新型コロナウイルスによる外出自粛の影響で、SNSを使ったオンライントレーニングが各スポーツ界で広がっている。国際スケート連盟(ISU)も、氷上練習を出来ずにいるスケーター達をサポートしようと、オンラインレッスン『KEEP TRAINING!』をスタートした。

 宇野昌磨や島田高志郎らも参加する世界最高峰のトレーニングに、筆者もさっそく参加してみた。

『KEEP TRAINING!』は、選手のモチベーション維持、体力維持のほか、ファンへのメッセージ発進として、4月19日から開始。ステファン・ランビエルや佐藤有香などの有名コーチが、毎日60分、オリジナルのレッスンを展開している。

 内容は、スケートに特化したレッスンのほか、ジャズやコンテンポラリーのダンス、ストレッチ、筋力トレーニング、陸上でのジャンプなど多彩。

 それぞれのコーチ陣も、スケートのコーチだけでなく、ブロードウェイダンスセンターのダンサーや、振付師、バンコク国際トレーニングセンターのトレーナーなど、各分野のプロが参加している。

 現在は5月18日から開始したシリーズ3の真っ最中だ。

選手だけでなくファンも参加。

『すべてのレベルの選手にフィットする内容』と謳っているが、人気のある日は再生回数が8万回を超えるなど、選手だけでなく、スケートのファンが選手たちの近況を観ようと、トレーニングに参加している様子。

 すでに配信されたレッスンはアーカイブで観ることができるので、気になるコーチや選手が参加しているか、チェックしてみて欲しい。

 筆者も、まずはランビエル、佐藤有香、オンドレイ・ホタレックなど有名コーチのトレーニングに参加した。

「Beautiful! I love this」などと褒める。

 ランビエルコーチの1回目は4月19日のシリーズ初回だった。ランビエルが「このような素晴らしいチャンスを企画してくださった国際スケート連盟の方々に感謝します」と挨拶し、レッスンが開始。ランビエルとデニス・バシリエフスがスイスの拠点におり、他の生徒はすべて母国に帰省中。

 日本にいる島田高志郎のほか、モスクワにいるタチアナ・ボロソジャル&マキシム・トランコフなどが参加した。彼らと共にランビエルのレッスンを受けると思うと、こちらのモチベーションも自然と上がった。

 内容は、ランビエルのチームが毎日のように行っている基礎的な体力トレーニングだった。

 まずは1kgのダンベルまたは水を入れたペットボトルを使ったレッスン。最初のうちは、軽いスクワットやジャンプで、体幹を刺激する。デニスや島田が良い動きをすると、ランビエルが「Beautiful! I love this」などと褒め、なごやかな雰囲気でレッスンが進んでいった。

一番のテーマは「身体全体のバランス」。

 1つ1つ動きの解説をはさみながらのトレーニングなので「思ったより楽だな」と思ってやっていると、それは勘違い。「はい、このあと同じ動きをあと30秒」と言われる。

 スローな動きをキープする動作が続くため、インナーマッスルを鍛えるには最適なトレーニングだ。1人では諦めてしまうような地味なトレーニングも、ランビエルや島田の笑顔に励まされ、汗をたらしながら参加した。

 ランビエルのトレーニングの一番のテーマは「身体全体のバランス」だという。

 スケートは、右利きの選手であればジャンプもスピンも左回転のため、左右の筋力や動きに差が出やすい。しかしランビエルとしては「両方がバランスよく出来ることが、芸術的なパフォーマンスのために必要」という。

 実際に、ランビエルは右回転でもダブルアクセルまでは跳ぶことができ、左右どちらのターンやステップも同じように出来ることが、表現につながっているという。

お互いの近況報告も楽しみの1つ。

 右と左の動きを交互に繰り返すトレーニングの途中で、ランビエルが島田に対して「どっちが得意、不得意というのは感じた?」と質問。すると島田が「同じです」と答え、「それは良いことだね!」とアドバイスしていた。

 休憩タイムでお互いの近況報告をするのも、オンライントレーニングの楽しみの1つ。

「みんなのいる場所はどんな天気?」と聞くとボロソジャルが「モスクワは雪が降っているわ」、アイスランドの生徒が「こっちも雪です」と答えると、ランビエルが「スイスは夏みたいに暑いよ!」と答えていた。

ペアの技の奥深さ。

 また途中で、トランコフがボロソジャルをバーベルの代わりに抱きかかえて持ち上げるという、筋力トレーングを披露。トランコフの腕力とボロソジャルの体幹があってこその驚異的な技だった。

 バシリエフスが真似しようと、ランビエルを抱えて持ち上げたものの、よろけて持ち上げることはできず、笑いを誘った。

 60分のレッスンの最後にランビエルは「今はスケートがとても恋しくてたまりません。いつでも再開できる準備をしておくことが大切です。皆さんもStay Home 、そしてStay Shapeですよ」と挨拶した。

 ここで動画が終わるのかと思いきや、バシリエフスが「さっきのトランコフのトレーニングをもう1回見たい」と言いだし、そのコツを2人が説明するというオマケも。ボロソジャルが、「コツは持ち上げられる女性側にあります。(ツイストリフトで回転する時のように)身体を締めて、自らも上にロールアップします」と解説。ペアの技の奥深さを感じさせた。

繊細な重心コントロールに気を配る。

 次に参加したトレーニングは、デトロイトの佐藤とジェレミー・アボットによるレッスン。コーチ仲間であるカート・ブラウニングとアリッサ・シズニーも加わり、4名の元トップスケーターが、それぞれの得意分野のコツを披露した。

 佐藤は滑りの美しさに定評があるスケーター。そこで、ブラケットやカウンターなど様々なターンで、重心がどのように移動するかを細かく解説してくれた。

 陸上で「つま先・かかと」「イン・アウト」「上下」に重心を移動させながら、身体を左右に捻る、という内容。一見すると地味な動きだが、いかに繊細な重心コントロールに普段から気を配っているのかを感じさせた。

「ただ180度開いていれば美しいのではない」

 アボットも同様に、ターンでの骨盤の角度や、フリーレッグの位置などをキープするための体幹トレーニングを行った。

 またブラウニングのレッスンのテーマは、「スケート靴の中では何が起きているか」。複雑な動きやジャンプを繰り返しながら、頭から足までの体軸を曲げずに力をしっかり足元に伝える、という内容だった。

「このトレーニングが最も生かされるのはジャンプのランディング」とのこと。回転不足や歪んだ着氷にならずに、スーッと後ろに流れるようなランディングのためには、着氷した瞬間に身体のラインがゆがまず、全体重がブレードに乗っていることが重要だと話した。

 またシズニーは、いかにスパイラルポジションを美しくキープするか、というトレーニング。「重要なのは、柔軟性よりもパワー」と話し、床に座ってストレッチするのではなく、演技中のように立った状態で壁に足を押しつけて180度開脚をしたり、上げているフリーレッグに加圧をかけて持ち上げたりと、筋力トレーニングのようなレッスンが何度も繰り返された。

「ただ180度開いていれば美しいのではなく、そこにパワーと張力があることで美しく見えます」と話した。

2回目のトレーニングには宇野昌磨も参加。

 4名の名コーチによるレッスンは、興味深い内容ばかり。頭では理解していても、どうやったら出来るようになるのか分からなかった身体の使い方について、具体的なトレーニングを示してくれる貴重な60分だった。

 続いて参加したのは、ランビエルによる2回目のトレーニング。この回は、前回のメンバーに加えて宇野昌磨も参加。世界選手権がキャンセルになった後、宇野が元気に過ごしている様子もうかがえるトレーニングだった。

 ランビエルは「ハーイ、世界中のみなさん、おはよう、こんにちは、こんばんは」と挨拶。「日本の昌磨、高志郎、元気ですか?」と、全参加者に話しかけてから、トレーニングが始まった。

宇野は床にうっ伏して、荒い息を繰り返した。

 1回目と同様に、体幹、下半身、上半身をバランスよく鍛えていく。身体中の眠っていた筋肉が刺激され、複雑な動きを繰り返しながらジワジワと筋力がついていく内容だ。

 途中、ランビエルが宇野に向かって日本語で「ハーイ、ショウマ君、大丈夫ですか?」と声をかけると、宇野が「ハーイ、大丈夫!」と返答。そこからは、宇野が見本役になって、レッスンの動きをリードした。

 淡々とした表情でブレのない動きを披露し、「さすが」と思わせる場面も。しかし50分が経過し、吸水タイムになった瞬間、宇野は床にうっ伏して、荒い息を繰り返した。いかに手を抜かず、体力を使い切っているのかが伝わってくる。島田も汗ぐっしょりで座りこみ、勢いよく水を飲んでいた。

 ランビエルは「今日のトレーニングは、筋力の強度アップに集中しました。実際には、早い動きと、パワーのある動きを融合することが大切ですが、今日はそのうち筋肉の伸縮性を高めるトレーニングでした」と話した。そして「世界中のみなさんと一緒の時間を共有できてとても楽しかったです」と締めた。

3日間、歩くことも出来ないほどの筋肉痛に。

 この後も、いくつかのトレーニングに参加したが、最もハードだったのは、平昌五輪のペアで6位の功績を残し、コーチに転身したホタレック氏によるジャンプトレーニング。回転軸を作るためのコツを細かく伝授してくれる内容だった。

 腕の締め方、足をクロスさせるコツ、顔の向き、腰の捻り方など、1つ1つを分解して練習。回転の角度も、90度回転から始まり、180度、1回転、2回転と、ゆっくり増やしていくことで、普段よりも真っ直ぐな軸で回転できるようになった。

しかし、氷上練習から遠ざかっておよそ1カ月。日常生活で最も行わない、ジャンプの動作を繰り返したことで、足への負担は予想以上。オンライントレーニングの翌日から3日間、歩くことも出来ないほど、ふくらはぎが筋肉痛になった。

 このほかにも、アリョーナ・サフチェンコによる筋力トレーニングなどもあり、興味深いレッスンがたくさんある。

『KEEP TRAINING!』をすべてこなせば、氷上練習を再開するころには、『KEEP』どころか、進化した身体になっていることだろう。こんな素晴らしい企画をしてくれた国際スケート連盟、そして秘密を伝授してくれたコーチ達には、感謝しかない。

 緊急事態宣言が解除されたあとも、このレッスン動画を永久保存して、繰り返していこうと誓った。

KEEP TRAINING!
【シリーズ1】
https://www.isu.org/isu-news/news/145-news/13141-isu-centers-of-excellence-offer-the-keep-training-series?templateParam=15

【シリーズ2】
https://www.isu.org/isu-news/news/145-news/13162-continue-to-keep-training?templateParam=15

【シリーズ3】
https://www.isu.org/isu-news/news/145-news/13175-keep-training-figure-skaters?templateParam=15

(「フィギュアスケートPRESS」野口美惠 = 文)