今、スポーツの世界で最も大きな“動き”を見せているジャンルはプロレスだろう。

 業界最大の団体WWEはビッグイベント『レッスルマニア』を無観客(配信)イベントとして実施。日本でもさまざまな団体が中継(配信)用の無観客試合を開催している。

 中でもプロレスリング・ノアとDDTプロレスリングはTVマッチをシリーズ化。積極的にタイトルマッチを組んでいる。女子団体アイスリボンは、封印されていたインターネット(で配信される試合限定の)王座「IW19」を復活させ、新王者決定トーナメントを開催中だ。

 スポーツジャンルとして見ると、プロレスには統一機構がないという弱みがある。業界全体としての取り組み、基準作りが難しいのだ。ただ、だからこそ良くも悪くも縛りが緩い。弱小団体、インディーレスラーでも個性とバイタリティーを発揮しやすく、“右へ倣え”と無縁。一言でいえば“たくましい”業界だ。

 今できることは何か。それを考えた結果が、各団体の無観客試合だろう。DDTはもう一歩踏み込んで「今しかできないことは何か」に取り組んだ。

ツイッターから始まったオファー。

 それが、全日本プロレス・秋山準をゲストコーチに招くことだった。きっかけがツイッターというのが、いかにもDDTらしい。

 1カ月ほど前、秋山が自身のプロレス観についてつぶやいた。「試合でみなさんに観せてるのは6~10(の部分)」、「ですが、1~5を持ってると持ってないのは全く違うと思います」。さらに「1~10までプロレスの技術を全て俺が教えたらどんなプロレスラーになるのかな」とも。

 これに食いついたのがDDTの“大社長”高木三四郎だった。

「今はプロレス界が“守り”の時期になってますよね。であれば、今ウチの選手に秋山選手が持っているプロレスの1から10を教えていただきたいなと、ツイッターでDM(ダイレクトメッセージ)させていただきました」

 DDTは6月7日のビッグマッチ、さいたまスーパーアリーナ大会が開催見合わせになるなど、興行面で“攻め”ることが難しくなっている。無観客試合もあるが、当然ながら以前に比べると試合数が少ない。それなら、この時間を活用して実力を高めようというわけだ。転んでもただでは起きないのがDDTである。

コロナ禍で試合が少ないからこそのコラボ。

「秋山さん、全日本プロレスさんのスケジュールもありますし、DDTも普段は月の半分くらい試合をしている。そういう状況では無理ですけど、今は時間に余裕があるので。こういう時にダラダラ過ごしていると、興行を再開した時に後れを取ってしまう」

 実は秋山は、この5月にWWEでゲストコーチを務める予定だった。技術と育成手腕が海外でも評価されているのだ。だがコロナ禍で渡米が不可能となった。そのタイミングで「今なら受けてくれるんじゃないかとダメ元で」DDTがオファーしたのである。

 ゲストコーチ就任と合わせてDDTに定期参戦することにもなった秋山は、5月9日配信のTVマッチでリングから挨拶している。

「(ジャイアント)馬場さんから受け継いだものをすべて教えたいと思います」

 秋山にとっては、全日本であろうとWWEであろうとDDTであろうと、教える相手にこだわりはない。

「馬場さんから教わったものは僕の宝。それをこれから活躍するであろう若い選手に伝えていければ。DDTさんだけじゃなく、どこの選手にでも」

「どんな技にも形だけじゃなく理屈がある」

 秋山は全日本でデビュー後、ノア旗揚げに参加。再び古巣に戻ると社長やGMも務めて“老舗復興”に尽力してきた。その技術の片鱗を、筆者も体で味わったことがある。

 昨年、インタビューした時のこと。新人育成について「基本の大切さ」を語った秋山が「ちょっとやってみましょうか」と実演してくれたのがリストロックだった。

 この技で決着することはまずないのだが、実際にかけられてみるとどうやっても体が動かない。リスト=手首だけでなくヒジ、肩までガッチリと固められてまともに立っていられないのだ。パワーでねじ伏せられているという感覚はなかった。ポイントを的確に押さえられているのだ。秋山は言った。

「どんな技にも形だけじゃなく理屈がある。それを分かっているかどうかで差が出るんですよ」

 今はそれほどでもないが、昔は試合中に「変なこと」をしてくる相手もいた。だから余計に「しっかりした技術」が必要なのだと秋山。それでいて根性主義の練習には懐疑的で「今はウェイトトレーニングもいいマシンがありますからね」と言う。

 秋山のプロレス観は深いだけでなく広い。全日本マットでは、馬場率いるファミリー軍団vs.悪役商会のコミカルな試合からも多くのことを学んだという。

「巡業でも毎日、見てましたから。毎日見てるのに笑っちゃうんだから凄いですよね」

 観客の歓声から何を感じ取るか。客席のどこを見て技をかけるか。ベテランたちの闘いには、観客を盛り上げるためのエッセンスが詰まっていたそうだ。今は秋山自身、しばしば興行の前半戦で実に味わい深い“楽しい試合”を見せてくれる。

「気になる選手」竹下との“再会”も。

 DDTのエースである竹下幸之介は、別の面から秋山の凄さを語ってくれた。

「組んだことも闘ったこともあるんですが、メチャクチャ勉強になりましたね。一番、凄いと思ったのはどんな試合でも闘いの“熱”を作り出せるんですよ。もともとある熱を高めるだけじゃなく、作り出す。

 秋山さんと絡んだのは僕が初めてシングルのベルトを巻いた頃。プロレスの奥深さを1mmくらいしか知らなかった。でも秋山さんと絡むことでそれが1cmになったし、その1cmの先に無限の世界があるって気づけたんです」

 秋山は今回のゲストコーチ就任と定期参戦にあたって、気になる選手として竹下の名前をあげている。竹下にとっても念願の“再会”だ。

「プロレスを学ぶ方法って3つあると思うんですよ。1つは見て学ぶこと。僕は『秋山準DVD-BOX』持ってるくらい秋山さんの試合を見てますね。2つ目は試合で絡むこと。3つ目はやっぱり、直接教わることですよね。これから凄く楽しみです」

 コロナ禍という偶然の産物に見えて、実は機が熟していたということなのか。「ものごとを面白くするには、とにかく動くしかない」とは数年前の高木の言葉だ。

(「濃度・オブ・ザ・リング」橋本宗洋 = 文)