「おっ、得点王!」「さすがキング!」。

 ぶら下がり取材で話を聞いていると、誰か脇を通り過ぎるたびに、先輩たちからいじられる。

 そのたびに、「いやいやいやいや……、やめてくださいよ~」と恐縮する大卒ルーキーの矢村健。昨季、アルビレックス新潟でJデビュー済みのFWは、リーグ中断期の途中まで、絶好調だった。

 中断当初、今季から新潟の指揮を執るアルベルト・プッチ・オルトネダ監督は、週に1回、トレーニングゲームを組み込むルーティンにこだわった。チームのコンディションを維持し、リーグ再開に即応するためである。その中で矢村は、トレーニングゲームや紅白戦でゴールを挙げ続けていたのだ。

 新型コロナウイルスの感染は拡大するばかりで、やがて県外のチームはもちろん、県内のアマチュアチームを含め、トレーニングゲームは難しい状況になった。そして4月17日には新潟にも緊急事態宣言が発令され、チーム活動はストップした。

 5月14日の緊急事態宣言の解除を受け、チームはトレーニングを再開させた。非公開であるため、矢村の現在の調子をこの目で確かめることはできない。だが、その性格を考えれば、謙虚に、油断せず、向上に努めているに違いない。

 ダイナミックに、あるいは泥臭く、ゴールネットを揺さぶる能力。ドリブルでボールをぐいぐい運ぶ推進力。FWとしてサポーターを沸かせられるだけの、十分な資質の持ち主だ。そして今年、加入した時点で、すでに多くの新潟サポーターに知られた存在でもある。

 2020年の加入が内定したのは、2年前の夏のことだ。市立船橋高から進学した新潟医療福祉大3年の矢村は、前年の北信越大学リーグ1部でMVPとベストイレブンに選ばれていた。2年後にJリーガーとなることが約束されたこの年には、2年連続でのMVP&ベストイレブンに加え、リーグ得点王にも輝いた。そして翌19年、3年連続でMVPとベストイレブンに選ばれる栄誉に浴する。11月の40節岐阜戦で途中出場し、特別指定選手として新潟デビューも果たしている。


 リーグ中断期、トレーニングゲームでゴールを量産していたとき、矢村はこんなふうに自己分析していた。

「今、点を取れるところに入ることができている。だから合わせられるし、こぼれ球にもすぐに反応できる。こういうのは感覚的なもので、狙って得点できるものじゃないんです。『ここだ!』と思ってポジションを取っても、ボールが来ない場面はたくさんあるし。取れるときは、取れる。だから、連続ゴールはそれほど意識していません」

 不確実なゴールの予感を、より現実的に手繰り寄せる手段が、前からどんどん相手を追い込んでいく守備。得点に関係なく、守備のタスクに専心するうちに、やがて絶好機が訪れる。そう信じて続ける激しいプレッシングは、ボールをアグレッシブに奪い返し、相手ゴールへと迫りたいアルベルト監督のサッカーに合致する。


 中断期間中、手応えを感じるようになったのが、くさびのパスを受け、シンプルにはたいて裏に飛び出す場面が増えてきたことだ。もともと背後へ出ていく瞬間的なスピード、馬力には長けている。だが、そればかり狙っていては陣形の間延びを招きかねない。できる限りコンパクトに戦うスタイルが、アルベルト監督のコンセプトである。

「練習で、舞行龍(ジェームズ)くんの縦パスから上手くうまく展開できるようになってきたんですよ」

 前線から落ちてきてセンターバックからの縦パスを足下で受け、自分を経由するチームのプレースピードが落ちるのではなく、加速していくところに笑顔を見せる。

 出番こそなかったものの、2月、アウェーで群馬と対戦した開幕戦ではベンチ入りを果たした。間違いなく即戦力だ。リーグ再開後は、夏の暑い時期にも連戦が予想される。FWである以上、まず求められるのはゴールだが、攻守においてチームで果たす役割の理解は深く、エネルギッシュに献身する働きもできる。限られた時間で仕事をするスーパーサブとして、活躍の場は広がっていきそうだ。

取材・文●大中祐二(フリーライター)

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