問わず、様々な場所に取材に行かれていますが、これからオススメの、野球ファンにもっと見てもらいたい現場などはありますか?

羽村 今、社会人野球の魅力をどんどん発信していこうと動いています。都市対抗は夏の祭典で盛り上がりを見せますが、その都市対抗に出場するための各地区の予選は本当に熱い!全ての野球の魅力が詰まっています。

 社会人からプロへ行く選手は即戦力で活躍している選手が多いですし、プロへ行かなくてもミスター社会人として活躍している選手もいます。高卒で若い力を発揮している選手もいます。そんな野球界の縦のつながり横のつながりも深くて人間味溢れています。とにかく一度見て欲しいですね。

 6月1日から社会人野球の番組を立ち上げるんですけど、そこで色々な動画を発信していきたいと思っています。

――今後、やってみたいこと。自身の未来像などはありますか?

羽村 いつか野球の実況をやりたいという夢はあります。女性実況って賛否ありますが、「男も女も関係なく」というところを目指していきたい。

 実況でも、女性実況が普通になって、聞いている人が何の違和感を感じなくなるように、自分が率先してやっていきたい。ビールかけの中継も、もう一回やりたいですね。焼酎でも日本酒でも浴びながらインタビューしたいっす!

▼プロフィール
羽村亜美(はむら・あみ)/1984年生まれ、東京都羽村市出身。中学時代はソフトボール部、都立武蔵村山東高では硬式野球部マネージャーを務めて「日米選抜高校野球大会」の正式記録員に選出される。明治大学でもマネージャーを2年間務めたが、退部。「野球のない国」と検索して出てきたネパールで2カ月生活し、「やっぱり野球の仕事がしたい」と心に決める。大学卒業後、広告代理店、アスリートのマネジメント会社を経て、フリーアナウンサーへ転身。2010年から5年間は楽天イーグルス主催試合のリポート、インタビュアーとして活動し、2017年からはオリックス主催試合の中継を担当。プロ野球中継の他、社会人野球、大学野球、高校野球のリポーターも務め、これまでのヒーローインタビュー務めた試合は500試合以上に上る。趣味は、ビール、草野球、ゴルフ、ランニング。愛読書は野球のルールブック。一児の母としても奮闘中で、アナウンス業務の他、記者、ディレクター業務も務める。

取材・写真=三和直樹