4日発売のNumber1004号『現役Jリーガー100人が選んだ史上最強チームを語れ』では、2006年の浦和レッズについての秘話をクラブOBの鈴木啓太、ロブソン・ポンテに聞いた。そのポンテはポルトガル1部のポルティモネンセの副会長を務め、現在も日本サッカーとのパイプは強い。彼がクラブ経営に携わり始めたきっかけ、そして中島翔哉や久保建英、堂安律ら日本人アタッカーの印象について、誌面に収まりきらなかったインタビューを掲載します。

 2005年7月から2010年末までの5年半にわたって浦和レッズに在籍し、2005年の天皇杯、2006年のJリーグと天皇杯、2007年のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の制覇に大きく貢献した男が、ポルトガル1部ポルティモネンセ副会長の要職にある。

 ロブソン・ポンテ、43歳。現役時代と比べると、少しふっくらしている。

 ポルティモネンセは、日本人選手を多く獲得することで知られる。2013年~16年まで、FW金崎夢生(現名古屋グランパス)が活躍。2017~19年まで在籍したFW中島翔哉(現ポルト)はこのクラブで著しい成長を遂げ、今や日本代表の主力だ。なお現在も、日本代表のGK権田修一とSB安西幸輝が在籍する。

 かつてブラジルやドイツ、日本でプレーし、今はポルトガルに住んで世界と日本のフットボールを熟知する男にクラブのこと、ポルトガルと日本のフットボールへの思いなどを聞いた。

僕があるのは日本とレッズのおかげ。

――退団して10年近くになりますが、浦和のファンはあなたのことを忘れていません。あなたほどの選手がなぜあれほど長く浦和でプレーしてくれたのか、と訝る人もいます。

「プレー環境、気候、食事、日本人の国民性などすべてが気に入った。僕自身、日本で選手として、また人間として成長できたし、家族も日本が大好きだったからね。

 今の僕があるのは、レッズと日本のおかげ。とても感謝している」

――在籍中、欧州などのクラブからオファーがあったのでは?

「いくつかあったみたいだけど、代理人からろくに話を聞かなかった。レッズでプレーすることにすっかり満足していたからね」

ブラジル、日本などの選手獲得担当。

――ポルティモネンセのフロントで働くようになった経緯は?

「2011年にブラジルの中堅クラブで短期間プレーした後、現役を引退した。

 その後はフットボールと関係のない仕事をしていたんだけど、2013年、選手時代に僕の代理人を務め、親しい友人でもあるテオ(テオドーロ・フォンセッカ。元ブラジル代表FWフッキら多くの有力選手の移籍を手掛けた)がポルティモネンセの筆頭株主になった。2016年末、彼に請われてテクニカル・ディレクターになったんだ。

 主にブラジル人や日本人など外国人選手の獲得を担当し、2018年からは副会長を兼務してクラブのマネジメントにも関与している」

――クラブを簡単に紹介してください。

「ポルトガル南西部にある人口6万人足らずのポルティモンがホームタウン。美しい海岸があり、気候が温暖。主な産業は観光と漁業だ。

 クラブは1914年に創設され、プロスポーツ部門とソシオ(会員)のための総合スポーツクラブ部門がある。

 トップチームのトレーニングセンターは、フルサイズの自然芝のピッチ3面、46人が泊まれる宿舎、大食堂、最先端の機器を備えたスポーツジム、医務室などを完備している。ポルトガルでは、3大クラブ(注:ポルト、ベンフィカ、スポルティング)とブラガに次ぐ施設だろうね」

権田、安西も頑張ってくれている。

――クラブとしての目標は?

「1つは常にポルトガルリーグ1部で戦うこと、もう1つは優れた若手を育成し、実戦で鍛えて彼らのステップアップを手助けすることだ」

――外国人選手が多いようですね。

「トップチーム28選手のうち15人がブラジル人で、ポルトガル人が6人。日本人、コロンビア人、ガーナ人が各2人で、イラク人が1人いる」

(注:ポルトガルはブラジルの元宗主国で、両国は特別な関係にあり、ポルトガルリーグにはブラジル人選手の登録制限がない)

――以前から、多くの日本人選手を獲得してきました。

「2009年から10年まで在籍したFW中村(祐人、現<!--StartFragment -->理文<!--EndFragment -->=香港)が第1号で、ムウ(金崎)が日本人選手の能力の高さを地元メディアとファンに知らしめた。ショーヤ(中島)は、今でもクラブと町のヒーローだ。

 昨年1月に加入した権田、7月に入った安西も、よく頑張ってくれている」

なぜ日本人を積極的に獲得?

――日本選手を積極的に獲得する理由は?

「筆頭株主のテオ、会長のロジネイ、副会長の私、役員のリューキ(注:亀倉龍希。テオの息子で、かつてポルティモネンセやポルトでプレー)は、皆、日本のフットボールに詳しく、日本人選手のポテンシャルを高く評価している。

 かつてのショーヤのように日本で力を出し切れていない選手を成長させて日本代表へ送り込み、日本のフットボールに恩返ししたいという気持ちもある」

――ポルティモネンセへ移籍する前、中島は東京ヴェルディ(2012年~13年)、FC東京(2014年~18年)などでプレーした。彼のどこを見込んで獲得したのですか?

「素晴らしいテクニックの持ち主で、アイディアが豊富。スピードがあり、得点能力も高い。またワールドクラスの選手になるんだ、という強い意志を持っていた。

 日本ではあまり信頼されておらず、能力が十分に発揮されていなかったが、世界トップクラスの選手になれる資質があると確信していた」

ショーヤは心の底から楽しみ……。

――中島は、2017~18年のポルトガルリーグで29試合に出場して10得点12アシストと大ブレイクしました。ポルティモネンセで急成長できた理由は?

「ここには日本人のメンタリティを理解し、日本語もわかる者が大勢いる。また、リューキは東京ヴェルディの下部組織時代の後輩。通訳を務めると同時に、生活面での適応も手助けした。

 ポルティモンは非常に親しみやすい町で、ポルティモネンセはヨーロッパでキャリアを積みたい日本人選手にとって最高の環境を提供する。

 ポルトガルリーグは、攻撃的スタイルが主流だ。我々はショーヤを完全に信頼して細かい制約を設けず、自由にプレーさせた。ショーヤはフットボールを心の底から楽しみ、伸び伸びとプレーして、才能を開花させたんだ」

カタール移籍の経緯については?

――パリ・サンジェルマン、ドルトムント、ポルトガルの3大クラブなど錚々たるクラブからオファーがあったようですが、2019年2月、推定3500万ユーロ(約42億円)という日本フットボール史上最高額の移籍金でアル・ドゥハイル(カタール)に入団します。これには、「キャリア上、退歩ではないか」という声もありました。

「クラブが彼に移籍を強要した、などということは全くない。本人は年俸が数倍になり、クラブには多額の移籍金が入る。プロとして当然の選択だった」

――しかし5カ月後、中島はポルトへ移籍します。何があったのでしょうか?

「カタールリーグは観衆が少なく、選手が高いモチベーションを維持するのは容易ではない。家族を含め、生活面での適応も難しかったようだ。

 ポルトという世界有数のクラブでプレーする機会を得たのだから、良かったんじゃないのかな」

――権田、安西のクラブでの状況は?

「当初、権田は第2GKという位置づけだった。しかし今季途中から正守護神の座をつかんだ。家族共々ここでの生活にすっかり馴染み、家を購入している(笑)。

 安西は、移籍直後からずっとレギュラー。攻守両面で成長し、昨年9月のポルト戦で強烈なミドルシュートを叩き込んで話題を集めた。今後、さらに伸びる選手だ」

日本とポルトガルは共通点がある。

――クラブの用具サプライヤーがミズノで、日本企業3社がスポンサーに名を連ねています。

「我々のような地方クラブにとって、財政面の安定は死活的に重要だ。日本選手が活躍することで、日本企業からののサポートが得られる。今後も、日本とは良好な関係を保ちたい」

――ベルギー1部のシント・トロイデンは、2017年に日本企業が経営権を取得。多くの日本企業がスポンサーとなり、多数の日本人選手を獲得しています。(※かつてDF冨安健洋、FW鎌田大地、MF遠藤航らがプレーし、現在も前鹿島のFW鈴木優磨ら4選手が在籍する)。このクラブのことをどう見ていますか?

「彼らは、少し我々の真似をしているのかな(笑)。でも、特に意識はしていないよ」

――ポルトガルは人口1000万人ほどの小国でありながら、古くはエウゼビオ、近年ではフィーゴ、そしてクリスティアーノ・ロナウド(現ユベントス)ら世界的名手を輩出し、現在の欧州王者でもある(※2016年、欧州選手権で優勝)。なぜこんな小さな国がこれほど偉大な結果を残せるのでしょうか?

「ポルトガル人は欧州では最も小柄な部類に入るが、テクニックを磨き、柔軟な思考を持つ一方で、監督が目指す戦術を忠実に遂行する。彼らのフットボールへの情熱は、ブラジル人に優るとも劣らない。

 選手が小柄でテクニックを重視するなど、日本と共通点が多い。日本は、もっとポルトガルのフットボールを参考にした方がいいんじゃないかな(笑)」

――ポルトガルの新型コロナウイルスの感染状況とリーグ再開の見通しは?

「ヨーロッパでは比較的、感染が抑えられた国の1つ(※6月初めの時点で、感染者が約3万3000人、死者が約1400人)。

 リーグは昨年8月に始まり、3月6日の第24節(全34節)終了時点で中断されたが、5月初めからチーム練習を始め、6月3日からリーグが再開される。フットボールがある日常が戻ってきて、とても嬉しいよ」

日本には毎年7、8回足を運ぶ。

――日本人選手をスカウティングする機会が多いと思いますが、日本の若手選手のクオリティをどう見ていますか?

「日本には毎年7、8回行く。高校、大学、各クラブの下部組織などでしっかり鍛えられており、技術、フィジカル、状況判断、戦術理解などすべての点で進化している。メンタル面でも、以前より逞しくなっている」

――日本のフットボール全体で、何か改善すべき点があると思いますか?

「方向性は正しいと思う。このまま継続して努力すれば、進化が加速してゆくんじゃないかな」

――第二の中島翔哉はもう見つけましたか?

「うーん、一生懸命探しているんだけど、ショーヤのような選手はなかなかいない。でも、必ず発掘して、うちへ連れてくるよ(笑)」

久保に安部、今の浦和について。

――欧州でプレーする日本人選手にも注目しているのでは?

「もちろんだ。久保(建英。マジョルカ)は、テクニックと判断力が素晴らしい。うちへ来たら、さらに成長するのは間違いない(笑)。安部裕葵(バルセロナB)もいいね。鹿島時代から注目していた。爆発的なダッシュ力があり、両足で巧みにボールを扱える。

 他にも冨安、堂安(律。PSV)ら優秀な若手が大勢いる」

――今の浦和レッズについてどう思いますか?

「僕の退団後にも2017年のACLなど重要なタイトルを取っているけど、Jリーグでは惜しいところまで行きながら優勝できないのが残念。もっともっとタイトルを取ってほしい。

 埼玉スタジアムのサポーターの熱気は、昔も今も全く変わらない。スタンドで試合を見ていて興奮するし、自分があのピッチで長くプレーできたことを誇りに思う。そして、『またあのピッチに立てたらな』といつも思うんだ(笑)」

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 現役時代より貫禄がついたが、明るい性格とフットボールへの情熱は変わらない。

 我々日本人は、欧州のフットボール強国の最前線に立つ彼のような人材が日本、日本人、日本のフットボールに大きな愛情を注いでくれる幸せを噛みしめるべきだろう。

 そして、彼の知見と経験を日本のフットボールのさらなる成長のために有効活用する術を考えるべきではないだろうか。

(「熱狂とカオス!魅惑の南米直送便」沢田啓明 = 文)