世界人類に深刻な影響を与えている新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本のプロボクシング界も窮地に追い込まれている。興行中止、ジムの営業自粛によって収入が絶たれ、男女合わせて8人の世界王者を輩出した大手のワタナベジム(東京都品川区)までが、クラウドファンディングでの支援を求めるに至った。同ジムの渡辺均会長(70)と関係者に電話取材し、窮状を語ってもらった。

 1921年に日本初の本格的なボクシングジム「日本拳闘倶楽部」が東京・目黒に開設して今年で99年。だが、コロナ禍によって、日本ボクシング界は「100年に1度」と言われる危機に陥っている。

 日本プロボクシング協会(JPBA)は政府、自治体からの要請に従い、加盟ジムに対して2月28日から興行の中止、4月9日からのジムの営業自粛を要請している。これがどれほどの影響を与えているのだろうか。

 渡辺会長によると、ジムの収入は興行収入やテレビ放映権料などもあるが、基本は練習生らからの月謝だという。営業を自粛すれば月謝を徴収するわけにはいかない。ワタナベジムには数百人の練習生、一般会員が通っており、月謝は1万3200円。1カ月合計数百万円にのぼる収入が「ほぼゼロになった」と、渡辺会長は頭を抱える。

 一方、支出はどうか。まず家賃が100万円以上。「ただで留守番してくれと言うわけにはいかない」というスタッフの人件費が200万円以上。さらに光熱費などが加わり、合わせて1カ月4~500万円にのぼるという。

 これだけではない。3月17日に予定していた後楽園ホールの興行が延期。正式発表はされていなかったが、5月9日に堺市・大浜体育館で開催を計画していた、WBA世界ライトフライ級王者・京口紘人の3度目の防衛戦が中止になった。3月の興行も5月の世界戦も、会場のキャンセル料は免除となった。しかし、世界戦は出場予定のフィリピン選手1人、タイ選手4人へ送付した航空券の合計数十万円とその他経費が無駄となり、放映権料も入らない。

 ほかに、出場予定選手に対して「延期なので、気持ちとしていくらか払ってあげたい」と出費が重なる。「正式発表していないのだからファイトマネーはゼロでもいいのだが、京口にも生活がある。世界チャンピオンなのでそれなりの額は払ってあげたい」という。

 興行実現のためにスタッフと京口が何度も大阪を訪れたことも無駄足になり、WBAへの承認料も請求された。興行自粛の損失は「ざっと6~700万円ぐらいじゃないですか」と見積もる。

 政府からの助成金や補償、JPBAからの補助金などが入ってくるが、「全然足らないでしょう」という。「ワタナベジムは大きいから大丈夫でしょう、と言われるが、その分ランニングコストも大きい。ジムを副業でやっているところが多いが、専業のウチは大変。今年で創設45年になるが最大のピンチ。月謝が入ってこない、家賃は払う。これが半年続けばアウトですよ」と危機感は募るばかりだ。

 そんな中で出てきたのが同ジムの深町信治マネジャーが発案したクラウドファンディング。特に京口の興行中止の損失が大きなダメージになったことが大きな理由だった。深町マネジャーは「選手がすごく理解してくれて、京口がいろいろとアイデアを出してくれたり、他のチャンピオンたちも『何かあったらやります』と、いろいろ手伝ってくれている」といい、支援者へのリターン(返礼品)には京口の直接指導、スパーリング観戦などが用意されている。

 反応はよく、4月27日の開始から9日までで目標金額600万円の約3分の2が集まっている。渡辺会長は「ファンのありがたみをしみじみと感じました。ボクシングファン、多くはワタナベジムのファンでしょうが、温かみを感じましたね。選手がみんないい付き合いをしてくれていると思う。改めて襟を正さないといけない」と、支援に感謝した。

 今月末まで延長された緊急事態宣言は解除への動きも見られるものの、まだまだ先は見えない状況。それでも、ボクシング界は10カウントを聞くわけにはいかない。