日本サッカーの底上げに尽力したジーコが語るJリーグ。前編ではJリーグ開幕当初にサッカー人気が上がった要因を振り返ってもらった。本インタビューの中編では、Jリーグの成長に対して現在の評価と、発展したことによる懸念を語ってもらった。

※本稿はサッカーダイジェスト本誌19年9月26日号から転載。一部、加筆・修正。インタビューは19年9月5日に実施。

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 Jリーグの過去から現在までを振り返り、ジーコは「全般的に大きな成長を感じます」と言う。クラブレベルの進化は、数字、結果として表れているからである。

「最初、チーム数は10チームしかありませんでしたが、今は50チーム以上とだいぶ増えて、カテゴリーはJ1、J2、J3まであります。なおかつ、その3部門はダ・ゾーンでも放送されるおかげで、スポンサーの名前もしっかりと露出されていて、スポンサーは投資に見合うものがある状況。いくつかの街を除いて、今ではほとんどの大都市にサッカークラブがある。そうして日本サッカーが発展・普及したのは非常に喜ばしいことです。

 そのなかで、例えばガンバ、浦和、鹿島などは、アジア・チャンピオンズリーグで優勝し、クラブワールドカップにも出場した。他に柏や広島は開催国としての出場だったけれども、クラブワールドカップに出たことは事実。そうして世界大会に出るクラブも出てきたことも、日本サッカーが発展したとして評価していいんじゃないかなと。

 ひいてはJリーグが発展したおかげで、A代表、世代別代表にもJクラブから良い選手を送り出しています。彼らが活躍してワールドカップに出場し、今度は本大会で決勝トーナメントにも出場できるようになった。そうしてJリーグの発展が代表にも還元され、日本サッカー全体の評価を高めることはできたと思います」

 クラブワールドカップで日本勢は、2007年の浦和、08年のG大阪、15年の広島が3位。鹿島に限って言えば、16年にクラブワールドカップで準優勝、18年にはアジア・チャンピオンズリーグで優勝を果たした。ワールドカップで日本代表は、02年、10年、18年大会でベスト16まで勝ち進んだ。アジア、さらに世界の舞台で戦えるようになったのは、選手のレベルが上がったからであって、その選手レベルが上がったのは、「移籍事情を振り返ればよく分かる」とジーコは説明する。

「日本の選手に力があると認知されたのは、ワールドカップの成果も影響していると思います。最近のマーケットの動向を見ればよく分かりますよね。昔は日本人が海外に移籍するのはスポンサーや集客目当てのマーケティング要素が強かったところもありましたが、今では戦力として獲得したい意向が海外クラブにはある。今では、安くて機能性の高い原石という見方で、いろんな国が日本人を欲しがっている状況。しかも、海外移籍した選手たちのなかで、各所属クラブで活躍できる選手が増えたのも喜ばしいことです。
 
 例えばビッグクラブでは、まだ磨かれていないダイヤを早くに獲得する方針を進めている。若い時から有望な選手の能力を見抜いて、そこをちゃんと磨いて、なんらかの形で将来につながればとして、先行投資をしています。日本ではレアル(・マドリー)の久保(建英/現マジョルカ)やバルセロナの安部(裕葵)がターゲットになりましたね」

 昨季、FC東京からレアル・マドリーへ移籍した久保、鹿島からバルセロナへ渡った安部の他には、菅原由勢が名古屋からAZ(オランダ)へ、中村敬斗がG大阪からトゥベンテ(オランダ)へ移籍した。いずれも20歳以下で海外に渡るなど、近年は特に若手の海外移籍が加速している。日本人の力が認められるようになったものの、若手の海外移籍に関しては、ジーコは「黄色信号を出します」と警鐘を鳴らす。

「若い選手は、まだできあがっていない状態。そんな状態で海外に行くと、ただサッカーをするだけではなくて、生活やその国の言語にも慣れないといけない。自国の日本であればサッカーだけに集中できるのに、海外に行けばなかなかそうはいかない。他のことも考えて生活をしないといけない影響で、サッカーの成長ができなくなる危険性もあります。

 スターというのは、クラブで台頭し、活躍をしてできるものなのに、ちゃんとした経験をせず、または結果を残していないまま海外に行って、『もう自分はできる』と過信をしてしまう可能性もある。結局は海外に行ったら、移籍先のトップチームで試合に出るのではなくて、下部チームで試合に出るとなると下のレベルなので、だんだんとモチベーションが分からなくなって、サッカー選手としての成長が停滞してしまうリスクもあります。

 若手の海外移籍は考えただけでもいろんな危険性があって、彼ら若手の成長の停滞で日本サッカーが原石を失ってしまうと、必然的に将来の日本サッカーに影響を及ぼすかもしれない。これは自国のサッカーが停滞してしまう、非常に危険な状況になると考えないといけないことです。

 選手は試合に出てこそ成長するもの。日本サッカーはクラブレベルではだいぶ認知されるようになったので、Jリーグのトップレベルで経験、ひいては実績を積めば、実力のある選手として移籍市場で認めてもらえる。一方で、まだ試合経験を積んでいない若手は、選手の実力を評価されるところまでは辿り着いていないと思います。それなのに、海外移籍をして、行き先で試合に出れなければ、選手も戸惑いを感じる。だから、『移籍したい!』と希望するのは簡単だけれども、タイミングや自分が成長できるところかどうかをしっかりと考えないといけないし、移籍に関わる人々はそこも考慮しないといけない。お金だけを重視したら、日本サッカーが停滞する時期がいずれ出てきてしまうかもしれません」

 若手の海外移籍について改善策を聞いたが、ジーコは「ない」と即答した。

「正直、それに歯止めをかけることはできない。日本でも、ブラジルでもそう。現状では、個人の意向を止めることはできない」

<後編に続く|5月1日公開予定>

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)
通訳●高井蘭童(鹿島アントラーズ)