JリーグとNPB(一般社団法人日本野球機構)が設立した「新型コロナウイルス対策連絡会議」は4月23日に、6回目となった。
 当初は、様々な制限は設けられたとしても、再開のキックオフはそう遠くはないと思われていた。しかし初めて同会議が行われた3月3日が、もうずいぶん前の出来事に感じられるほど、スポーツと、未知で手強いウイルスとの闘いは厳しい展開に持ち込まれている。

 Jリーグは多くの競技団体が活動休止をするこの間、リモートワークを最大限活用し活発に動き、発信を続けて来た。会議の実数も大幅に増加し、全国に拠点を置く56クラブの連帯感も強まっているかに映る。

 今年、川淵三郎氏(83歳)と並ぶ長期となる4期目のチェアマンに就任した村井満チェアマン(61歳)は、「スピード感」と、「自らの言葉で伝える」を信念に、未知の難局をけん引する。試合がいつ終了するか、まだ見えない。しかし専門家から直接ウイルスに関する情報を得る機会を設け、ファン、関係者、社会に対し、ともすれば公開されない、「再開のために何が必要か」といったこれらの情報も、いち早くオープンにする。

 緊急事態宣言による自粛、規制が続く現時点で、チェアマンは「この段階では、無観客試合も想定しなければいけない」と、これまでスタジアムの収容率50%に削減した中での実施を考えたシミュレーションを今後、無観客でも行なう方針を明らかにしている。世界中でサッカーのない週末が続くなか、Jリーグはどう再開するか、出口への構想をインタビューで聞いた。

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――この何か月か、経験のない困難にどう立ち向かおうと考えていましたか。

村井チェアマン(以下敬称略) 私たちはルールを守ってサッカーをしますし、規約を尊重して組織運営に当たってきたわけです。ところがこの新型コロナウイルスで起きる事案には、そういったルール、規約の解釈で積み重ねた前例や経験が全く通用しません。毎日、ともすれば朝と晩でさえ、瞬時に事態が変わってしまう。このウイルスが国境、県境、人間関係やコミュニティ、あらゆる垣根を次々と越えてしまう脅威を感じています。

――そうした中で、感染状況も行政も異なる56クラブの方向性を、どうやってまとめて来たんでしょうか。

村井 感染症としての怖さだけではなく、僕はこのウイルスが人間関係、コミュニティの分断に襲いかかってくるウイルスではないかと思っている。相手が、こちらを分断させようと来るなら、私たちはそれに絶対に負けない団結、結束力で立ち向かう。先ずはこう決意しました。オンラインでの会議を行なう不自由も、始まる前には想定したのかもしれない。しかし実際には、オンラインだからこそ、月1回集まっていた全クラブの実行委員が、この2か月ですでに8回も会議に参加している。理事会も同様です。

――クラブの多さはむしろ連携の強みに?

村井 この活動休止で各クラブそれぞれに困難を抱えている。そうした中、議論し、再開に向かって感染予防という同じ方向を見て来ました。各クラブとの連携が、これはいい意味での「密」になったと実感しています。

――事務局はどうでしょう。早くからリモートワークに変えています。

村井 オンラインのおかげで、多くの会議にちょくちょく顔を出せるようになって、なるほど、と僕自身が学ぶ機会が増えたかな。これまでもオープンに報告はされてきましたが、実際に話を聞くと、為替のちょっとした動きがJリーグの運営にこれほど重要な影響をもたらすなど改めて深く知るようにもなった。


――4月23日、6回目の連絡会議を終え、非常事態宣言が続く場合、再開はまた厳しい状況となり、無観客試合を模索する必要性についても言及していました。

村井 非常事態宣言が、地域によって解除されるかもしれませんし、あるいはさらに長く続く地域も出てくるかもしれない。こうした違いが想定される以上、何月に一斉に再開、といったシナリオは描き難いでしょう。地域ごとに、感染の状況を見ながら再開していくプランも考えないとならなくなるかもしれない。

――今季、最悪の場合は中止といった事態は考えていますか?

村井 現時点で、日程の消化は可能で、中止を考える状況にはない。お話したように、このウイルスの影響は本当に瞬時に変わってしまう。

――当初は収容率50パーセント、あるいはアウェー戦の削減で再開する計画もありました。無観客試合からのスタートとして、具体的に検討すべき課題は何でしょうか?

村井 専門家の先生方にも伺っていますが、無観客だから、選手に再開を告げて、すぐ実行できるという話ではない。選手はどうやって移動するのか、公共交通機関を利用して大丈夫なのか、宿泊施設も従来通りの利用方法でいいのか、食事の摂り方、試合中もベンチでソーシャルディスタンスが必要か、声を出していいのか、ベンチでマスクは必要なのか、と、上げればキリのない感染予防対策が、これまでとは全く違うルールとして新たに必要になるでしょう。また、無観客とはいえ、どう警備をしてもらうか、ボランティアなくしては開催できませんし、こういった方々の安全も最大限考慮する必要がある。再開について、これだけは絶対に守ろうと考えているんです。それは、もし僕が選手の奥さんだったら、家族だったら、試合に行く際、これまでのように頑張って、と安心して送り出せるか。その考えを大前提にする。


――最短の再開は(5月9日の1か月後とした場合)6月になります。

村井 プレミアリーグにならって3週間前に選手に告知するとして5月中旬ですが、緊急事態宣言がどうなるか、ここは分からない。ただ、再開を決断する材料というのは、私は持っているし、この優先事項がブレなければ、たとえ、朝令暮改となっても方向性が違ってしまうような事態には陥らないと思っている。

――判断の優先事項とは?

村井 第一に、国民、それは選手も含めて、健康に対して問題が起きないか。次にエンタテーメント、芸術も含めてですが、スポーツ文化を守れるか。3つめに、サポーター、応援して下さる方々に貢献できるのか。決断のプロセスをこのようにあらかじめ定めています。

ーー先日、チェアマンがコストの大幅な削減を求めていくとコメントしました。また経営状況については、鈴木徳昭氏(58歳=クラブ経営本部)が会見で、各クラブの合計で15億円ほど、リーグが最大5億円規模で約20憶円の減益が見込まれると試算していました。刻々とひっ迫する経営についてはどう対応しますか。

村井 今、配分金の前倒し、緊急融資、この2本の柱で対応しようと考えている。緊急に準備できる資金は、(公式試合安定開催資金の充当で)10億円と、Jリーグと関連事業会社で合わせて数十億円ほど準備できる。ただ、これからさらに資金を借り入れできる幅を広げ、何かあったら出資できるように融資枠を備えていく(注:4月28日、融資枠の設定を金融機関に求め、年間予算とほぼ同額の設定で承認を得たとチェアマンが発表。年間予算と想定すると200億円規模)。クラブライセンスがあって、日頃からクラブの債務超過、日常的な経営状況、財務基準をリーグ全体で把握してきたので、こうした状況になって実態を捉えやすい部分はあります。また資金繰りばかりではなく、できる備えもある。例えば税金。収入減によってかかる税金はどうなるか、どんな対応ができるか、今から税務局に話を聞いておくなど、できる策は準備する。コスト削減も含めて、万が一のための"止血策”とでもいうか、そういう考え方も大事になる。

――試合が行なわれない状況では、スタジアムに入る飲食の業者なども困窮している。

村井 先ほどの優先事項にもあった、スポーツ文化を守るには、サポーターが愛する地元クラブを守らなければならないし、ここまで築き上げてきたサッカーという産業も考えていかなくてはならないでしょう。

――プロ野球の「福岡ソフトバンクホークス」が、スタジアムグルメを「UBER EATS」で宅配すると発表し、ファンには自宅で観戦気分が味わえると好評のようです。

村井 NPBとの連携をする中で、日本で85年もの間ファンに支持されてきたプロ野球の力、歴史や経験がいかに素晴らしいかを改めて学ばせてもらっている。そうしたアイデア、知見であったり、資源を、野球とだけではなく、企業の皆さんやサポーターとも出し合えれば、こうした困難の中から新しい枠組みも作れるのではないか。


――6回目の専門家との連絡会議の後、愛知医科大の三鴨廣繁医師が、JリーグもNPBも、感染者をこれほど抑えてクラスターも起こさずにいる努力には本当に頭が下がる。医療関係者の私たちが見習っていいほど徹底されている、と称賛の言葉を送っていたのが印象的でした。

村井 中断を決定した時点から、ウイルス感染防止策として手洗いの徹底ほか、体調管理のための検温、これはご家族にも協力頂き、万が一のための行動記録、保健所への協力がスムーズにできるように、どういった質問をされるかといったシミュレーションまで、細かく各クラブにお願いしてきました。

――休止期間が延びるなかで、選手へのサポートが重要になってくるのではないでしょうか。

村井 それを検討しています。専門家の皆さんそれぞれが本当にお忙しく、政府への提言にも関わり、医療をリードされているなか、こうやって定期的に会議に参加して幅広い知見を提供下さっている。本当に有難く、貴重な機会かを理解しています。例えばサッカーでは1試合で体重も3㌔ほど減少するなど、これは免役力の低下でウイルス感染には影響するか、といった感染への恐怖や、再開が明確にならない状況下でコンディションへの不安、メンタルの問題もあれば、クラブの経営、将来への不安も抱いているでしょう。こうした不安に、専門家の先生が直接、ホットラインを設置して選手の相談にあたってくださると、有難いご提案を頂戴しています。選手は辛い毎日を過ごしていると思う。しかし、選手の出番は必ずやって来る。

――世界中でサッカーのない週末が続いています。

村井 アメリカの9・11の時、東日本大震災、熊本地震の時にも、大変な現場で自分を犠牲にして救出活動や医療、物流で頑張っておられる皆さんの姿に、私たちは勇気付けられてきました。今は、皆さんに何かをするというよりも、そういう方々に苦労をかけず、邪魔にならずにいなければならない時期です。そしてこれを乗り越え、社会にスポーツが受け入れられるようになった時には、今度は私たちが貢献し、恩返しをする番になる。筋書のないドラマの中で、全力でプレーをし、立ち上がる、戦う、そういう姿を見てもらわなくては。そういう日が必ず来ると信じて、選手も、私たちリーグも、その日のために力を蓄え、準備をして行く。私たちは、分断のウイルスには絶対に負けられない。そう思っています。

取材・文●増島みどり(スポーツライター)

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