サッカー選手の成長のスピードは言うまでもなく千差万別だ、デビュー後の数年間は目立たなくても、徐々に力を蓄えて一流の仲間入りを果たす者もいれば、プロの扉を開けるやスターダムに駆け上がる者もいる。

 その意味で、今シーズンのブンデスリーガにおいてアーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント)と並んで無名の存在から驚異的な成長を遂げている新星がアルフォンソ・デイビス(バイエルン・ミュンヘン)だ。

 デイビスはガーナ生まれカナダ育ちのリベリア人だ。両親のデベアとヴィクトリアはリベリアの首都モンロビアで暮らしていたが、内戦が勃発すると戦禍から逃れるためガーナのブドゥブラムの難民キャンプに移住。そこでデイビスは2000年11月2日に生を受けた。

 一家は貧しい暮らしを余儀なくされ、母親のヴィクトリアによると生まれたばかりの息子に食事も服も満足に買い与えることができなかったそうだ。2005年に一家は再び移住を決意。今度の新天地はカナダのエドモントンで、赤道直下に位置する国から一転して雪空が続く街で暮らすことになった。

 エドモントンは冬が長く、外で遊べるのは1年のうち4か月ほどに過ぎない。必然的に当地で生まれた子供たちは何かスポーツを始めるステップとしてアイスホッケーを選択するケースが多くなる。しかし幼少の頃から100メートル、1500メートル走で同世代トップの数字を記録し、天性のスプリンターぶりを披露していたデイビスが興味を抱いたのがサッカーだった。

 初めて出会ったのは当時通っていた学校の屋内の狭いグラウンドで、「サッカーを始めたのは11歳の時だった。かなり遅いほうだ」とデイビスは述懐する。

 しかし、生まれつき左右両足を遜色なく扱うテクニックに恵まれ、デイビスはボールタッチにおいても天性のセンスを発揮する。さらに練習を重ねるにつれて判断力や負けん気を養い、持ち前のスピードが発揮される素地が出来上がると、空を飛ぶ鳥のようにグラウンドを疾走。ドリブルの緩急にも磨きをかけ、別格の輝きを放ち始めた。

 15歳で地元のバンクーバー・ホワイトキャップスに入団。ここでもすぐに頭角を現すと、そのプレーがバイエルン・ミュンヘンの関係者の目に留まり、18歳でドイツ随一の名門クラブにステップアップを果たした。ちなみにバイエルンが獲得に投じた1200万ドル(現在のレートで約13億円)はカナダ・サッカー史上最高額の移籍金である。


 バイエルンへの移籍オペレーションの実現に尽力したのがバイエルンのハサン・ハリミジッチSDだ。彼はもともとウイングとしての能力を見込んでデイビスの獲得をプッシュしていた。しかし加入してから約1年が経過し、まったくといっていいほど出場機会に恵まれなかったデイビスに重要な転機が訪れた。

 ハンジ・フリックの監督就任とリュカ・エルナンデズの怪我による長期戦線離脱だ。この緊急事態に新監督は、ダビド・アラバをCBにスライド。空位となった左SBにデイビスを抜擢したのだ。

 もちろんフリックは守備の不安は織り込み済みで、デイビスに対し守備の局面でも敵陣で構えるように指示。その効果はてき面で、その存在がチームに勢いを与え、バイエルンは昨シーズンまで考えられなかったような位置からハイプレスを仕掛けることが可能になった。

 また仮に裏を取られてもデイビスは持ち前のスピードを活かしアグレッシブに追走。ハードマーカーとしても新境地を開いている。その急激な進化にはカナダ代表の監督、ジョン・ハードマンも「対人守備の冷静な対応に我々みんな驚かされている。一度抜いたと思ったら、すぐさま追いかけてくるんだ。相手選手は面食らったような気分になるはずだ」と舌を巻くほどだ。

「周りを楽しませることが好きなんだ」と語るデイビスのエンターテイメント精神は、ピッチ外でも発揮され、昨夏のプレシーズン中のある食事会では、突然壇上に上がりマイクを2本持つと「オールウェイズ・ラブ・ユー」をホイットニー・ヒューストンバージョンで堂々と歌い上げた。

 しわがれ声の彼にとっては、相性が最悪ともいえる選曲であるが、そのギャップがまたチームメイトの爆笑を誘ったのだった。

 今シーズンここまでのドリブル数125回、うち成功数73は、いずれもリーグトップの数字だ。チームナンバー1のスピードを誇るスプリントの回数は、24試合で700回近くを数える。

 ドルトムントとの天王山を制し(1-0)、すでにブンデスリーガのタイトルの半分を手にした状態にあるバイエルン。そのチームにおいて規格外のアスリート能力を前面に押し出して大ブレイク中の“若き稲妻”デイビスが果たしている貢献は決して小さくはない。

※記録はいずれも記事が配信された5月28日時点。

文●ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙)
翻訳:下村正幸

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