2018年9月の新生日本代表発足から1年半の歩みをポジションごとに振り返り、再検証してきたこの企画。最終回は森保一監督のチームマネージメントにスポットを当てる。2002年日韓ワールドカップで日本を史上初のベスト16へと導いたフィリップ・トルシエ(現U-18ベトナム代表)以来のA代表・五輪代表兼任監督となった指揮官への期待は大きく、当初は「トルシエ時代のように世代交代が一気に進むのではないか」という前向きな声も多かった。

 実際、2018年ロシア・ワールドカップまでのA代表は、2010年南アフリカ・ワールドカップから軸を担っていた川島永嗣(ストラスブール)、長谷部誠(フランクフルト)、本田圭佑(ボタフォゴ)、岡崎慎司(ウエスカ)ら30代の選手たちに依存しがちだった。

 就任会見でも「日本代表の勝利のために、世代交代を進め、世代間融合を図らなければいけない」と森保監督自身も真っ先に強調。その言葉通り、初陣のコスタリカ戦(吹田)で堂安律(PSV)、南野拓実(リバプール)、中島翔哉(ポルト)の3人を2列目に抜擢した。その3人がいきなり鮮烈なインパクトを残し、日本の攻撃を活性化したことから、指揮官の評価も急上昇。さらに10月のパナマ戦(新潟)でA代表デビューさせた冨安健洋(ボローニャ)も一角に加わり、「世代間融合」が一気に進んだと見られた。

 2019年アジアカップも長友佑都(ガラタサライ)や吉田麻也(サンプドリア)ら実績ある面々とロシアを経験した大迫勇也(ブレーメン)、柴崎岳(デポルティボ)や遠藤航(シュツットガルト)ら中堅、堂安、南野ら若手をミックスさせたチームで臨み、優勝こそ逃したものの、一定の成果を残した。新体制発足から半年も経たないうちにチームの基盤を築き上げたことは、ポジティブに捉えていいだろう。

 その後、指揮官は戦い方のバリエーションを広げようと年齢に関係なくさまざまな選手を呼び、戦力に加えようとしたが、その作業はとんとん拍子に進んでいるとは言えない。とりわけ、最終ラインは酒井宏樹(マルセイユ)、冨安、吉田、長友の4人への依存度が高いままだ。バックアップ的な位置づけの植田直通(セルクル・ブルージュ)や室屋成(FC東京)、佐々木翔(広島)らが入った時とは安定感や連動性に差があることは認めざるを得ないだろう。

 ボランチも柴崎不在の状況は考えられないし、FWも大迫依存症の明確な解決策が見つかっていない。2022年カタール・ワールドカップアジア2次予選突入後はその課題がより一層、浮き彫りになってきた印象だ。チーム発足時の爆発的な勢いが止まり、足踏み状態に陥っているようにも見受けられるだけに気がかりだ。

 選手層拡大を考えるうえで重要なカギとなるのは、東京五輪世代からのさらなる引き上げだ。しかしながら、森保監督はA代表では4-2-3-1を軸にしているのに、五輪代表ではサンフレッチェ広島時代に好んだ3-4-2-1を採用。このギャップが若返りの足かせになっているとも言える。

 森保監督と同様にA代表と五輪代表を兼務したトルシエ時代を振り返ると、当時は「フラット3」という特殊な守備戦術を採用。指揮官はこれを浸透させるべく、U-20代表だった中田浩二(現鹿島CRO)らにまず叩き込み、その後シドニー五輪世代の宮本恒靖(現G大阪監督)や松田直樹、中澤佑二(現解説者)らに落とし込むと、さらにA代表の森岡隆三(現解説者)らに理解させる。こうした段階的なチーム作りが行なわれた。その結果、2002年時点では誰が出てもスムーズな守備ができるようになっていた。

 それは他のポジションも同様だった。中村俊輔(横浜FC)や小野伸二(琉球)にしてみれば左ウイングバック起用は理不尽に感じただろうし、本来ボランチの明神智和(G大阪ジュニアユースコーチ)も右ウイングバックには戸惑いもあったはずだが、大舞台でも問題なくこなしていた。それは下からの積み上げのなせる業だった。


 一方、森保ジャパンの場合、現段階では日頃3バックでやっている選手をA代表にすんなり昇格させられない状況だ。久保建英(マジョルカ)や田中碧(川崎)のように引き上げができているポジションもあるが、全てが順調とは言い切れない。DFを例に取ると、指揮官が就任当初から起用した冨安は別格としても、同じ欧州組の中山雄太(ズウォレ)や板倉滉(フローニンヘン)は慣れや経験の問題があって大胆抜擢はしづらい。サイドバックも東京五輪世代はウイングバック的なタイプが多いだけに、酒井や長友の代役という意味では難しい。

「対戦相手や状況によって臨機応変にシステムや戦い方を変えられるようにしなければいけない」と森保監督は口癖のように言っているが、代表活動日数が激減している今、3バックと4バックの両方を完璧にこなせるまで練習する時間はA代表にも東京五輪代表にもない。最初からフォーメーションを統一していれば、若手引き上げはもう少しスムーズに行ったのではないかという見方もできる。2019年6月のコパ・アメリカ(ブラジル)を混成チームで挑むなど、指揮官も世代間融合を推進しようという姿勢を強く押し出しているだけに、やはり現状は残念だ。

 もう1つ、森保監督には2つの代表活動の重複という大きな課題がある。2019年11月シリーズではキルギス→広島→大阪という超強行日程で動いてA代表と東京五輪世代の指揮を執ったが、どの試合も中途半端な形に終わっている。これを受け、今年3月シリーズではどちらを中心に率いるかという議論がなされていた最中に新型コロナウイルスが拡大。全ての代表活動がストップしてしまった。今後の国際試合の再開メドが立っていないうえ、2021年までズレ込む可能性もあるが、指揮官がどういう身の振り方をするかは事前に決めておかなければいけない点だ。

 2021年7月に東京五輪が予定通り開催される場合、チーム強化に充てられる時間は3・6月のインターナショナルマッチデー(IMD)と7月の直前合宿だけ。3・6月のIMDにはカタール・ワールドカップ予選も入ってくるため、両方を見て回るのは困難。それが最終予選であればなおさらだ。やはり日本サッカー協会は森保監督にどちらをマネージメントしてもらうかを決断する必要がある。

 3月末に就任した反町康治新技術委員長には、2008年北京五輪を指揮した自身の経験を生かしつつ、2つの代表チームがどうあるべきかを明確に打ち出すことを求めたい。そうしなければ、森保監督も先に進めないだろう。

 ここまでA代表で指揮官がやってきたマネージメントにはプラスとマイナスの両面がある。代表活動再開後にA代表専任、あるいは軸足を置くことになるのであれば、最初に掲げた「世代交代」と「世代間融合」をこれまで以上に強く推し進めることが肝心だ。最終予選を確実に突破し、カタールで8強の壁を超えるための道筋を、今こそじっくりと探ってほしい。

文●元川悦子(フリーライター)