フランクフルトは大丈夫だろうか。

 新型コロナウィルス拡大により中断されていたブンデスリーガ再開戦でボルシアMGに1-3で完敗した。

 試合開始直後にゴールを許すと、浮足立ったまま7分にも追加点を決められる。フランクフルトサイドにもチャンスはあったものの、始終ボルシアMGに主導権を握られ、さらに失点をしてもおかしくない展開だった。

 フランクフルトは後半戦に入ってから、本格的に着手した4バックへのシステム変更がうまく機能し、後期序盤の4試合で3勝1分けと好スタートを切っていた。アディ・ヒュッター監督も「4バックへの変更が守備の安定に結び付いた」と喜んだが、その後はリーグで3連敗。ヨーロッパリーグ(EL)でレッドブル・ザルツブルク相手に好ゲームを披露し、勝ち残りを決めたことで、大きな問題とはならなかったが、リーグ中断前のレバークーゼン戦、そしてELバーゼル戦では0-4、0-3とそれぞれ厳しい結果となってしまった。

 このボルシアMG戦でも攻守のバランスがかみ合わない局面が多く、リズムを自分たちで作り出すことができずに苦しんでいた。守備はどこか淡白で、攻撃ではつながりが乏しい。

 アンカーでスタメン出場していたシュテファン・イルザンカーは、ヒュッター監督からの信頼が厚い。ハートあふれるプレースタイルで、どんなときでも諦めず、時に相手に体をなげうってはボールに食らいつく。ただ、ゲームコントロールという点になると、厳しい面を持つ。ボルシアMG戦では約5本に1本の割合でパスが相手に渡ったり、サイドラインを割ったりしていた。パス成功率はあくまで一つの目安でしかないし、どんな狙いで放たれたパスかによっても、解釈は変わってくる。そして、どんな選手でも得意なプレーとそうでないのがあることは確かだ。

 プレースタイルとチームがかみ合わないと、ピッチの上で個々の力は最大限に生かされない。これまでイルザンカ―が所属していたザルツブルクやRBライプツィヒには、ボールを預ければ、素早く展開できる仲間がいた。彼はボールを奪取し、そこへパスを預けることが仕事だった。それが、今のフランクフルトには、その選手が周りにいない。イルザンカーが懸命にプレーしても、空回りを続けてしまう。

 ドイツ紙では4バックによる攻守のバランスが崩れてきていることから、3バック回帰の可能性が取りざたされている。『Frankfurter Rundschau』紙ではスポーツディレクターのブルーノ・ヒュブナー氏のコメントを紹介。「3バックはいつでもオプションになっている。長谷部誠という3バックシステムでかみ合う選手もいる」と可能性を否定はしない一方で、「ボルシアMG戦では8バックでプレーしていたとしても失点しただろう。システムは大事だが、それ以上に心構えと集中力が大事だ」と指摘していた。

 心構えと集中力を最大限に引き出すためには、どんなプレーをすべきというチームとしての狙いがはっきりしていることが何より大事になるはず。そして狙いを持った攻撃を構築するためには、ビルドアップから丁寧に持ち運んでいく局面が必要だ。

 ただ、守備ラインから中盤を経由してFWへという流れだけではなく、サイドのスペースに流れたFWへロングパス、くさびに落ちてきたFWへの縦パスなど、ゲームコントロールをできる選手が必要不可欠になる。あるいは前がかりになりすぎないように、後ろでパスを回しながらリズムを作る仕事も大事だ。

 それができる選手となると、今のフランクフルトに長谷部しかいない。

 3バックへの回帰はあり得ない話ではない。ただ、3バックに変えたらすべてがうまくいくほど、今のフランクフルトが抱えている問題はシンプルなものでもない。

 長谷部を起用すれば、きっとボール周りはスムーズになるし、より意図的な攻撃が可能になる。ただ、起用する場合には、守備時の強度を落とさないような布陣を作る必要がある。

 70分から途中出場したボルシアMG戦でも、何度か気になるシーンがあった。中盤で相手がボールを運んでくる際に長谷部が阻止しようと前に出ると、相手がそこからスルーパスを狙ったり、サイドに展開したりする。その後、パスを出した選手がさらに前へと抜けてくるのだが、長谷部は振り返ったまま一瞬足を止めてしまう。スペースを即座に埋める動きを連続してこなさないと、あっという間に危険なスペースに相手選手の侵入を許してしまう。

 長谷部投入後に攻撃面は改善したが、守備面で問題が、となると根本的な問題解決にはならないのだ。チームとしての守備組織が整っているなかで、アンカー、あるいは3バックのセンターに長谷部がいれば、彼の持つ経験と戦術理解で周りの選手のサポート・カバーをハイレベルで行える。ただ、そうした機能性がない状態だと、起用が裏目に出てしまう恐れもある。

 次節は現地時間5月23日、首位バイエルンと対戦する。難しい試合になるのは誰もがわかっている。そんななかでも活路を見出すために、最大限の準備と策で臨まなければならない。ヒュッター監督がどのように現在の問題をとらえ、どのようにアプローチするのか。采配、起用法を含め、監督の手腕に注目が集まる。



筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中