僕が今シーズンのラ・リーガで一番おもしろいと思ったチームは、中断前(27節終了時点)まで4位と躍進をしている「レアル・ソシエダ」です。

 何がおもしろかったのか?

 その最大の理由は、レアル・マドリーやバルセロナより「サリーダ・デ・バロン」の再現性の質が高かったからです。ソシエダは、このサリーダ・デ・バロン(直訳は「ボールの出口」。ビルドアップに似た言葉で、攻撃の始まりを表わすスペイン特有の表現)をセットプレーかのように実行していました。

 基本的にゴールキーパー(以下GK)を含めて丁寧にボールを前進させるのですが、その方法である「サリーダ・デ・バロン」における戦術的なアプローチが非常に整理されています。イマノル・アルグアシルは昨シーズンの途中にBチームから昇格した監督ですが、短期間でここまで完成度の高いチームを作り上げたのは、本当にすごい。よりレベルの高いクラブを指揮できる人材の一人だと感じています。

 このチームを語るには、二つの見方が必要です。一つは戦術的な観点で、もう一つは個の資質的な観点です。今シーズンのソシエダは、“フットボーラー”として高い資質を持った若手の有望株が揃っています。おそらく先発メンバーの平均年齢は24歳くらいなのではないかな、と。

 たとえば、マドリーからレンタル中のノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴー(21歳)、アンダー世代のスペイン代表歴があるMFミケル・メリーノ(23歳)とMFイゴール・スベルディア(23歳)、またスペインのフル代表にも選ばれているFWミケル・オジャルサバル(23歳)などが20代前半です。

 こうした若手の能力を最大限に引き出し、2010-2011シーズンのジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ)が指揮した時代のバルサのような個と戦術が見事に融合したサッカーを、アルグアシル監督がソシエダという中堅クラブで体現したことに驚きました。

 一体、どんな戦い方をしていたのか。今回は、快進撃の秘密に迫っていきます。


 ソシエダのサッカーを分析するにあたり、大局的な観点では大きく2つの見方をすることができます。一つは「サリーダ・デ・バロン」によって相手陣内にどう侵入するか。もう一つは、相手陣内でどうペナルティーエリアへと前進するか。この2つです。

 今回のコラムでは、「相手陣内にどう侵入するか」にポイントを絞って説明していきます。

 その前に、ソシエダの戦い方について少し解説しておきます。彼らは、基本的にボールを丁寧につなぎながら、ゲームを組み立てていきます。それはボールポゼッションが目的ではなく、相手陣地に入るため、ゴールに向かうためという狙いがあった上でのボール保持です。

 その目的がより明確だからこそ戦術的に整理されていたのだと、私は読み取っています。「相手陣内にどう侵入するか」という段階で彼らが見せる「サリーダ・デ・バロン」の再現性の高さには、2つのポイントがあると考えています。

1、前線の選手による相手DFラインのピン留め
2、GK+2CBと両SB+中盤3枚の戦術的なボール運び

 まず「1」について説明します。そもそも守備は「チーム全体で密集してボールを奪い、そこから一気に攻撃を仕掛る」というのが一般的なセオリーです。ソシエダは、その相手の守備に対して、アルグアシル監督が意図的に密集状態を作らせないような仕掛け、つまり「ラインの分散」を行なっている。それが「前線の選手によるDFラインのピン留め」です。

 サリーダ・デ・バロンをする際、「1トップ+1枚もしくは2枚の前線」はなるべく後方に下りてきません。それは自分たちが後方に立ち位置を取ると、結果的に守備側が密集状態を作りやすくなり、逆に相手のディフェンスの狙いにハマってしまうからです。

 ここには「相手守備を分散させる」という明確な意図があります。

 今シーズンの序盤、アルグアシル監督は1トップのウィリアン・ジョゼやアレクサンダー・イサク、ウイングのオジャルサバルらには「下がるな。前にいろ」という指示を送り続けていました。シーズンが進むに連れ、私はここにさらなる意図があったことに気づきました。

 彼らは180センチを超える身長と当たり負けしないフィジカルの強さを持っているのですが、アルグアシル監督はその特徴を加味し、後方からの「サリーダ・デ・バロン」がうまくいかなかったときの選択肢として、前線を使った攻撃の組み立てをチームに取り入れました。

 あくまで傾向の話ですが、サイドバック(以下SB)は身長がそれほど高い選手がいません。そこで、ソシエダは後方からゲームの組み立てがうまくいかない場合には、相手のSBを狙って空中戦を仕掛けます。当然、前線でピン留めしている選手たちには身長がありますから簡単に負けることはありません。全員が足下のスキルも備えていて、戦える選手たちです。

 しかし、この場合、前線の選手たちの対応だけではこの攻撃を成り立たせるには不十分です。ソシエダがすごいのは、この空中戦への仕掛けに必ずセカンドボールを狙って中盤の3枚がフォローに回る状態を作り出しています。メリーノ、スベルディア、ウーデゴーはセカンドボールの回収できる活動量を持っていて、データ上では前半だけで平均6~6.5キロを走っています。

 もちろん、センターバック(以下CB)やSBの選手たちが的確に空中戦を作るようなボールを放り込む技術を持っていなければいけませんが、ソシエダはチーム全体が相手陣内に侵入するための手段として、この選択肢を戦術的に共有しています。

 実は、この選択肢=プレス回避の方法があるから「2」の「GK+2CBと両SB+中盤3枚の戦術的なボール運び」が安定して行えることにつながっているのです。


 前半、ソシエダは相手の出方をうかがうようにボールを動かします。自陣で自分たちがボールを持ったときに、まず「相手がどのようなプレスをかけてくるか」をしっかりと観察するようにパスを回すのです。

 具体的にいうと、ボールをGKに渡してCBが深い立ち位置を取り、SBが広がることで「こうすると、相手はこういう守備パターンで来るかな」という状況を意図的に作り出しています。「今日のマークの仕方は、こういうことみたい」という探り方をするのです。そうやって相手の出方を見ながら、「今日はビボーテ(ボランチ)がこういう下り方をして前進するよ。だから、ウーデゴーはここまで下がってこないでね」みたいな感じで、持っているプランの中から有効な形を選択します。

 相手のファーストライン、セカンドライン、最終ラインの作り方。ファーストラインがどうプレスをかけ、セカンドラインがどう対応するか。最終ラインは誰が誰をマークし、どういう出方をしているか…。前半の早いうちに自分たちの戦い方=「今日の方針」を決めるために、丁寧に「サリーダ・デ・バロン」を実践します。

 例えば、「今日はウーデゴーを生かすプランだよ」という戦術が決まれば、ボールを回しながら相手を動かし、「今だ!」というタイミングで彼が下りてきます。そこには「ボールを奪われない」とチーム全体が共有する彼への信頼という背景があり、周囲もウーデゴーにスペースとプレー時間を与えるような立ち位置を取ります。そうすることで、このレフティを活用した攻撃の仕組みを意図的に作り出しています。このプランの場合、周囲の選手の立ち位置はサポートとしての優先順位が低くなり、より前進という選択がなされています。

 他にも、ピボーテがスベルディアか、ゲバラかによって「サリーダ・デ・バロン」の方法も少し傾向が変わります。もちろん事前の対戦相手のスカウティングによってどちらかを選んでいることが大前提です。例えば、GKにボールが渡ったとき、いつもピボーテが2CBの間に入るわけではなく、相手によっては2CBの脇にも立ち位置を取ります。

 ここがアルグアシル監督の凄さだと思うのですが、2人の選手の特徴によって戦い方の傾向を変えています。

 おそらくスベルディアはCBからピボーテになった選手です。彼が入った場合はやり方をシンプルにして、2CBの間に下げることが多いし、難しいことをさせません。一方のゲバラはずっと中盤の選手で、ある程度足下の技術も備わっているのでCBの脇に立ち位置を取らせる傾向があります。

 そして、ボールの持ち出しをCBではなく、彼にやらせることが多い。対戦相手の守備によってもピボーテの下り方や位置が変わるため、同時に前線の選手たちも配置や立ち位置を適応させています。選手の特徴によっても細かく戦術を浸透させるのは、簡単にできることではありません。

 後方からの「サリーダ・デ・バロン」の基本的な立ち位置は、2CBが開き、その前にピボーテがいて、インテリオール(インサイドハーフ)の2枚は後ろに下がらず、両SBが高い位置に上がって「2-1-4-3」を形作ります。そこから相手の守備の仕方によってピボーテが下りて最終ラインが「3」になり、中盤のミケル・メリーノが下りてきて、元いたスペースにオジャルサバルが入ってくる「3-1-4-2」になったりするなど全体の陣形も変化します。

 この「サリーダ・デ・バロン」も相手チームの出方によって全員が立ち位置を変化させ、結果的に可変システムの状態を生んでいます。だから、相手チームもさっきまでマークについていたはずなのに捕まえきれなくなったりすることが多々起こります。実際に、シーズン中は相手がそうして混乱しているシーンを何度も見かけました。

 彼らは、この「サリーダ・デ・バロン」をセットプレーがごとくスーッと実行するんです。

 しかし、これを実践するためには、全員にポジショナルプレーが要求されるので、当然ボールに触る回数が少なくて、立ち位置の微修正を繰り返してポジションをキープしないといけない選手が現われます。やはりポジショナルプレーには、我慢と献身性を両立することが不可欠です。ただ、今シーズンのソシエダには、それを実践できる資質を備えた選手が揃っています。

 ボールを運ぶこと、味方のスペースを作るために立ち位置を取ること、味方に時間を作るためにランニングすること、ボール保持者が時間を作っている間に正確な立ち位置を取り直すことなど、資質の条件を挙げだしたら切りがありませんが、確実に言えることはそれぞれのポジションに必要な適切なプレーを各々が実践できるスキルを持ち合わせていたことです。

 だからこそ「サリーダ・デ・バロン」の再現性の質が高かったのだと思います。

 今シーズンのソシエダは、まず相手の守備ラインを張り付かせるために前線が立ち位置を取り、GK含めた後方の選手で数的優位性をうまく使いこなしながら「サリーダ・デ・バロン」の質を高めていきました。その土台をじっくりと構築したおかげで、相手陣内に安定して侵入することが可能になりました。

 さらにアルグアシル監督の戦術家としての才能の高さを示したのは、相手陣内での守備への備えです。

 若いチームなのでまだまだ全体的に個のミスによる失点は多いですが、相手の陣地で主導権を握っているときも、2CBとピボーテ、メリーノ、さらに攻撃と逆SBの1枚が必ず守備のために相手の攻撃に蓋をする立ち位置を取り続けていました。つまり、後方で「2-3」もしくは「2-2」というシステムになっていたということです。

 この守備時のポイントは「SBがどこまでポジションを絞るのか」という点ですが、ここにおけるSBの判断とポジショニングの修正はすごくマメにしていました。

 やはり攻撃だけが良くても、リーガで中堅クラブが4位まで上がるのは厳しい。カウンターへの対策までセットで危機管理を行い、ここまでのチームを作り上げたアルグアシル監督の手腕は、おそらく現地でも相当評価を高めているはずです。

 来シーズンがどうなるかはまだ先が見えないですが、順調に結果を出せばビッグクラブを指揮してもおかしくない監督の一人です。

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすながそうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。