ワールドカップにもコロナウイルスの影響は及んでおり、アジアや南米などで2022年カタール大会の予選が延期になっている。しかし、本大会自体は2022年と今から2年も先であるため、今回のコロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)での延期や中止は、なんとか免れる可能性がある。

 しかし、それでもワールドカップ本大会が全く影響を受けないわけではない。それは、今回のパンデミックで経済が短期間で元通りに戻るとは限らず、世界的に景気が相当に悪化すると見られているからだ。

 世界中の国がロックダウン(都市封鎖)、あるいは自粛を行なっており、感染のピークは過ぎてはいるものの、まだ完全な解除はされていない。国の経済がストップしたことによる失業者の増加、そして、ウイルス発生源の問題で米中の対立が再び表面化していることなどで世界的な景気後退は間違いないと見られている。景気悪化により、本大会のチケット販売に影響が出るのか、スポンサー料に影響が出るのか。しかし、そうしなかで最も可能性があるのが放送権料に影響が出ることだ。

 放送権料は、ワールドカップの放送計画に直結するため、有料放送でのワールドカップ視聴問題が出てくる。地上波の無料放送と、衛星放送やケーブルテレビの有料放送の割合が変化したり、ウェブ配信などで試合を観戦したりしなければならなくなることで、ワールドカップを視聴する一般のサッカーファンにとっても関心があるテーマになる。

 FIFAワールドカップは世界最大のスポーツイベントであり、高額な放送権料で知られる大会でもある。その放送権料は、1998年フランス大会までの放送権料は世界中が公共放送中心の放送体制だったため、日本の放送権料は6億円(全世界放送権料=150億円)だった。が、次期大会から代理店が間に入ることで、放送権料が一気に高騰した。2002日韓大会では、日本は開催国だったこともあり、185億円(全世界1100億円)と一気に跳ね上がった。その後、2006年ドイツ大会は140億円(同1600億円)、2010年南アフリカ大会は170億円(同1800億円)、2014年ブラジル大会は240億円(同2000億円)、2018年ロシア大会は300億円台(同2200億円)、2022年カタール大会は300~400億円(同3850億円)と毎回のように上昇し、その勢いは止まらない。

 2008年のリーマンショックの前後でも、2006年ドイツ大会から2010年南アフリカ大会の間で放送権料は下がっていない。あの景気後退でも放送権料はむしろ、高止まっていたのである。


 だが、高騰を続けているワールドカップ放送権料は、今回の第二次世界大戦後初の世界的パンデミック(感染症の大流行)後、大恐慌時に匹敵すると予測もされる景気悪化が起きても、その価格を維持できるのだろうか。

 2022年ワールドカップの放送権は、現時点で、ほぼ世界的に販売終了されており、日本では大手広告代理店の電通が持っている。今後、大幅な景気後退になれば、企業は広告宣伝費を縮小せざるを得なくなり、コマーシャルも打てなくなる。そんな中でテレビ局は高額な放送権を獲得できるのか。電通は現在の値段のままでは放送権をジャパン・コンソーシアムのNHK、民放各社に売ることができず、放送権を値下げして赤字で手放さざるを得なくなるかもしれない。一般的にいえば放送権料は、確実に下がっていくと思われる。

 今回のコロナでの景気後退は、高騰していた放送権料が下がるきっかけになりそうにも見える。そのことだけに限れば、テレビ局としては悪いことではないはずだ。

 だが、放送権に詳しいテレビ局関係者は、「そうはならないでしょう。大幅な景気悪化になってもワールドカップ放送権料は下がらないと思う。FIFAはさらに放送権料を上げたいと考えているようです」と話す。FIFAは放送権料を下げることを許さず、むしろ、上げる方策を打ってくる構えという。

 しかし、日本のワールドカップ放送権交渉は電通とFIFAの間だけで行なわれてきたので、そのためには交渉する代理店を複数に増やすことが必要になる。日本の場合、電通の1社と交渉しなければならないので、それができていない。電通と競うライバルの代理店はFIFAにとって必須の存在になる。

「例えば、NBAの日本国内の放送権を持つ楽天は新たな放送権販売候補です。また、楽天とはライバル関係にあるソフトバンクなどもそうでしょう。新たな放送権獲得先が現われてくれれば、電通を含めて競わせることで放送権料を上げていくことができます。電通以外の販売先を探すことで、さらに放送権料を高騰させていく手を打ってくるはずです。FIFAのお金に対する執着には尋常じゃないところがありますからね」とテレビ局関係者は言う。

 今後も、サッカーファンにとっては、ワールドカップの全試合を見るためには、有料放送で、ある程度の出費が必要になるのは避けられないようだ(数字は推定)。

取材・文●石田英恒(フリーライター)