これまでに様々な名手を輩出してきたアルゼンチン・サッカー史において、飛び抜けた存在として語られるのが、ディエゴ・マラドーナだ。

 時として物議を醸すこともある圧倒的なカリスマ性と人々を魅了してやまない技術を持ったマラドーナは、アルゼンチンのみならず世界のファンから愛される存在だ。それは引退して23年の月日が流れた今も変わらない。

「俺は今まで、色々な間違いを犯したが、サッカーを汚したことなんて、一度たりともない」と語るマラドーナだが、そんな彼を愛する同業者も少なくない。元アーセナルの指揮官アーセン・ヴェンゲルも、その一人だ。70歳になる名将は、自身が解説を務めている中東のスポーツ専門局『beIN Sports』で、「サッカー界の神」とも崇められる男を次のように評した。

「マラドーナは魔法のようなものを持った選手だ。彼は芸術家だ。時に過剰な芸術家になる時があるが、天才だった。私たちは皆が彼のようになりたいと思っているはずだ。このサッカー界にいる人間ならね。マラドーナの魔法は彼がやった愚かなことを忘れさせてしまうんだ」

 ヴェンゲルの言う“愚かなこと”の一つには、おそらく全世界を欺いた「神の手」も含まれる。1986年にメキシコで開催されたワールドカップの準々決勝のイングランド戦で、左手で押し込んだあの一撃だ。

 ヴェンゲルは、「神の手」についても持論を展開した。

「あのワールドカップのイングランドは良いチームだった。だが、世界最高の選手がそれを凌駕したんだ。未だにイングランドでは『神の手』のことが話される。『あれは今だったら罰せられる』とかね。それだけ彼らはプライドを打ちのめされたんだ。マラドーナはハンドを『神の手によるものだ』と言って認められた唯一の選手だろう」

 そして、最後にヴェンゲルは、現代サッカー界屈指のクラック(名手)であるリオネル・メッシとマラドーナの比較論にも言及。数々のスターたちを育て上げてきた名伯楽にとって、より優れているのはどちらなのか? その答えは実に明快だった。

「今でも世界最高の選手がアルゼンチンにいることは非常に面白い。ただ、メッシはワールドカップで勝つまではマラドーナの影にいることになるだろうね。それは本人も理解しているさ。

 たしかにメッシはクラブレベルで多くのタイトルを勝ち取った。個人でもね。しかし、マラドーナのように絶対的存在として認められるには、アルゼンチンのためにタイトルを獲らないといけない」

 果たして、メッシがマラドーナを超える日は訪れるのだろうか。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部