21歳の絶対女王を、30歳の日本女子のエースはどう超えるか。これが、新競技スポーツクライミングの焦点になる。

 長年世界の一線で戦ってきた30歳の野口啓代(TEAM au)が「ずっと続けてきた中で、歴代こんなに強い選手はいなかった」と嘆息するのが、スロベニアの21歳、ヤンヤ・ガルンブレトだ。

 12メートル超の壁で到達高度を競う「リード」、5メートルほどの壁で登れたルート数を争う「ボルダリング」を得意とする。2019年のワールドカップ(W杯)では、ボルダリングで6戦全勝。リードでも過去3度年間女王に輝き、東京・八王子であった世界選手権では銀メダル二つの野口を尻目に、五輪の実施種目「複合」を含めた3冠を達成した。

 リード、ボルダリングに、15メートルの壁を登る速さを競う「スピード」を加えた3種目を一人で全てこなすのが複合。野口が1年で力関係を変えるには、ガルンブレトが唯一盤石とは言えないスピードがカギだ。

 野口はスピードに本格的に取り組み始めてまだ3年ほど。日本では珍しいスピード専門の現役選手、池田雄大(22)を昨年からコーチに招き、強化に取り組んだ。結果、18年に11秒台だった自己記録はいま、9秒台前半とガルンブレトと互角に。さらなる伸びしろは十分だ。

 野口のリードとボルダリングは今も衰え知らず。年齢面の不安についても、安井コーチは「精神面、技術面、試合展開が複雑に絡み合うのがクライミング。どの年齢が一番いいかは人それぞれ」と言う。

 野口は今夏限りでの引退を表明していたが、五輪延期を受け、引退も1年延期した。圧倒的なライバルは「目標にしたい選手」であり、「自分が穴を埋めて成長していったら、もっともっと良い勝負ができて、勝てる相手だと思う」と、向上心をかき立てられる存在だ。

 もう一つ、野口には大きな強みがある。トレーニング環境だ。新型コロナウイルスの感染拡大の影響でクライミングジムは休業が相次ぎ、練習場所の確保に苦しむ選手は多い。だが、野口の茨城の実家には、父・健司さん(56)が作った60畳ほどの広さのプライベート壁がある。コロナ禍以前から拠点の一つで、今も「ステイホーム」のまま充実した練習を積むことができている。

 「心身共に成長する時間にしていきます」と野口。絶対女王を超えてみせる。(吉永岳央)