ブラジル代表監督、チッチが『フランス・フットボール』誌(3月31日発売号)のインタビューに応じた。聞き手は同誌のパトリック・ウルビニ記者である。

 取材時間を経るにしたがい……チッチの言葉も熱を帯び、内容も自身のサッカー哲学と理想のチーム像、セレソンの現状と課題など、ディープで本質的なものになっていった。もちろんネイマールへの言及も。

 チッチはブラジルをどこに導こうとしているのか。その高みに立ったときに、いったい何が開けてくるのだろうか。

監修:田村修一

「今も1982年WCの代表だけが唯一の指標だ」

――現在のブラジルのプレーのアイデンティティをどう定義しますか。どういうスタイルを模索していますか?

「私の心の中では、今も1982年WCの代表(《黄金の4人=ジーコ、ファルカン、ソクラテス、トニーニョ・セレーゾ》と呼ばれた中盤を中心にした攻撃的で創造力に溢れるスタイルが、世界中のサッカーファンを魅了した)だけが唯一の指標だ。ファルカンとソクラテス、ジーコ、ジュニオールの創造力といったら……。本当に魅力的だった!

 あのテレ・サンターナのチームが優勝できなかったのだから歴史は不公正だ。バランスがとれ創造力に溢れたサッカーを実現したうえに、堅実で競争力も高かった。ふたつの異なる要素を融合できたのは、サッカーの本質的なエッセンスに到達したということだ。

 2002年WC優勝チームもバランスがとれていて強固だったうえに、攻撃力やテクニックも申し分なかった。では、今のチームのバランスはどこにあるのか?」

――どこでしょうか?

「高い位置でプレーしながらプレスもかける。中間領域でプレスをかける。さらには低い位置でプレーする。この3つの状況の他に、できる限り素早い攻撃を仕掛ける。あるいは相手の低いブロックに対して、パスを多用して豊富なプレーのメカニズムを作り出しながら、今だと判断した瞬間にはアグレッシブな攻撃で相手に挑みかかる。
 それらすべてのやり方を身につけるのは簡単ではないし理想にすぎないが、それが私の理念でもある。

 試合で3つの局面を攻撃でも守備でも自在にコントロールできたら、そのうえにセットプレーでも効率性を得られたならば、すべてが完璧となる。状況をコントロールすればするほど、プレーの多様性を増せば増すほど、チームは素晴らしくなっていく!」

「繰り返すが理想はすべてできることだ」

――そのためにはさらに選手が必要ですか。現在のブラジル代表は、プレーのあらゆる局面において効率的であるといえますか?

「それこそが私の大いなるチャレンジだ。監督はいかなるときも適応しなければならない。試合に対して、それぞれの状況に対して、相手との力関係に対して。そうした異なる状況に対して代表監督は、幸いにして自身の理念に即した選手を起用することができる。

 クラブの監督だったときは、私自身が選手のグループに適応しなければならなかった。

 2012年にコリンチャンスでクラブWCに優勝したときは、攻守の切り替えが素早くカウンターに長けたチームが決勝でチェルシーを破った(結果は1対0)。だが2015年にブラジルチャンピオンになったときは、ブラジルスタイルを実践する《美しい》チームだった。それに相応しい選手を得たことで実現が可能になったからだ。インテルナシオナルでも同様で、2008年と09年のチームは《ジョゴ・ボニート=素晴らしいプレー》を実践することができた。

 繰り返すが理想はすべてできることだ。あなたの質問に戻れば、ひとつかふたつのポジションが以前よりも弱いと認めざるを得ない」

「中盤のつなぎ役がいないのは明らかだ」

――それはどのポジションですか?

「中盤のつなぎ役がいないのは明らかだ。かつてのファルカンのような選手だ。今日でいうならデブライネのようなタイプで、低い位置でプレーしながらカゼミーロを助けることができる。同時に攻撃に加わったときは、より高い位置で積極的に絡んで創造力とスピード、衝撃をもたらす。

 リヨンと契約したブルノ・ギマラエスは東京五輪南米予選の最優秀選手でもあり、このポジションで大きなポテンシャルを持っている(3月末に予定されていたWC南米予選のボリビア戦とペルー戦では初めて代表に選出された)。ミランでプレーするパケタにも可能性を感じる」

――サイドバックにもかつてのような人材はいません。

「左はロディが最近頭角を現した。彼の攻撃力は面白い。不安は右の方が大きい。ダニエウ・アウベスは依然としてプロフェッショナリズムの手本であり、そのメンタリティは卓越している。身体のケアも他の選手とは全然違うしプレーも追随を許さない。しかしもう37歳で……。

 後に続くのはダニーロだが、怪我で今季は代表でほとんどプレーしていない。またアレックス・サンドロは、どちらかといえばイタリアタイプの力強いディフェンダーだ。

 ただ、こうしたことはしばしば世代の問題でもある。今、ブラジルはふたりの偉大なGKを抱えている(アリソンとエデルソン)。かつて1度もなかったことだ」

ネイマールはどう起用するのがベストでしょうか?

――それではネイマールの質問をする前に、アリソン―チアゴ・シウバ、マルキーニョス―カゼミーロ―フィルミーノという縦のラインには何の懸念もありませんか?

「ない。私のチームには異なるプロフィールとキャラクターを持つ複数のリーダーがいる。彼らは私の仕事を助けてくれるし確信を与えてもくれる。テクニカルで創造力に溢れたリーダーや、チームを統率し戦うものたちの先頭に立つリーダー……。

 他にも存在感を現しつつあるものたちがいる。リバプールに移籍してからのファビーニョがそうで、新たな次元に到達した。またガブリエル・ジェズスは私が19歳で代表デビューさせたが、今も成長を続けながら成熟しつつある」

――ネイマールはどう起用するのがベストでしょうか?

「試合の度ごとに私は同じ質問を繰り返している。どうすれば最大限を引き出せるか。彼の周りにバランスの取れたチームを構築できるのか……。

 PSGの彼は、ムバッペやイカルディ、カバーニとともに4-4-2のアタッカーとしてシステムによく順応している。だが、クラブと代表の両方を通して彼にとってベストだったと私が考えるのは、バルセロナ時代のポジション――左サイドでプレーしながら最後は中央に切り込んでいくスタイルだ。

 別の言い方をすれば、中盤と連携しているサイドを離れて、プレーの視野と、判断と初動の速さ、即興能力……さらにはスピードが加わって中央で力を発揮する。

 私が見る限り彼が最も輝いたのはあの時期だった。到達したプレーのレベルは並外れていて、彼を上回るのはメッシとクリスティアーノ・ロナウドだけだった。アザールやポグバ、グリーズマンですらあのレベルのプレーは見たことがない。当時のネイマールは、フィジカルもメンタルも完ぺきだった」

「ネイマールは重要だが代替不能な存在でもない」

――ネイマールのいるブラジルといないブラジルがありますか?

「ネイマールは重要だが代替不能な存在でもない。私は勝利や敗北を個人の力に帰す考え方にはずっと反対している。

 メッセージとして伝えたいのは逆で、チームとしてプレーし行動するコレクティブな理念だ。個が力を発揮するのはコレクティブな力を得てからで、そのときはじめてネイマールやコウチーニョ、リシャルリソンらが自らを表現して違いを作り出す」

――ネイマールと他の選手の関係、グループ内での彼の行動をどう判断していますか?

「カメラが回っていないときのネイマールは、あなた方が知る彼とは大きく異なる。冗談を言ってはふざけあう大きな子供に戻る。

 リシャルリソンやガブリエル・ジェズス、アルトゥール、エデルソンたちとグループを形成していて、ピッチの上でも外でも楽しくやっている。とても陽気なグループで、いい雰囲気で仕事に励んでいる」

「ベルギーは成熟したチームだった」

――ここまであなたのチームは、公式戦を23試合戦い1度しか負けていません。唯一の敗北となったWC準々決勝ベルギー戦(1-2)では、失点はセットプレーとカウンターアタックによるものでした。

「結果や内容にもよるが、ひとつの試合は常にふたつの異なる解釈をなし得る。準々決勝で敗れはしたが、ブラジル対ベルギー戦はロシアWCのなかでもベスト3に入る素晴らしい試合だった。ピッチ上で目にしたテクニックのクオリティといったら信じられないぐらいだった……。かたやデブライネ、かたやネイマール。こちらにコウチーニョがいれば、相手にはアザールがいた。GKではクルトワ対アリソン。ただ、結果だけが、われわれのパフォーマンスを反映していなかった。少なくとも延長に突入すべき試合だった。

 ベルギーは成熟したチームだった。感情のコントロールに長けていたし、大きな大会での経験でわれわれを上回っていた。だが、私がこれまで指揮した48試合の代表戦のなかで、この試合が最も多くのシュートを放った試合であると同時に、想像力を発揮した試合でもあった。枠内シュートも9本で2番目に多い試合だった。ただ、それでもなお十分ではなかった。枠にシュートが飛ばず、効率的でなかったのならまだわかるが……」

――そこがあなたの最大の後悔ですか?

「この試合のことを思い出さないときはないし、眠れなくなることもある……」

「予選突破がまずは最優先だ」

――次のカタール大会まであと2年ちょっとになりましたが、別の物語になりますか?

「ブラジルではWCが他の何よりも価値がある。そして2022年は、すでに人々の頭の中にある。

 予選突破がまずは最優先だ。私のすべてのエネルギーと集中力も予選に向けられている。コパアメリカもあるが、今回は目的としては二の次だ(インタビューは3月末に予定されていたWC予選兼コパアメリカ2020予選――本大会は6月12日~7月12日にアルゼンチンで開催予定だった――が延期になる前におこなわれた)。突破という目的を達成するまで、一歩ずつ地道に仕事を続けながら進化していきたい」

ベネズエラでさえ代表選手の大半は欧州でプレー。

――ヨーロッパから見たら、ブラジルはWC予選を18試合戦っても何の意味もないように見えますが……。

「すべての試合が厳しいのは間違いない。どのチームも間違いなく大きく進化していて、20年前や30年前とはそこが大きく異なる。どの国も本当によく働いている。インフラを整備し、方法論を進化させ、プレーの戦略もどんどん向上している。ベネズエラのような小さな国ですら、今は代表選手の大半がヨーロッパでプレーしている。

 予選の最初はキトでのエクアドル戦だった。そのときは『選手たちはまだ自信を失ったままだ。だからキトではそれを取り返したい』と思っていた。

 だが、試合が始まるや否や、相手は猛烈なプレスをかけてきた。最後の15分間で違いを作り出すことができて3対0で勝ったが、簡単な試合ではなかった。対戦相手がブラジルの名前を恐れ、ホームゲームといえども低くブロックを固めてカウンターを狙ったのは今や昔だ。今日では南米のどのチームも、ブラジルにひと泡吹かせようと虎視眈々と狙っている」

――それでも《ブラジルはブラジル》として屹立させるのが、あなたの使命であるわけですね。今日はどうもありがとうございました。

(【前編】ブラジル代表監督、独占インタビュー。チッチ「ブラジルは常に革新されねば」 を読む)
 

(「フランス・フットボール通信」パトリック・ウルビニ = 文)