世界最大のプロレス団体WWEで活躍する女子プロレスラー、アスカが快挙を達成した。

 アスカは、日本時間の5月11日に配信されたPPV特番『マネー・イン・ザ・バンク』(MITB)での女子MITBラダー戦で、ブリーフケースを奪取し見事優勝。日本人選手によるMITB制覇は、2005年にスタートして以来、男子、女子を通じて史上初となる。

 快挙はそれだけにとどまらない。

 MITBの翌日配信された、月曜レギュラー番組ロウのオープニングでは、ロウ女子王者のベッキー・リンチがMITBのブリーフケースを持って登場。そこへアスカが現れ、「コラッ! それ(ブリーフケース)はワシのじゃ!」と、怒りを露わにすると、ベッキーは「確かにあなたのものよ」と、ケースからロウのチャンピオンベルトを取り出し、「昨日の試合(女子MITB戦)はロウ女子王座決定戦でもあったの。私はもう闘えないけど、あなたはできる。アスカ、あなたが王者よ」と、ベルトを手渡した。

 そしてベッキーは「あなたは戦士として、私は母としてやっていく」と、サプライズで妊娠を発表。これにはアスカも驚き動揺しながらも、「おめでとう!」と抱き合い、因縁を超えて祝福した。

 これによってアスカはロウ女子王座を初戴冠。これまで獲得したNXT女子王座、スマックダウン女子王座、女子タッグチーム王座とともにWWE女子4大タイトルすべてを手中に収め、WWE史上2人目となるグランドスラムを達成した。

「ついに、ここまで来ることができた」

 この快挙の3日後、アスカは電話にて個別のインタビューに応え、よろこびの声を聞かせてくれた。

--WWE史上2人目の女子グランドスラム達成、おめでとうございます!

「ありがとうございます! いや~、ホントに信じられないというか。うれしいです! 私はWWEに来てから、史上初とか、歴代最長とか、記録をいくつも持ってるんですけど。ついに、ここまで来ることができましたね」

--おっしゃる通り、WWE参戦後、267連勝を始めさまざまな記録を作ってきましたけど、やはりグランドスラムも狙っていましたか?

「これまでNXT、スマックダウン、タッグ王座は獲ることができたんで、『あとロウのタイトルを獲るだけで、グランドスラムや!』とは思っていたんですけど、なかなかロウのタイトルだけは挑戦はできても取れなかったですよ。近づいたかなと思ったら遠くなったり。そういうのが続いていたので、やっとこさ獲れましたね」

「あの空間には愛がありましたね」

--しかも、ロウのチャンピオンのなり方が、今までにない形ですしね。「ベッキーに勝ってチャンピオンになりたかった」という気持ちはありますか?

「もちろん、勝ってベルトを獲るのが理想ですけど、MITBで結果を出して獲得したベルトなんで。そこは胸を張って、『私がチャンピオンです』と言いたいですね。あと、ベッキーが『ベルトをアスカに渡せてよかった。なぜなら、アスカは世界で一番の選手だから』と言ってくれたので、そこもうれしかったです。ベッキーからこんな形でベルトを渡されるとは思わなかったけど、これはこれで歴史に刻まれる、ドラマチックな流れやったと思いますし。あの空間には愛がありましたね」

--ベッキーからあの場で「私は母になる」って言われたとき、どう感じましたか?

「まさか、あそこで『お母さん』という言葉が出てくるとは思わなかったので、『えっ?』って感じで、最初すぐには理解できなかったんですけど。聞き返してみたら、『そうや』みたいな反応やったんで、『ウソでしょ~?』って。彼女も感極まって目に涙をためてたんで、『うわ、これホンマや~!』って。なんか私までムチャクチャうれしかったです」

--ベッキーは、これまでさんざんやりあってきた相手ですよね。

「そうですね。ベッキーとはずっと試合してきたんで。最初の頃は、私がベッキーに勝ち越してたんですけど、後半はタイトルを懸けた試合でも負け越していて。でも、敵対しながらも、闘いの中でどこかでシンパシーを感じあっていたんですよ。

 彼女は私との闘いが好きやったと思うし、私のことも好きやったと思う。私ももちろん、ベッキーのことが好きやったし。でも、お互い『勝ちたい』というライバル心があって、なかなかそういう気持ちを伝えることはできなかったけど、今回こういう機会があって、本当に感慨深かったですね」

ーー抗争もヒートアップして、ちょっと前までは、アスカ選手が「こいつアホやで! バーカ、バーカ!」って日本語で言い放っていた相手でしたもんね(笑)。

「ホンマに、ボロクソ言うてましたもんね(笑)」

「カイリちゃんの存在は、大きい」

ーーそういう流れがあったからこそ、なおさら感動的だった気がします(笑)。ロウ女子王座を獲得したあと、バックステージではカブキ・ウォリアーズのパートナーであるカイリ・セイン選手と喜びを分かち合ってましたけど。ここまでこれたのは、春まで一緒にタッグ王座を保持していた、彼女の存在も大きいですか?

「カイリちゃんの存在は、大きいですね。いつもめちゃくちゃ癒されてます(笑)。私は日本にいるときからそんなにレスラー同士で話したり、食事に行ったりとかしないほうなんですよ。でも、カイリちゃんはすごく話しやすいし、いろんな話を聞いてくれるし。素晴らしいタッグパートナーですね。去年からは一緒にタッグチャンピオンになり、最長保持記録も作って、レッスルマニアにもチャンピオンとして出ることができましたからね」

--タッグを組んで、ふたりで言葉のやり取りをすることで、アスカ選手のキャラクターやパーソナリティが、よりWWEユニバース(ファン)に届くようになった気がします。

「カイリちゃんはノリがいいんですよ。私がガーッとしゃべると、餅つきみたいに、いい合いの手を入れてくれるんですよね(笑)。これからも2人でがんばっていきたいです」

「無観客」は何も苦ではない。

--今、新型コロナウイルスの影響で、WWEも無観客が続いています。ベッキーとの感動的なシーンも、あれが超満員のアリーナだったらまた違った光景になっていたと思いますけど、無観客だったことについてはどういう思いがありますか?

「でも、これはこれで良かったとは思いますね。お客さんがいるところでももちろん良かったと思いますけど。2人だけのところで、しんみり打ち明けてもらえたのも、ドラマチックやったんやないかと思いますね。こういうシチュエーションって、なかなかないことやとも思いますし」

--すごく記憶に残って、「あのコロナ禍の真っ只中で、ベッキーは妊娠を告白し、アスカがグランドスラムを達成した」と、後々まで振り返られるかもしれませんしね。新型コロナウイルスの影響による生活面での影響はどうですか?

「やっぱりアメリカは日本よりもっともっと影響が大きいですね。買い物とか、生活する上で最低限必要なこと以外は、すべて家にいないといけないので。ただ、私はホームジムを作ったんで、トレーニングもしっかりできてますから、大丈夫です」

ーー無観客での試合には慣れましたか?

「無観客は最初から何も苦にしてなかったですね。逆に『この状況は私に任せてくれ!』って感じでした。私は日本にいる時から、本当にいろんなところで試合をしてきましたし、どういう状況でも対応できる自信はあるので。それに会場にお客さんがいなくても、カメラの向こうでは何百万人というWWEユニバースが見てくれているし、これまでも“カメラの向こう”を意識してやってきたので、そんな変わらへんよなっていうのはありますね。

 あと、無観客という状況だからこそできることもあるって、今回のMITBでも気づかせてもらえましたし。もっともっと新しいことをクリエイトできるなってことを感じてます」

ーープロレスの試合には、まだまだ新たな可能性がある、と。

「可能性はむちゃくちゃありますね。それに、あらためて『さすがWWEやな』とも感じました。今回のMITBも本社ビルを使っての開催だとか、これまでは考えられないことじゃないですか。すごく新鮮やったと思うし。そういう大会に参加できて、自分が『Ms.マネー・イン・ザ・バンク』になれたのは誇りですね」

アスカが感じる責任と伸びしろ。

--それと同時に、こういう困難な時代に自分がチャンピオンになった責任感もありますか?

「責任感はめちゃめちゃ感じてます。やっぱりロウのタイトルを獲ってみて、『WWEの一番の本線であるロウのチャンピオンというのは、ホンマWWEの顔なんやな』っていうのを実感しました。タイトルを獲ってから、めちゃめちゃ忙しいんですよ。取材やら撮影やらひっきりなしなんで。でも、こういう状況でタイトルを獲ることができるって、なかなかないことやと思いますし、ロウのウィメンズチャンピオンとして、新しいことをクリエイトしていきたいですね」

--WWEの中でも女子部門は伸びしろ、可能性がすごくありますもんね。

「最近はPPVでも女子がメインを何度も取ってますし、時代は変わったな、と思いますね。その中心に私たちがいるのは、本当にうれしいことやし。私たちが変えたと思ってます」

--では最後に、日本のWWEユニバースにメッセージをお願いします。

「ロウのウィメンズチャンピオンとして、日本のWWEユニバースの皆さんに早く会いたいですね。今、なかなか外出もできない大変な状況が続いていると思いますけど、テレビや配信を通じて、『WWEって、こんなにおもしろいんや』っていうものを、WWE女子の顔として見せていこうと思っているので、それを楽しんでもらって。この状況下、一緒にがんばっていきましょう!」

(「ぼくらのプロレス(再)入門」堀江ガンツ = 文)