ドイツ国内は新型コロナウイルス流行による行動制限措置の緩和が行われ、これまでの日常を取り戻しつつあります。

 イエス・キリストの復活を祝う復活祭から50日後の6月1日は『聖霊降臨祭月曜日』という祝日で、5月30日の土曜日からは3連休となりました。この間、僕の住むドイツ・フランクフルトの住民は遠方への旅行を控え、営業再開した街中のレストランやカフェのオープンエアの席で寛ぐ姿が目立ちました。

 このコラムでも度々登場するアパートメントの大家のおばあさんとは最近、コロナ禍の影響で直接お会いできていません。でも、彼女との交流は今でもしっかりと続いています。

 大家さんはこれまでもアイントラハト・フランクフルトに所属する日本人選手が活躍して翌日の新聞の見出しを飾ると、必ずその新聞を僕の玄関の前に置いてくれました。

 そして今回晴れてドイツ・ブンデスリーガが再開されてからは、彼女が新聞を“届けてくれる”頻度がますます増えています。

ヨビッチらが去った今季の苦難。

 アイントラハトは、ブンデスリーガ中断前に連敗していました。アドルフ・ヒュッター監督はウィンターブレイク明けから4-1-2-3を主戦システムに定めてチーム戦術の刷新を図りましたが、チーム成績は一時の浮上から急激な下降という不安定な曲線を描き、再びのリニューアルを余儀なくされていました。

 とはいえ、今季のアイントラハトは指揮官だけに低迷の責任を問うのは酷だと思います。昨季の好成績を導いたルカ・ヨビッチ(→レアル・マドリー)、セバスチャン・アレ(→ウエストハム)、アンテ・レビッチ(→ミラン)の攻撃の3枚看板が相次いで移籍して高額の資金を得た一方で、クラブはそれに代わる主軸の獲得を控えました。

 その結果、攻守のバランスを崩したチームは苦境に陥り、指揮官の戦術リニューアル実行の端緒を生んだと言えます。

再開直後の一戦の試合内容は……。

 ブンデスリーガ再開直後のボルシア・メンヘングラッドバッハ戦は、アイントラハトにとって非常に悪い試合内容でした。

 この試合では右からアルマミ・トゥーレ、ダビド・アブラアム、マルティン・ヒンターエッガー、エバン・エンディカというお馴染みの4人が4バックを形成しましたが、試合開始から僅か35秒で相手FWアラサヌ・プレアにシュートを流し込まれて失点してしまう体たらく。そして6分後にもFWマルクス・テュラムに追加点を奪われて、後半に1点を返したものの1-3で完敗を喫しました。

 今季のアイントラハトは、得点力不足とともに脆弱な守備網にも問題が山積していて、ヒュッター監督はその是正策として守備的な選手を多く起用する策を採るのですが、そもそも中盤のゲームコーディネイト力も不足しており、屈強な選手が後ろに並んでいるだけの状態では事態を打開できるはずもありませんでした。

 続いて第27節のアウェー、バイエルン・ミュンヘン戦も当然のごとく2-5と完敗したアイントラハトに対して、地元メディアからは3バックへのシステム回帰の進言とともに、長谷部誠をスターティングメンバーに戻すべきという論調が沸き上がりました。

 バイエルン戦、長谷部はベンチ入りしたものの不出場。鎌田大地も後半から19分間の出場に留まりました。日本人選手の活躍に期待を寄せる僕からすれば口を尖らせて「ハセと鎌田くんを起用しなさいよ」と言いたいところですが、ヒュッター監督の心情を慮ると、事はそれほど単純ではないことがうかがい知れます。

リモートインタビューで語った契約。

 先日、6月4日発売の『Number』本誌で長谷部のインタビューをさせていただきました。このご時世のため当然インタビューはリモートで実施しましたが、ネットワークを介して聞いた彼の声はとても落ち着いていて、コロナ禍の現状にも真摯に向き合っている印象を受けました。

 詳細は『Number』本誌をお読みいただきたいですが(宣伝です!)、その中で長谷部は、自身とアイントラハトとの契約についても語っています。

 その内容に則して判断すれば、最近の長谷部の起用法に彼の契約問題や事情が加味されていたとは思えません。ちなみにクラブから公式発表もありましたが、長谷部は2021年6月末までの契約延長に合意し、来季もチームの一員として戦うことが決まっています。ですから、来季以降のチーム戦略を鑑みて彼の起用を控える必要はないわけです。

新たな「8番」的なリベロに?

 ただ、アイントラハトの3-4-1-2、もしくは3-4-2-1システムで長谷部が担う役割や影響力が甚大な点は考慮しなければなりません。3バックにおけるポジションはセンター、すなわちリベロですが、このポジションにおける彼のプレータスクは最終局面での防波堤というディフェンス面とともに、攻守転換時の攻撃起点にも及びます。

 長谷部はこれまで浦和レッズ、ブンデスリーガのヴォルフスブルク、ニュルンベルク、そして現在のアイントラハトにおいて様々なポジションでプレーしてきました。

 浦和時代のトップ下、ボランチを皮切りに、ヴォルフスブルクではサイド、サイドバック、そしてチームの有事に数分間だけGKも務め、アイントラハトでは主に「ゼクサー」(ドイツ語で背番号6。守備的MFを指す)を任されましたが、監督を務めていたニコ・コバチ監督にリベロへとコンバートされたことで、その潜在能力が覚醒した感があります。

 様々なポジションでプレーした経験が今の長谷部を支えているのは間違いありません。そのうえで、今の「リベロ・長谷部」のチーム内での役割をドイツ流の背番号で表すと「アハター」(背番号8)になるのではないかと思います。

「8番」は、攻守両面で貢献を果たす選手と捉えられます。長谷部のリベロでのプレーはまさしく攻守両面に関わるもので、この概念と一致します。

相手守備網が緩いエリアにボールを。

 3バック採用時のアイントラハトは長谷部を最後尾に配し、両脇のストッパーがサイドライン際まで開きつつ、2人のセントラルミッドフィールダー(CMF)と長谷部が逆三角形のポジショニングを取ります。

 この際、味方CMFは大抵中盤で相手選手のプレッシャーを受けるため、攻撃展開を図る際にはあえて相手を自らに引きつけたうえで後方の長谷部へボールを渡す選択が多くなります。

 そこで長谷部の卓越したスキルが発動します。彼は現状のアイントラハトのストロングアタックと言えるサイドエリアへ視野を広げて、最前線の味方FWの動きや味方MF、DFのポジションも把握します。

 そのうえで、相手守備網が最も緩いエリアへボールを入れ込み攻撃を活性化させるのです。長谷部としては相手プレッシャーから外れる利点を得られる後方コンダクトで技術力を発揮し、チームの攻撃を回転させていくのです。

読みだけでなく、体も張れる。

 長谷部の凄みは、ハイレベルな攻撃能力を備えながら、フィジカルもスピードもトップレベルのブンデスリーガで「最後尾守備者」の責任もまっとうしている点です。

 とかく彼の守備は相手の動きを予測した「読み」が武器だと称されます。その評価はある意味では合っていると思いますが、一方で彼は最終局面でのバトルにもまったく躊躇しません。

 時に「ツバイカンプフ(1対1)」で相手に劣ることもありますが、その後のリカバーをも含めたディフェンス力はドイツのメディアでも高く評価されており、いわゆる「ひ弱」な印象は抱かれてはいません。

 そんな長谷部のプレースキルとポテンシャルを考慮すれば、ヒュッター監督は長谷部をリベロで起用しない限り3バックは機能しない、と踏んでいるのかもしれません。実際、ヒュッター監督はウィンターブレイク明けにライプツィヒから獲得したシュテファン・イルザンカーをリベロで起用しましたが、試合内容は伴いませんでした。

 イルザンカーは4-1-2-3を採用した際のアンカーとして起用されることもありますが、攻守ともに実効性が低く、長谷部がアンカーで起用されることもありました。

監督はコンディション面を懸念か。

 ヒュッター監督が長谷部起用を逡巡する理由は、コンディションに起因しているのではないでしょうか。アイントラハトは昨季と今季の2シーズンで、リーガ、DFBポカール、ヨーロッパリーグの3タイトルに参戦して、週2試合のゲームを数多くこなしています。

 その影響で多くの選手がシーズン半ばを過ぎてからコンディション低下に悩まされて、実際シーズン終盤はチーム成績を落とす傾向にあります。ましてや今年36歳の長谷部にとってコンディション維持は非常に困難なタスクです。

 ちなみに今季ブンデスリーガ1部の最年長はクラウディオ・ピサーロ(ブレーメン)の41歳8カ月、続いてオリバー・フィンク(デュッセルドルフ)の37歳11カ月、そして、シュテファン・リヒトシュターナー(アウクスブルク)が長谷部よりも2日早い生まれの34歳4カ月で、長谷部は4位にランクインしています。

 かねてから膝の負傷にも悩まされてきた長谷部は、それでも試合に出ればハイレベルなプレーを実行します。彼のプレーパフォーマンスを常時高めているカギは、適度な休養によるコンディション維持。これに尽きるのではないかと思うのです。

「来季は絶対にハセの20番に」

 長谷部が先発に復帰したアイントラハトはブンデスリーガ第28節のフライブルク戦で引き分け、第29節のヴォルフスブルク戦では7戦ぶりとなるリーガ勝利を飾りました。

 そして、ヨーロッパリーグの日程変更で延期されていた第24節のブレーメン戦では、1部残留争いのライバルに3-0で快勝。長谷部は当然のごとくスタメン出場し、拮抗した展開の60分にブレーメンの大迫勇也に到達しそうになった縦パスを巧みにカットして攻撃へ繋げ、アンドレ・シウバの値千金の先制ゴールを導きました。

 また、ブレーメン戦で途中出場したイルザンカーがいずれもセットプレーから2得点をマークしたことで、長谷部の先発、イルザンカーのスーパーサブという役回りもはっきりしたように思います。

 長谷部がアイントラハトと1年間の契約更新に合意したというニュースが流れた直後、知り合いのドイツ人家族の奥様から連絡がありました。

「ハセが契約更新してくれて本当に嬉しいわ~。うちの息子は今季コスティッチの背番号10番のユニホームを購入したんだけど、来季は絶対にハセの20番にさせるわ」

 アイントラハトにおける長谷部の重要度は以前も今も変わりません。ヒュッター監督は多くを語りませんが、長谷部自身は指揮官の起用法や戦略面に理解を示してもいます。

 彼の能力が常時発揮されることを願いつつ、今季の残り、そして来季以降も、僕は彼のプレーに一喜一憂したい思いでいます。
 

(「ブンデス・フットボール紀行」島崎英純 = 文)