これまで数多のスター選手がプレーしてきたプレミアリーグだが、まったく役に立たなかった“珍助っ人”もいた。なかでも、1996年11月にサウサンプトンに入団したアリ・ディアは、その代表的存在と言ってもいいだろう。

 セネガル出身のディアは入団の経緯からしておかしかった。友人に90年代にミランで活躍した“リベリアの怪人”ジョージ・ウェアを演じさせ、当時のサウサンプトンの指揮官であるグレアム・スーネスに電話。「ディアは私の従兄弟で、パリ・サンジェルマンでも活躍した代表選手だよ」と紹介させたのだ。

 もちろん、この経歴はすべてでたらめ。パリSGでプレーした経験などなく、アマチュアレベルの選手だったが、怪我人が続出していた台所事情もあり、サウサンプトンは1か月間の期限付き契約を交わしてしまったのである。

 まんまと騙されてしまったスーネスは、英衛星放送『Sky Sports』の番組内のインタビューで、当時の舞台裏をこう話している。

「契約してから最初の練習、それも翌日に試合を控えていた金曜日だ。そこで彼が使い物にならないことが分かったんだよ。たった5分で『これはおかしい』と感じた。だけど、あの時の我々には8人の紅白戦をやる人数すらいなかった。どんどん怪我人が増えていたんだ。もう絶望的だった……」

 さらなる驚きは、そのレベルの選手を、スーネスがいきなり公式戦で起用したことだ。

 迎えた本拠地でのリーズ戦で、当時のエースだったマット・ル・ティシエが怪我で離脱したため、ディアを32分からピッチに送り出したのだ。“秘密兵器”と期待された男の登場にスタジアムは沸いたが、次第にそれはため息や嘲笑へと変わり、85分にピッチを去る際には、完全なるブーイングへと変わっていた。

 この試合の晩に夜逃げをし、忽然とホテルから行方をくらましたというディアを、ル・ティシエは当時、次のように評している。

「彼がピッチを走り回る姿はまるで氷上の小鹿のようだった。とてもじゃないが、ベンチで見るも恥ずかしかったよ」

 だが、電話一本で契約したサウサンプトンにも、責任があるというものだろう。まさに嵐のように去っていったディアはいま、一部のファンの間では、素性を隠して見事にプロ契約を勝ち取った“ミステリアスな男”としてカルトヒーロー的な扱いを受けているとか……。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部