2021年7月23日開幕。

 およそ1年の延期となった東京オリンピック。

 原因は言わずもがな新型コロナウイルスの世界的感染拡大である。

 もちろんスケートボード界もその例外ではなく、競技を管轄するWORLD SKATEからも5月末までに予定されていた全ての五輪予選大会の開催を見送ることが正式に発表されている。

 世界各国で都市封鎖が行われ、日本でも緊急事態宣言が出された今は未曾有のバイオハザードの渦中にあり、人々の健康が最優先事項であることは間違いない。しかし、未来に目を向ければこの決定が多かれ少なかれメダル獲得の行方に影響を及ぼすであろうことも想像に難くない。

 特に日本勢のメダル獲得が有力視されていた競技であった場合、この出来事がマイナスに働くことになってしまうのではないかと危惧している人もいるのではないだろうか。その中でスケートボードも数多くのメディアからメダル獲得の有力種目と目されてきた。

 では、この事実を関係者や選手たちはどう思っているのだろうか。彼らの言葉から、現状を打破した先にある未来に向けた可能性を探っていきたい。

先頭をいく選手に追いつき、追い越す事も。

「日本チームは下が11歳から上は21歳という若い年齢層の選手で構成されています。まだまだ育ち盛り、伸び盛りの選手ばかりです。出来る(知っている)トリックも限定されており、またその完成度も、年齢層の高い多くの外国(アメリカやブラジル)の選手に比べたらまだ完璧とは言えません。

 そんな中、1年延期されたことで多くの時間を練習に費やすことができるようになったので、先頭をいく選手に追いつき、追い越す事が可能になったと考えます。これから再計画されて決まってくる、多くの世界大会までも時間があるので、ランキングポイントの面から見ても日本の選手には有利に作用する事と思います。

 世界がとても厳しい状況にある現在ではありますが、スケーターのモチベーションが下がらない様に出来るだけのサポートや激励をしていきたいと思います」

 これはオリンピックにおけるスケートボード競技を管轄するWORLD SKATE JAPANからの言葉だ。このメッセージからは、日本は総じて年齢層が低いことが大きな特徴であることが読み取れる。

 実際に世界ランキング上位の外国勢と日本勢の年齢を比べてみても、それは如実に表れている。

10代の才能ある選手が揃っている日本。

 男子ストリートでは、ランキング1位のナイジャ・ヒューストンが1994年11月30日生まれの25歳であるのに対して、2位の堀米雄斗は1999年1月7日生まれの21歳で4歳の開きがある。

 さらに国内2番手の4位白井空良は18歳、3番手の13位青木勇貴斗に至っては16歳とまだまだ若い。

 女子ストリートもランキング1位のパメラ・ローザが20歳、4位のレティシア・ブフォーニが27歳、7位のマライア・デュランが23歳であるのに対して、日本勢は3位の西村碧莉が18歳、2番手の11位織田夢海に至っては13歳の中学2年生と言う若さだ。

 もちろん女子パークも例外ではなく、ランキング6位のドラ・ヴァレラが18歳、5位のリジー・アーマントが27歳なのに対し、ランキング1位の岡本碧優が13歳、2位の四十住さくらが18歳、9位の開心那に至っては最年少の11歳と言う驚きの若さとなっている。

 この相対的な選手層の若さが日本にとっては有利になる。

 協会はそのように現状を捉えているようだ。

五輪予選4戦4勝の日本人選手も。

 確かにいつの時代も、どのスポーツも若手の突き上げは欠かせないものであるし、それが業界の活性化に繋がることは間違いない。

 ただ、当たり前のことではあるがそれだけで勝敗が決まるものでもない。

 しかし、スケートボードは他のスポーツと比べても若年層の突き上げが顕著なのもまた事実だ。

 それは直近1年間のコンテストの結果からも見て取れる。

 この1年では白井空良がソラグラインド(フロントサイドのオーバーターンからのフェイキー5-0グラインド。今まで誰もやったことがないトリックだったことからこう呼ばれるようになった)、岡本碧優が540(お腹側に540°回るエアートリック)という、今や代名詞となったキラートリックを武器に、五輪予選大会に当たるコンテストで優勝。メダル候補として注目を集めるようになった。しかも岡本碧優に至っては、五輪予選4戦4勝の負けなしで金メダルに最も近いとまで言われている。

 そんな彼らに共通していることは、どちらもまだ伸び代が十分にある十代の若手であり、武器となるトリックを身につけ急激に世界的ブレイクを果たしたこと。

 加えて言うなら堀米雄斗や西村碧莉が世界的に注目を浴びるようになった2017年当時の年齢も、堀米が18歳であり、西村は15歳だった。

次のブレイクは青木勇貴斗になるか?

 これらの事実に当てはめて新たなブレイク候補を探してみると、日本には期待を抱かせてくれる選手が複数いる。

 昨年のWORLD SKATE JAPANのオリンピック強化指定選手選考大会、並びに日本スケートボード協会(AJSA)のプロツアーで国内トップの成績を残した青木勇貴斗もその1人だ。

 現状は男子ストリートの世界ランク13位で国内3番手ではあるもの、年齢も16歳と世界ランクトップ20の中では最も若く、彼のトレフリップ(スケートボードを縦と横の両方に1回転させるトリック)のバリエーションは世界のトップと比べても引けを取らない。

「今は世界ランキングから見ても、空良君(白井)や雄斗君(堀米)には追いついていません。でもオリンピックの開催が1年延びたことで、スキルも順位も追いつくための練習時間が多くとれるようになりました。新しいトリックの手応えも十分にあるので、今は新型コロナウイルスで大変な世の中ではありますけど、自分にとってはある意味チャンスだと、ポジティブにとらえて頑張っていこうと思っています」

 と本人も息巻く。

日本では次から次へと優秀な若手選手が。

 他にも女子ストリートで2番手につける織田夢海やそれに次ぐ中山楓奈、西矢椛らの年齢もまだ10代前半であり、育ち盛り・伸び盛りであることから大いに期待が持てる選手と言える。それでいて、すでに全員が世界大会の決勝の舞台を経験して世界トップレベルを肌で感じていることから、自身の足りないところをしっかりと理解して練習に取り組めるのも大きなプラスだ。

 また、1年の延期によって滑り込みで出場権獲得を狙うという意味では、15歳の前田日菜も面白い。

 昨年の全日本選手権では精彩を欠き強化選手入りを逃したが、HINAスケートパークという自身の名前を配した練習拠点ができたことで急速に実力をつけ、3月頭に開催された非五輪系コンテストの最高峰、Tampa PRO優勝というアナザーストーリーで世に出てきた逸材である。

 このように、今の日本は次から次に優秀な若手が頭角を現してきているのが現状だ。

 協会の期待が高まってしまうのもうなずけるし、群雄割拠の時代と言っても差し支えないのではないだろうか。

では、追われる立場の選手たちは?

 ここまでは日本の期待の若手を紹介してきた。

 しかし、今後世界を席巻しそうな10代のスター選手候補は、何も日本に限ったことではない。

 世界を見渡すとこの1年でグンと伸びて、日本勢の強力なライバルになるであろう選手も当然のことながら存在する。

 そう言ったライバルの存在を危惧しているのが、現世界王者の岡本碧優のコーチを務める笹岡拳道だ。

「去年は碧優が世界を舞台に連勝を重ねたことで女子パークの世界レベルを引き上げました。代名詞の540はもちろん、キックフリップインディー(空中でスケートボードを縦に一回転させて、それを後ろ側の手でお腹側から掴むトリック)も話題になったことで、他のライダーが目指す指標を創り上げてしまったんです。

 しかも自分たちはトリックの構成も今年の夏に標準を合わせてやってきたので、碧優にとっては1年の延期が不利に働くのではないかと懸念しています。

 それにWORLD SKATEからも今までのポイントをどういうふうに処理するのか、まだ正式な発表がないのでモチベーションの面でも心配ですね。そこは置かれた立場は違いますけど、男子パークで国内トップに立つ(笹岡)建介もモチベーションのことは言っていました。

 やはり1年延びたことをチャンスだと捉えて必死にやれる選手、立場で言うなら追いかける側の選手の方が有利に働きやすいじゃないかと。

 ただ建介に関してはここ数年世界経験も存分に積んで、去年1年間でかなり成長しました。それにまだ先があってそこに追いつかなければいけません。モチベーションを保つのは大変ではありますが、このまま成長していけば、世界との差は縮まるかなと思っています。

 ただ、言い換えればそれだけ下からの突き上げがすごいということでもあります。女子パークでは、多くのスケーターが去年の碧優の再現を狙っているでしょう」

 このことからライバルになるであろう海外勢に目を配ると、確かに可能性を感じる選手はいる。

「3カ月に1つのペースで大技を取得する必要が」

 現世界ランク3位のスカイ・ブラウンなどはその筆頭と言えるのではないか。

 彼女はイギリス人の父と日本人の母の元に生まれ、宮崎県出身でもあることから日本代表も選択できたが、イギリス代表での出場を明言したことで、国を背負ってメダルを争うオリンピックでは最大のライバルになりうる存在だ。

 前述のキックフリップインディーも、すでに昨年の時点で練習では成功させていることからトップを狙えるスキルも持ち合わせているし、年齢も岡本碧優よりも2歳若い11歳というのだから、体格も含めて1年間で劇的に成長する可能性も十分にある。

 ただし、年齢だけで言うなら日本の開心那も同じ11歳なので、同様の伸びしろに期待といったところか。

 今までの結果だけで言えば、女子パークは岡本碧優が絶対王者とも言える実力を示しているが、その分標的にされやすいこともまた事実。

 では、この岡本碧優包囲網とも言える状態を彼女はどのように乗り越えようとしているのだろうか。

「過去の流れを辿ると、今年は今まで以上に世界のスキルがグンと伸びてくるでしょう。去年は540とキックフリップインディーの2トリックで危なげなく逃げ切ることができましたが、今年はその倍は必要なんじゃないかと思っています。そうなると3カ月に1つのペースで大技を取得するような練習になるんですが、コンテストスケジュールが白紙になったことでこっちも練習する時間が増えました。だからこそ、コンテストが開催されない今がスキルアップの大きなチャンスでもあります。

 もちろん新しい技にはケガのリスクがつきまといますし、今は新型コロナウイルスの感染拡大の不安もあります。そこは状況を見ながら十分に注意しつつ、ベストを尽くしていきたいと思っています」

 と笹岡は語る。

 以上のようにスキルが飛躍的に上昇している女子パークの現状を踏まえれば、今は絶対王者と呼べる活躍を見せている岡本碧優も安泰とは言えない。

 日本人の躍進に期待したいところではあるが、どう転ぶのかは今後の取り組み次第とも言える。

女子にはまだまだ世界に有力な若手が。

 では、他の種目に目を向けてみるとどうだろうか。

 男子ストリートに関しては、前述のように世界ランクトップ20の中では16歳の青木勇貴斗が最も若いことから、伸びしろも十分にあるのだが、女子ストリートとなると少し事情が違ってくる。

 現状では18歳の西村碧莉が日本の不動のエースに君臨しており、来年も十分な活躍が期待できるのは間違いない。

 しかし、世界では彼女よりさらに下の世代の突き上げが凄まじく、新たなうねりとなっているのもまた事実だ。

 中でもブラジルのライサ・リールは日本勢の最大のライバルになりうる。

 昨年のSTREET LEAGUE SKATEBOARDING ロサンゼルス大会で初優勝を飾り、一躍世界のトップに躍り出た彼女は、現時点での世界ランクも2位と西村碧莉の上をいっており、十分にメダルを射程圏内に捉えているだけでなく、年齢もわずか12歳という驚きの若さだからだ。

 ストリートはパーク以上に体格や筋力が影響する種目なので、スキルだけでなく体格でも成長の余地を残す年齢の場合、1年という期間でも急激なスキルアップが見込める。

 よくフィギュアスケートではジュニアからシニアに転向していきなり優勝するという光景を見るが、スケートボードもそれと同じような現象が起こりつつあるのだ。

 そのことから“幼い”というのが、とてつもなく大きなアドバンテージになる可能性があることは、伝えておきたい。

 ただし、年齢だけでいうなら世界ランキング11位の織田夢海や18位の西矢椛の日本勢もライサ・リールとは同学年なので同じことが言える。

 日本としては、西村碧莉のさらなる進化はもちろんのこと、国内のネクストジェネレーションたちの急成長にも期待したいところだ。

明るい未来へ向けて――。

 ここまでスケートボードの各種目における現状をもとに未来予想図を描いてきた。

 今はまだオリンピックの1年延期が決まっただけであり、今後の成り行きにも大きく左右されていくことだろう。

 これまでに獲得したポイントがどうなるのかにもよるし、新型コロナウイルスの収束にどれくらい時間がかかるのかにもよるだろう。

 未来がどうなるのかは誰にもわからない。

 今年の年明けの新型コロナウイルスの蔓延とオリンピックの延期を誰が予想できただろうか。

 今は暗い話題ばかりが先行する世の中ではあるが、そんな時だからこそ来たるべき明るい未来に想いを馳せて過ごしていきたいと思う。

 スケートボーダーは、どんな時であろうともポジティブシンキングとクリエイティビティを失わずに進化し続けてきた。

 だからこそ、スポーツですらなく、街中の遊びだったものがオリンピック競技になるまでに発展できたのだろう。

 そんなスケートボードが起こしてきたミラクルの続きは、新型コロナウイルスで沈んだ経済に刺激を与える起爆剤であってほしいと切に願う。

(「オリンピックPRESS」吉田佳央 = 文)