フットボールのフェスティバルが11日のセビージャ・ダービーを皮切りにリスタートする。今回は無観客での開催とはいえ、熱狂度という点においてスペイン随一のダービーだ。フットボールが今現在置かれている状況をこれほど体現する一戦はないだろう。

 フットボールがフットボールとして存在し始めた頃から、その大衆を動かす力をもっとも発露していた場所がスタジアムだった。しかしこの試合においては、ファンは各所に散り散りになりながら、テレビの画面越しからしか観戦することができない。スタジアムの外からその熱い思いを発散するしかないのだ。

 先行き不透明な時代が幕を開ける。感情の持っていき場がないという矛盾した状況であるが、フットボールはいつものように造作もない様子でわれわれに新たな観戦様式を提供することだろう。

 困難な時期に直面しているからこそ、フットボールが持つ娯楽性が、劇的な効果をもたらしてくれるはずだ。多くの人々が不安やストレスに苛まれているからこそ、フットボールが持つエモーショナルな要素が負の感情の緩和させる一助となるはずだ。

 そう、こういう時だからこそ、どんな環境の変化にも適応し、さらにそこからアドバンテージすら見出すフットボールが持つ多様性が輝きを見せるはずだ。新しい日常の到来が謳われているこの状況だからこそ、それがどのようなものであろうとも大衆を動かすフットボールが持つ特異な力が改めて発揮されることになるはずなのだ。

 未知のウイルスへの不安や恐怖が渦巻く中でも、ラ・リーガは敢然と再開への道を模索し続けた。感染者数、死者数とも日々、増加の一途を辿っていた時も、ハビエル・テバス会長はシーズンを完結させることを唯一無二の目標として喧伝し続けた。もちろん打ち切りとなった場合に発生するだろう甚大な損失がその行動を引き起こす原動力になっていたのは間違いないが、再開に向けて邁進し続けてきた。

 新しいフットボールはどのようなものになるのだろうか。確かなのは、これまで通り11人対11人の対戦による試合を審判がジャッジすること。そう、フットボールが誕生した時のままの姿である。そのルールのシンプルこそがその後世界中に普及するに至った重要な要因であるが、異例の中断を経て、フットボールは長方形のフィールドの上で両チームの選手が純然たるスピリットを持って勝敗を競い合うという原風景へとわれわれを再びいざなってくれるはずだ。

 中断前と同様の展開でシーズンは進行していくのか? 自宅待機期間という不測の事態をプラスに変えるチームはどこか、逆にロスを被るチームはどこか? チームによっては35日間で11試合を戦うという過密スケジュールによる影響は? 交代枠が最大5人に拡大したことよる効果は? 

 ラ・リーガ1部で4分の1近くの23%を占める6月30日に契約が満了する選手たちはシーズンが7月19日まで延長となったことで、どのようなパフォーマンスを見せるのか? 無観客で競技が再開されたことで、ドイツでは上位と下位の実力差が拡大しているが、スペインでも同じ現象が起こるのか? それともラ・リーガが独自性を示して異なった結果を見せるのか?

 今回の再開にあたって脳裏に去来する疑問は尽きることがないが、これまで前例がないのだから、いくら思考を巡らせても確かな答えを見出せるわけではない。しかし、またこうした前代未聞の状況下で導入される様々な試みが格好の実験材料となって、旧来のスタイルからかけ離れつつあったフットボールのゲームに新たなバリエーションを提供するきっかけにもなるかもしれない。たとえば最大5人の交代枠がそのまま定着する可能性だってあるだろう。あるいはブレイクタイムが現行の前後半の2分割方式から頻度が増えるかもしれない。

 ヨーロッパカップ戦、欧州各国の主要リーグが一斉に中断された時、フットボールの行く手にかつてない暗雲が立ち込めたと思われた。ユベントスの会長、アンドレア・アニェッリは、「未曽有の事態」と警鐘を鳴らし、その影響は各クラブの財政に計り知れない損失をもたらすことが危惧された。

 しかし再開を直前に控えた今、取り巻く状況はそこまで悲惨なものではない。もちろん市場は縮小を余儀なくされるだろうし、選手の獲得にも深刻な影響を及ぼすだろう。しかし天井知らずの高騰を続けていた昨今のマネーゲーム化の現象を考えれば、マイナス面ばかりではない。

 ともあれ、いま何をさておいても歓迎すべきは、フットボールが再開すること。その周辺をポジティブに巻き込む力に感化されて、人々が元気を取り戻すことができれば、その意義は決して小さくはない。

文●サンティアゴ・セグロラ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

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