5月11日、国際スケート連盟(ISU)は、2020/2021年シーズンのシングルとペアにおける技術要素の基礎点の改定を発表した。

 現在、新コロナウイルスの影響で世界中のスケーターたちは、通常のトレーニングもままならない状態だ。来シーズンのスタートもどのようになるのか、まだ予想できない状態ではあるが、今回のルール改定の概要と、その影響について少し考えてみたい。

 もっとも大きな変更は、4回転のルッツ、フリップ、ループの基礎点がすべて11.00になったことだろう。

 昨シーズンまでは4ルッツが11.50、4フリップが11.00、4ループが10.50で、ルッツとループの点差は丸々1ポイントあった。

 周知の通り、これまでISUが設定してきたジャンプの難易度は、難しい順にアクセル、ルッツ、フリップ、ループ。そしてサルコウ、トウループと続く。

 だが今回の改定によって、4回転においてはルッツ、フリップ、ループの3つのジャンプは同格にされたことになる。

 この改定がどのような理由と根拠によるものなのかは、発表されていない。だが時には0.01ポイントが勝負を分けることもあるこのスポーツにおいて、かなり思い切った改定だといえるだろう。

各選手が得意なジャンプを選ぶようになる

 この3種類の4回転の中で、羽生結弦はルッツとループ、宇野昌磨はフリップ、ネイサン・チェンはルッツとフリップをフリーに組み込んでいる。

 4ループは2016年秋に羽生結弦が世界で初めて試合で成功させたジャンプだ。その後宇野、チェンも試合で成功させたことがあるが、2人とも先シーズンはプログラムに組み込んでおらず、トップスケーターで現在このジャンプを武器にしているのは羽生のみだ。

 その彼にとって、4ループが4ルッツ、4フリップとポイント的に同じ価値になったことで、精神的に楽になった部分はあるだろう。体調によって4ルッツをやめても、事実上難易度を落とした、ということにはならなくなるからだ。

どれほど質の良いジャンプを跳ぶかが勝負。

 あとはどれほど質の良いジャンプを跳んで、加点を得るかという勝負になる。

 ジャンプの質で勝敗が大きく左右されるのは今に始まったことではないが、それがより一層顕著になることが予想される。

 また今のトップ選手たちよりも、これからジャンプを習得していく若手選手にとってこのルール改定の影響はより大きくなるだろう。

 誰もが4ルッツを目指す必要はなく、ルッツ、フリップ、ループの中でそれぞれの選手がもっとも得意なジャンプを磨いていけばいい、という方針に変わっていくからだ。

3ルッツと3フリップも同じポイントに。

 また3回転ジャンプにおいては、ルッツの基礎点が5.9から5.3へと減らされ、フリップと同じ点になった。

 特に女子では、踏み切りできちんとバックアウトエッジに乗ることができずにルッツで不正エッジ判定を取られる選手も少なくない。

 そのような選手にとっては、フリップとルッツが同じになったことで、いくらか精神的に楽になったのではないだろうか。

 もちろんフリーでは、4回転や3アクセルのない女子の多くはどのみち3ルッツと3フリップを2回ずつ入れてくる。

 苦手なジャンプがないという選手がもっとも有利なことは、以前と変わらない。

 だが昨シーズンまでの3ルッツと3フリップの0.6の点差が排除されたことにより、また新しい戦略のたてかたも可能になってくる。

新しく加わった「q」の意味。

 それ以外の変更では、昨シーズンまでなかった「q」の字がジャンプの判定に加わった。これはquarter(4分の1)の略字である。

 2シーズン前まで、ジャンプの回転は4分の1足りないものまで認定されていた。

時計の針で考えてみると……。

 わかりやすく説明するため、仮に時計の針を1本のみとして氷の上のブレードに見立ててみよう。大多数の逆時計回りの回転の選手なら、12時の数字の位置で踏み切って、3時の位置で着氷すれば回り切ったとみなされていた。

 だが平昌オリンピックが終了した2018/2019年シーズンから、3時ジャストの着氷は、回転不足のほうに含まれるようにルールが変わった。1目盛りでも2時のほうに超えていないと、回転不足ということになったのだ。

 来季からは、4分の1ジャストの位置で着氷したジャンプには、技術判定パネルがジャンプに4Tq(4トウループq)などとつけて、ジャッジたちに回転がギリギリセーフであったことをモニターの表示を通して伝える。

 ジャンプの基礎点は変わらないが、各ジャッジはGOE(グレードオブエクスキューション)でそれに(この場合はおそらくマイナスの)評価を加える、というように改定された。

ISUは正しい方向に進んでいるのか。

 だが実際のところ、技術スペシャリスト、アシスタント技術スペシャリスト、技術コントローラーの3人からなる技術判定パネルは、現在のリプレイシステムで、すごいスピードで踏み切り、空中で回転してカーブを描きながら降りてくる選手のブレードの着氷位置を、まるで紙に描かれた精密画を分析するように4分の1の位置、と正確に判定できるものなのだろうか。

 先にも述べたように、3種類の4回転ジャンプが同じ点になったという比較的大きな改定の理由、その経緯なども説明のないまま、毎回各コーチと選手たちはISUのルール改定に振り回されていくことになる。

 今後もまだこれから、細かい改定は続いていくだろう。

「現在はプログラムの振付をするために、PCを片手に、もう片手には計算機が必要」と嘆くコーチや振付師たちの声は、切実だ。

 こうして毎シーズンのように改定を実行し続けているISUは、果たしてこのスポーツを正しい方向に導いているのだろうか。

 疑問を感じることは多々あるが、今後どのようになっていくのか見守っていきたい。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)