新型コロナウイルスの感染拡大により、3月13日から中断中のプレミアリーグ。現時点で再開時期は未定で「無期限の中断」となっている。

 ところが、プレミアリーグが水面下で6月8日のリーグ再開を目指していると報じられた。ここから1か月半で未消化となっている92試合を終わらせ、7月27日を最終期限として今シーズンのリーグ戦を消化したい考えのようだ。

 来シーズンの開幕は、8月22日に設定しているという。プレミアリーグ側はこれらの案を英国政府の担当部署に提出し、協議を進めている。なお、再開には政府の承認が必要だ。
 
 英国でも新型コロナウイルスは猛威を振るい、4月25日の時点で感染者14万8377名、死者の数は2万732名と2万人を超えた。ただし、この数字は病院で亡くなった人のみをカウントしたもので、8000名以上(4月21日時点)とされるケアホームでの死者は含まれていない。国家の非常事態であり、3月23日に始まったロックダウン(都市封鎖)も5月7日まで延長されている。本稿執筆時の状況としては、ここからロックダウンを段階的に緩和できるかどうかの瀬戸際にある。

 一方、プレミアリーグとしては、なんとしてでもリーグ再開にこぎつけたい。最大の理由は財政面だ。今季の日程を消化できなければ、テレビ放映権として7億6200万ポンド(約1015億円)の損失を被る。さらに、観戦チケットやグッズ販売などの試合日収入、全日程を消化できないことへのスポンサー契約の賠償金を合わせると、リーグ全体で総額11億3700万ポンド(約1514億円)の損失が生じるという。再開できなければ、経営破綻するクラブが出てきてもおかしくない。

 では、プレミアリーグは6月8日から再開できるのか。英紙サンデー・タイムズで健筆を振るうジョナサン・ノースクロフト記者は、「率直に言えば、プレミアリーグが6月8日から再開することになれば、ネガティブな意味で驚きでしかない」という。第一の理由は、選手の安全面だ。

「複数の選手に話を聞いたが、彼らは一様に心配している。無観客試合といっても、ピッチ上での接触プレーは避けられない。大声で指示を出したり、競り合いながら全力でボールを追いかけたりすれば、飛沫感染の恐れも出てくる。当然、人との距離を2メートル取るソーシャル・ディスタンスのルールは完全に無視される。未曾有の事態であり、私も断言することはできないが、英国の感染状況から言えば、サッカーを行なうのは8月以降にならないと難しいのではないか」

 6月8日からの再開が難しいとする2つ目の理由が、準備期間の短さだ。同記者は再開までのトレーニングとして「4週間は必要」と語る。

「親交のある監督やスポーツ科学者の話では、『再開までの準備期間として4週間は必要』だという。プレミアリーグは3月13日から中断となり、選手たちは1か月以上も実戦から離れている。当然フィットネスレベルは落ちており、身体を仕上げるのに4週間は必要だろう」

 6月8日の4週間前となると、5月10日から全体練習を再開しなければならない。本稿執筆時点でロックダウンは5月7日までとなっているが、緩和といってもおそらく段階的に進められるだろう。サッカーチームの全体練習がここに含まれるかは予測できない。

 さらに、リーグ再開となっても難しさを抱える。プレミアリーグは1か月半の短期間で今シーズンの日程を消化する計画を立てている。選手には事前に新型コロナウイルスの検査を行ない、スタッフや報道関係者を含めて「陰性」と出た者しかスタジアム入室を認めない。また、試合会場を限定し、選手をホテルに隔離して日程を消化する案を検討しているようだが、ノースクロフト記者はこの点についても課題は多いと話す。

「選手に話を聞いたが、バスを利用してのスタジアムまでの移動や、宿泊施設の環境も気がかりだという。選手間の感染を防ぐ理由から、プレミアリーグ側は試合期間中、選手たちをホテルに隔離し、家族にも会わせないようだ。だが、宿泊施設で誰が食事を支給するのか? ベッドメークは誰がするのか? バスの運転手も隔離するのか? 選手をホテルで隔離するといっても“完全隔離”はほぼ不可能で、実現には障壁が多い」

 ただし、同記者は「希望的観測に基づいて言うなら」と前置きしたうえで、再開に向けてのポイントは2つあるという。ひとつは、5月9日からの再開準備を進めているドイツ・ブンデスリーガ。もうひとつは、学校再開など英国における規制緩和の進展状況だ。

「5月9日からの再開で準備を進めているドイツ・ブンデスリーガの成り行きには注目したい。ブンデスが安全に再開し、問題なく試合を運営していけば、プレミアリーグも彼らの運営方式を取り入れるだろう。プレミアが、ブンデスの後に続く可能性はある」

「もうひとつは、規制緩和の進展状況。英国では新型コロナウイルスの致死率がようやく横ばい、あるいは低下傾向になってきた。それゆえ、5月からロックダウンの緩和が始まるだろう。外出規制などが段階的に緩められ、学校は来月から再開になると見ている。こうした規制緩和のなかで、社会が大きく混乱することなく再び動き始めることができるか。著しい感染拡大がなければ、リーグ再開への気運も高まるように思う」

 繰り返しになるが、リーグ再開には英国政府の承認が必要だ。政府で新型コロナウイルス対策を担うクリス・ウィッティ医療顧問は、他人との距離を保つソーシャル・ディスタンスのルールを年内いっぱい続ける見通しを述べた。その場合、プレミアリーグのサッカー選手は特例として認められるのだろうか。

 リーグ再開の条件として、同記者は「英国のロックダウンが解除されることがひとつ。もうひとつは、感染リスクが著しく低下していること。その2つがなければ、まず再開はできない」と話す。だが、この2点をクリアしたとしても、解決すべき課題・問題は山積みである。

取材・文●田嶋コウスケ