サラゴサは昨夏、ビクトル・フェルナンデス監督の強い要望を受けて香川真司の獲得に踏み切った。ファンの間では、新入団選手としてパブロ・アイマール(2006年夏に入団)以来のムーブメントが起き、その活躍に期待が集まったが、開幕直後に輝きを放ってからそのパフォーマンスは完全な尻すぼみ状態にある。

 今シーズンのラ・リーガ2部において最初の15節で12あったスタメン出場が、続く15節で6と激減している。しかも特筆すべきは、フル出場が3試合(いずれも序盤)しかない点で、途中交代が15回というのはアルバセーテのダニ・オヘダの16回に次いでリーグで2番目の多さだ。

 この数字が示唆しているのは31歳になった香川が、2010年夏にヨーロッパに渡ってから10年近くの歳月が経過し、第一線でプレーしてきたことによる勤続疲労を起こしつつあることだ。香川のプロ意識の高さはチーム内外でも評判だ。ピッチに立っても自らの役割を全うしようと高い献身性を見せている。とはいえ、全盛期と比べて運動量やプレーエリアの縮小からくるパフォーマンスの低下は紛れもない事実である。

 香川の最大の持ち味は2ライン(DFとMF)間でボールを呼び込んで、攻撃を加速させたり、前線をかき回したりプレーにある。スモールエリアでも局面を打開するための状況判断力、プレービジョン、アジリティー、パスセンスを高い次元で併せ持っており、自らフィニッシュに絡むこともできる。しかしその良さをサラゴサで発揮したのは開幕してから最初の1か月半だけ。それはここまで2得点・1アシストという数字にも表われている。

 要因はいくつかある。まず一つ目は周囲のプレーリズムに追いつけなくなっている点だ。ラ・リーガ2部はタフなリーグだ。ガツガツ当たり合うエネルギッシュさはある意味で1部をも上回る。そんななか、香川のスキルはチームでもトップクラスの部類に入るが、そのアイデアを具現化するためのフィジカルが周囲の選手に比べて不足している感は否めない。

 新型コロナウィルスの感染拡大による中断前、最後にスタメン出場を果たしたラシン・サンタンデール戦(第30節)でも、V・フェルナンデス監督が全選手に求めるハードワークや守備のタスクをこなすのに苦労している姿が見られた。


 チーム戦術が開幕後に見直されたことも、香川のパフォーマンス低下を招いている要因のひとつだ。相手チームの対策が進み中央の守りを固められると、深く下がってボールを受ける頻度が増えた。ただ、この日本人MFはそもそもエリア近くでプレーしてからこそ本領を発揮する選手だ。ドルトムントに移籍した当初からそうで、ましてやフィジカルで勝負することが難しくなった今、“持ち場”を離れると、自ずと存在感が希薄になってしまう。

 さらに追い打ちをかけたのが、ラファエル・ドゥワメナの戦線離脱だ。開幕当初、指揮官は4-3-1-2システムを採用し、香川はダイヤモンド型の中盤の頂点に配置した。背後を中盤3枚がカバーし、前方にFW2枚が構え、両脇からは左右サイドバックが積極的にオーバーラップ。バイタルエリアを縄張りにする香川にとってまさに理想の環境で、その中で貴重な役割を果たしていたのがルイス・スアレスとともに2トップを形成していたドゥワメナだった。

 自慢のフィジカルを活かして前線で張り潰れ役になることで、ルイス・スアレスをフィニッシュに専念させ、香川も広範囲に動き回ることなく時間とスペースを確保しながら2ライン間で攻撃を牽引できたのだ。しかし、その重要なパートナーが心臓に疾患を患い10月上旬に戦線を離脱してしまった。

 クラブは特別措置で代役としてエスパニョールからハビ・プアドを獲得したが、彼もまたトップ下を本職とする選手だ。V・フェルナンデス監督は、香川と異なりフィジカルが強く、プレーエリアも広いこのスペイン人MFの加入を境にシステムを4-2-3-1に変更し、トップ下にそのニューフェイスを起用した。

 その割を食ったのが他でもない香川であり、途中出場した試合でも左サイドで起用されることが増加。しかし、左SBをサポートするためにトップ下以上に守備面でも高い貢献が求められるこのポジションは、現状の香川に適性があるとはいえず、自ずと攻撃面での活躍の機会も限られている。

 それでも指揮官は、奮起を期待して(頻度は減ったとはいえ)香川をスタメンで起用し、コパ・デル・レイのマジョルカ戦やレアル・マドリー戦では存在感を発揮した。しかし直後に怪我をしてしまい、復帰すると今度はリーグが中断してしまった。

 そもそもレギュラー落ちしたのも、10月第1週のマラガ戦(第9節)を欠場する原因となった発熱によりコンディションを大きく崩したこととも無関係ではなく、そうした巡り合わせの悪さも香川にとってマイナスに働いている。

 香川はもともと起用法が限定される選手ではあったが、年齢の経過とともにその度合いが強まっている。タフなラ・リーガの2部で、しかも戦術が見直されたサラゴサで継続的に主力級の働きを見せるのは現状では厳しいかもしれない。

 ネームバリューがあるため、入団直後から過度な期待をかけられたのも事実だ。しかし、出場機会が減少しても局面局面では光るプレーは見せており、その活用法を探すのもまた指揮官の役割だ。再開後、サラゴサが悲願の1部復帰(中断前の順位は自動昇格圏内の2位)を果たすうえで、香川が貢献できることはまだまだあるはずだ。

文●アレハンドロ・アロージョ(エコス・デル・バロン)
翻訳●下村正幸

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