コロナ禍によってスケートボードが売れに売れている。

 新型コロナウイルスによるパンデミックが本格化した3月以降、移動の自粛が求められる中で、ちょっとした場所があれば出来る運動、家で出来る運動がブームを呼んでいる。小型のトランポリンや縄跳びといったワークアウトなどが注目を集めてきたが、その一方でスケートボードにも空前のブームが巻き起こっているのはご存知だろうか。

 スケートボード関連でのブームと言えば、10年近く前にペニースケートボードに代表される“バイナルクルーザー(プラスチック製のカラフルなスケートボード)”が爆発的なヒットとなったが、トリックやシーンがあまり確立されておらず、主に「プッシュ(地面を蹴って進むこと)」を楽しむ以上の発展を迎えることなくブームはひと段落していた。今回のブームにおいては、オリンピック競技にも採用されているメインストリームのスケートボードがまさに“バブル”を迎えているのだという。

一斉休校と1人で始められる気楽さから需要が急増。

 その実態はこうだ。

 きっかけは、3月に全国の学校が一斉に休校になってしまったことと、ソーシャルディスタンスを保つ意味でチームスポーツがセーブされてしまったことにある。学校が休みになり、なおかつ友達同士で集まることもできないとなると、個人で楽しむことができ、なおかつ他人との距離を気にせず遊べるスポーツへの関心が高まってくることは自然な流れと言える。

 そこで、もともとオリンピック効果によって注目が高まりつつあったスケートボードの需要が、このタイミングで急激に高まり、これを機に始めてみようという人が爆発的に増え、学生年代を中心に盛り上がっていったのが現在のブームへと繋がっていった。

 確かにスケートボードは1人でもできるし、家から一歩外に出ればどこでも簡単に遊ぶことができる。この2~3カ月であちこちでスケートボードを楽しむ姿が急増したのも頷けるわけだ。

 日本では道路交通法76条4項3号によって、「交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること」が禁止されているが、交通のひんぱんな道路ではソーシャルディスタンスそのものを保つのが難しいのは明白だし、そもそも危険性が伴うので、あえてそこでやるということはない。それぞれが試行錯誤しながら、“NO密”の状態がキープできる場所を見つけてスケートボードを楽しんでいるというのが実情のようだ。

 しかし、高まる需要とは裏腹に商品を買いたくても買えない、という現象も同時に起こってきてしまっているという。

生産工場がストップしたことによるアイテム不足。

 世界中に商品を供給しているアメリカの大手ディストリビューターの生産工場がコロナ禍によってストップしてしまったのが、品薄の原因である。合わせて輸出入にかかわる飛行機や船の稼働も極端に減ってしまい、運搬にも遅れが生じたことで国内のショップ、輸入代理店ともに品薄の状態が今も続く。

 個別のギアで言うならば、ビギナーが買うことの多い「コンプリートセット(すでに組み上がっていてすぐに滑走可能な完成品)」はもちろんのこと、「ウィール(車でいうタイヤに当たるパーツ)」と「トラック(土台となる金属のパーツ)」という、元々のブランド数が少ないパーツが特に品薄になっており、感染予防マスクで起こったような本来の価格の数倍の値段で販売する悪質な転売ヤーまで出てきてしまったのだから、異常事態と言っていいだろう。

 それでもメインパーツである「デッキ(ボード)」は、今までと比べると少ないとはいえ、ブランド数や生産枚数が元々多いので、まだ対応できるストック数が確保できているとのこと。

 現状は工場は動き始めたものの、まずは本国アメリカの需要を満たさないと日本を含めた他の国には商品が入ってこないため、それを待っている状態だ。日本ではこの品薄が7~8月、場合によってはもっと延びる可能性もあるという話も聞こえてくる。

ブームはまだまだ続く……。

 以上のような2つの出来事が同時に起こったことにより、売りたいのに売るものがないという前例のない状態に陥っているスケートボード市場。

 それも学校が部分的ながら再開し始めたことで需要も落ち着きを見せていくのかと思いきや、プロショップやスケートパークから聞こえてくるのは、問い合わせや売れ行きは衰えるどころかむしろ増しているといった声の方が多い。

「コロナ禍で始めた人が多い理由としては、休校になったタイミングが3月という春休みシーズンだったのもあると思います。例えば田舎から上京した大学生が長期休みで田舎に帰ったのはいいけど、移動が制限されたことで戻れなくなってしまいました。その上田舎では都会よりも遊ぶ施設が少ないということもあるでしょう。そこで友達が持っていたので自分もやってみようと思いました。といった声はお客さんからよく聞きます。

 今はそこから3カ月くらい経ったのですが、このタイミングはちょうどパーツを買い替える時にあたるので、そういった需要での来店も増え始めてきました。さらに学校も徐々に再開し始めたことで人と会う機会が徐々に戻りつつあります。そこでコロナ自粛期間に始めた人の友人が自分も始めてみようかなという形で、今は二次連鎖が起きているように思います。実際にネットショップに商品をあげると、すぐに他県の方からの注文が入ってしまい、地元のお客さんに売る分が無くなってしまうんですよ」

「新規のお客さんがすごく増えましたね」

 さらに緊急事態宣言解除後、徐々に営業を再開し始めたスケートパークからも自粛以前と比べて明らかな変化を口にする。

「新規のお客さんがすごく増えましたね。今まで自宅近くで地道に練習してきた人が、今度はスケートパークにトライしようという形で練習しにくる方が多いですね。土日はもともとそれなりの数が来ていたんですが、今は平日でも自粛前の倍以上は集まっています。

 それに合わせて、初心者なんですけど利用することは可能ですか? スケートボードはどこで売ってますか? 早くスクールを再開してほしいです。と言った問い合わせもすごく増えました。ソーシャルディスタンスを保つ関係で現在スクールは検討中なのですが、再開したらどこも殺到するのではないでしょうか」

ブームに乗じて一層高まるオリンピックへの期待。

 そして、これに呼応するようにオリンピックへの注目も高まっているようだ。

 それは実際に今年に入ってからスケートボードを始めた小・中学生の子供を持つ両親の言葉からも感じとることができる。

「自分は実際に子供が始めるまでスケートボードのことはあまり知らなかったんですが、堀米雄斗選手の影響力が本当にすごいですね。あそこまでの功績を残しているだけでなく、日本人が世界のトップまで上り詰めたことで、ひとつの夢として自分の子供たちもより身近に感じることができているように思います。

 今はYouTubeで検索すればコンテストの映像もすぐに見ることができるので、そこで見た彼のトリックのことを目をキラキラさせて話しかけてくるんですよ。ものすごく観察しているのがわかりますし、何かに興味を持って調べたりするのは凄くいいことだと思っているので、自分もオリンピックは子供と一緒に応援していきたいと思っています」

 このように、今やスケートボーダーは子供達のヒーローになる時代となった。

 そしてこの数年で劇的に進化した日本はスケートボードの世界で、今やアメリカ、ブラジルと並ぶ三大列強と呼ばれるまでに成長している。

 そこにこのようなブームが起こったとあれば、あとちょっとしたきっかけさえあればさらに一般に浸透し、人気が爆発するかもしれない。

 このような言葉を聞くと、それだけの素材は揃い始めているのではないかと思えて仕方ない。

選手のモチベーションにも多大なプラス効果が。

 実際に日本でスケートボードブームが起こっていることを、現在アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動している日本のエース、堀米雄斗に話を聞くと、本人も歓迎の言葉を残してくれた。

「単純に嬉しいですね。コロナの自粛がきっかけということもあるかもしれないですが、自粛があけてもやめずに続けてもらいたいなと思います。スケートボードの楽しさをどんどん知っていってもらいたいと思いますし、それを共有できる仲間が増えるというのはいつだって嬉しいことです。

 スケートボードのカルチャーがもっともっと浸透してほしいと思いますし、オリンピックもそのきっかけのひとつです。だからたくさんの人に応援してもらいたいし、そこからさらに定着していったら最高だと思います」

 ブームが起これば、当然注目は高まる。注目が高まれば、当然応援する人は増える。

 そして応援する人が増えれば、当然選手のモチベーションは高まる。

 さらに選手のモチベーションが高まれば、当然好成績に繋がるしメダル獲得の可能性も上がる。

 もちろんこれらは一概に断言できるものではないが、未来に期待が持てるひとつの要素であることは間違いないだろう。

 先ほども書いたが、この先に必要な人気爆発のちょっとしたきっかけが、仮に来年の五輪であったとしたら、

 スケートボードが歩むシナリオとしては、この上ない最高のものになるだろう。

五輪延期で日本勢の新たなトリックが見られるかも!?

 さらに五輪の延期も、日本勢にとってはプラスに働く公算の方が高いと言われている。

 その根拠は、下は11歳から上は21歳という日本の選手層の若さにある。

 実際に日本のスケートボード競技を管轄しているWORLD SKATE JAPANの関係者も、「まだまだ育ち盛り、伸び盛りの選手が多く伸び代も十分なため、1年の延期で多くの時間を練習に費やすことができるようになり、先頭をいく選手に追いつき、追い越す事が可能になったと考えている」との言葉を、五輪延期決定直後に残している。

 そして、五輪延期に伴う予選大会のシステムも先日発表された。現在初戦を終えた状態である第2シーズンの終了が2021年6月29日とされ、そのシーズン中のハイスコアー4戦のポイントを採用、すでに終了した第1シーズンのベスト2戦のポイントと合算されることが確定したのである。

 まだ第2シーズンの予選大会がどこで何戦行われるのかは発表されていないものの、現在のポイントよりも今後開催されるコンテストの方が比重が大きくなるので、選手個人が置かれている現在の立場で、状況は違えど、概ねプラスになるのではないかという見方の方が強い。

 現に堀米雄斗も、

「もともと温めていたトリックがいくつかあって、五輪でそれを披露してみんなを驚かせようと思っていたんですが、かなり難易度が高いので間に合わせるのに必死でした。延期になった分、しっかりと練習を積んで完成度やメイク率を上げていけると思うので、決まったことに対してポジティブに切り替えることはできていますね」

 と期待の言葉を残してくれている。

 伸びしろが大きい選手が多い日本の現状から見ると、さらに高難度のトリックを見ることができる可能性が上がったと捉えておいた方が良さそうだ。

東京五輪の先も見据えての活動を!

 暗い話題が先行しがちな世の中でありながらもポジティブな話題が上がる日本のスケートボードシーン。

 もしこのブームが追い風となって、仮に来年に延期された五輪でメダルラッシュとなれば、もしかしたら昨年のラグビーのようなブームが起こるかもしれない――その可能性は決してゼロではないだろう。

 だが今はコロナ禍によって時代の変革期を迎えており、現状で五輪やその先について話すのは時期尚早だという声もある。

 しかし、それ以上に関係者が一様に口を揃えて述べているのは、“五輪で終わらせてはいけない”ということだ。

 五輪では今まで日の目を見なかったマイナースポーツも脚光をあびることになるだろう。スケートボードも今までの日本では決してメジャースポーツと呼べるものではなかった。しかしオリンピック競技に採用されたことで、ビッグコンテストにはこぞって大手メディアが駆けつけるようになり、トップ選手は一般誌や民放のTV番組にまで登場するようになった。

 しかし、五輪はあくまでもメジャーになるきっかけにしか過ぎない。

 五輪で目標とする金メダル獲得はゴールではなく、むしろスタートと捉えるべきだろう。

 なぜなら日本のスケートボードシーンはまだまだ発展途上であり、環境面ではアメリカには遠く及ばないからだ。

 今後も継続的に世界で活躍する選手を輩出し続ける必要があるし、そのためには全国各地に良質なスケートパークを造り上げ、環境を改善していくことが必要だ。オリンピックで世間の認知度を高め、社会的地位をより高めることができたのであれば、次は環境のさらなる整備を進め、よりスケートボード文化を日本に根付かせていく必要がある。

 そのためにも、このコロナ禍で図らずしも発生した大ブームが、今後の日本のスケートボードシーンを良い方向へ導いていってくれたら幸いである。

(「オリンピックPRESS」吉田佳央 = 文)