今回のコロナウイルスの感染拡大によるリーグ戦の中断はまた欧州各国におけるサッカーの立ち位置を示す機会にもなっている。ドイツ、スペイン、イングランド、イタリアが揃って再開を決めたのを尻目に、欧州5大リーグの中で唯一フランスだけが政府の方針を受けて4月30日にシーズンの打ち切りを発表した。

 同国のエドゥアルド・フィリップ首相は先日、リーグ・アンの中断に踏み切った決定について「英断だった」と自画自賛した。フランスでもここにきて感染拡大のペースは落ち着きつつあり、社会、経済活動は再開に向けて動き出している。しかしその自信のコメントは、他国の状況に左右されることなくこのまま打ち切りの決断を押し通すことが彼らにとっては一貫したスタンスであることを明確に示していた。

 フランスはサッカーが盛んな国だ。サッカー協会に登録されている選手は200万人を超え、その数はスペインの2倍に相当する。社会に果たしている役割も大きく、草の根レベルでの普及率は世界でもトップクラスだ。しかし、同時にこれほど政府のバックアップを受けていない国も珍しい。

 様々な公的機関や民間企業がサッカーに関連した活動を展開しているスペインやイタリア、SAP、メルセデスベンツ、アリアンツといった世界的な企業やアンゲル・メルケル首相が所属するキリスト教民主同盟(CDU)がブンデスリーガの各クラブと密接な関係を構築しているドイツとはその点で大きく異なる。

 そもそも、その発表の仕方からして唐突だった。エドゥアルド・フィリップ首相が議会で打ち切りの方針を表明した時、フランス・プロリーグ機構(LFP)を中心に関係者は再開に向けて検討を重ねていた。再開と閉幕をそれぞれ6月17日と8月2日に設定するなど具体的なシナリオまで話し合われていたが、「プロスポーツ、特にサッカーの19―20シーズンは再開できない」という同首相の鶴の一声により、すべての計画は水の泡と消えた。

 唯一リヨンのジャン=ミシェル・アウラス会長だけが今なお再考を求めて動いているが、完全に孤立無援の状況だ。

 象徴的なのは、ブンデスリーガ、セリエA、ラ・リーガとは異なり、LFPの中には政府に対して物申せるトップの人間が不在で、会長さえいないという事実だ。代表機関として取締役会が設置されているが、それが形だけであることを今回図らずも露呈してしまった。

 打ち切りの決定によりリーグ全体で総額6500万ユーロのテレビ放映権料の減収が見込まれている。今後、その分配金を手にすることができなくなったことで、破産に追い込まれるクラブが出てくるかもしれない。

 フランスにおいてサッカーが絶対的なステータスを得ることができない背景について、哲学者でフランス・サッカーを専門とするエッセイストであるティボー・ルプラ氏は「共和主義的な概念に依拠している」と切り出すや、続けてその真意を次のように説明する。

「スペインではサッカーはスポーツの王様だ。しかしフランスでは、王様という言葉を口にするだけで不穏な空気が生まれる。何かを特別視することは、共和制の主義に反することを意味する。フランスでは法の下では誰もが平等という考え方がそれだけ深く浸透している。リーグ戦を再開するために例外を設ける必要があるなら、そこに踏み切ることはしない。その意味ではフランスは実用性に欠ける国と言える」

 先日、『Society』誌が、あるアンケートの調査結果を公表した。それによると3分の2のフランス人が、サッカーが再開されなくても構わないと考えているという。5月28日に感染防止対策におけるフェーズ2の規制緩和の概要が発表された。この移行によるプロスポーツの活動再開に伴いサッカー選手も6月2日から練習することが可能となったが、こうした国民の総意にも支えられ、エドゥアルド・フィリップ首相はその場で打ち切りの決定を改めて強調した。

 その後、LFPは、次の簡潔な公式声明を出した。「エドゥアルド・フィリップ首相は、4月28日に表明したシーズンを再開しない方針を見直す考えがないことを確認した。したがって19―20シーズンの再開を再考する余地は残されていない。医療の供給体制には改善の兆しが見えるが、首相が強調したように引き続き慎重に対応する必要がある」

文●ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙)
翻訳:下村正幸

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