新型コロナウィルスの影響で中断されていたブンデスリーガが5月16日、約2か月ぶりに再開された。

 ブンデスリーガ再開は、世界中から注目を集めている。

 多くのクラブに存続の危険性があり、テレビ放映権など経営面などを考慮し、ブンデスは最終的にリーグ存続をかけた決断をした。そして、ヨーロッパにおけるサッカーはただのスポーツ、ただの趣味ではない。多くの人にとって欠かすことのできない生きがいなのだ。たとえ無観客でも、プロサッカーの試合が開催されることで、間違いなく社会に活気は生まれる。コロナ後の経済復興に向けて大きな希望になるのは間違いない。

 可能な限り感染の危険性を減らすため、徹底した衛生対策を取り、なんとか6月30日までに今季の日程を終わらせようというのが、ドイツリーグ協会(DFL)が打ち出した方針だ。そこには妥協も一切ない。ドイツ代表監督ヨアヒム・レーブも例外ではなく、現行の方針では主催クラブが関係者枠でレーブを招待しない限り、彼の立場であっても、スタジアムで観戦することはできないのだ。

 試合当日、スタジアムは無観客で、関係者も入場が制限された。最大でスタジアム内には300人までだ。僕も、ハノーファー対ドレスデン、フランクフルト対ボルシアGMの試合に取材申請を出し、可能性を確認してみた。が、ジャーナリストは10人しか中には入れないという連絡を受けた。そうなると『kicker』誌、通信社、地元紙、『Bild』紙などで枠はすぐに埋まってしまい、外国メディアに関しては現時点では難しい、と広報から伝えられた。

 出場する選手、審判以外はみなマスクを着用。フィジカルスタッフなどは手袋も着用する。当初は監督もマスクの着用が求められていたが、「それでは指示を出すことが全くできない」という監督サイドからの要望もあり、議論の結果、監督に限っては例外的に試合中マスクをつけなくてもいいというルールとなった。

 再開マッチ後、ドイツメディアの反応は、ここまでのところおおむね良好だ。『Bild』紙は、最初の無観客試合とこれまでのリーグ戦を比較し、「得点数が減少」「主審の判定がスムーズ」「1対1の競り合いはこれまで通り」「走行距離には変化なし」「プレーオンの時間アップ」「ホームアドバンテージはない」という6つの要素を取り上げていた。

 観客がいないことでファンからのブーイングや声援がない。そのため、主審が判定を下すのに大きな騒動が少なく、そうした外的要因がなくなったことでホームチームのアドバンテージがほぼなくなったことが注目点だろうか。実際、今節では9試合のうちホームチームで勝利したのはドルトムントただ1チームだけだった。

 試合を終えて、ドイツ代表トニー・クロースは「ドイツでできなければ、他のどこでもできない」とコメントした。現時点では、試合までの流れに関して大きな問題も混乱もなく、スタジアムや町中で騒ぐファンも出ていない。時計の針が止まっていたサッカー界における大きな希望となりえるのか、その徹底した衛生対策と試合運営があれば他国でも無観客試合を開催できるのではないかと、ガイドラインとして参考にされているはずだ。

 ただ、すべてがうまくいっているわけではない。実際に今節だけで8人もの選手が負傷したというニュースもあった。選手が対応しきれないのは致し方ないことだ。ブンデスリーガのクラブは、すべてのクラブが同じようにトレーニングを開始できたわけではなかった。

 州に決定権があるため、それぞれのクラブで許可された内容が異なる。感染率が低い地域では個別練習から少人数でのグループ練習、そこからさらに7~8人グループでのトレーニングに取り組めていたクラブがある。一方で、厳しい制限が引かれている州ではグループ練習が2~3人のままで、なかなかそれ以上でのグループ練習が認められないクラブもあった。リーグを再開するのならば、トレーニング開始時期も合わせるべきだという主張もされていたが、結局これが受け入れられることはないまま、今に至っているのが現状だ。

 リーグ再開が決まったあと、各クラブで全体練習が許可され、約1週間で実戦を迎えた。例えば、ブレーメン監督フロリアン・コーフェルトはコロナ中断期間を利用して、コンディション状態の向上に取り組み、おかげで今は今季最高の状態だと話していたが、試合におけるコンディションはやはり違うだろう。

 そういう意味では、本来であれば再開できる状態・状況ではないまま再開に踏み込んだのが事実だ。通常のリーグ戦であれば、開幕前に6~8週間のプレシーズンがあり、そのなかでコンディションを作り上げる時期があり、テストマッチで体と頭と心を調整していく時期を経て、個々のプレーとチームのプレーを融合させていく。それでもリーグ開幕に、すべて万全に整うことはまれだ。どれだけ準備万端で臨んでも、テストマッチとリーグ戦は違うのだ。

 どれだけ普段通りにプレーをしようとしても、選手たちはそもそも普段通りの準備もないままに公式戦に挑んでいる。責任感を持ってプレーしようとすればするほど、無理をした動きが負荷として体にのしかかり、負傷の危険性はどうしたって高くなってしまう。プロ選手だからと、人間の体は、負荷がかかれば傷つくのだ。


 かといって、「こうした事態だから健康を考慮しましょうね。100%の力だと危ないので、ほどほどにプレーするように」というわけにもいかない。それならそもそも「じゃあリーグを再開させたんだ」という話に戻ってしまう。

 リーガ再開の決断は尊重するとして、各クラブはそれぞれ生き残りをかけて必死に戦う。来季のチャンピオンズ・リーグ、ヨーロッパリーグ出場権がどうなるかは不明だが、出場のチャンスがあるクラブは上位進出を目指すし、残留争いをしているクラブは、それこそ2部降格となったら更なる打撃が待っているのだから、必死に戦わないわけにはいかない。

 DFLは交代枠5人までを導入した。さらに負傷者やコロナ感染者が出ることを想定して、多くの選手をスタンバイしておいてほしいと各クラブに打診しているが、やれることには限界もある。あくまでもプレーをするのは選手なのだ。

 6月30日までにリーグ終了は一つの目安であり、今季に関してはそこまでに終わらせなければならないわけではない。状況によっては、間にさらなる1~2週間の中断期を挟むことだってあってもいいだろう。

 ドイツ語で大事なところを感じて使い分けるフィーリングのことを「指先の感覚」という。まさにDFLにはそうした感覚を期待したい。
筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中