新型コロナ禍に際して、大学として全国でも早い対応を見せたのは早稲田大学だった。

 2月27日には、2019年度の卒業式と2020年度の入学式の中止を発表(関西では立命館大が同日に同様の発表を行なっている)。ちなみに、この日12時時点の日本国内の感染者数は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」を除くと、まだ186人に過ぎなかった。

 さらに遡ると、この3日前の2月24日に早大では体育会各部に、合宿など宿泊を伴う移動を禁止するという通達があった。合宿初日にして切り上げた運動部もあったという。

「正直、最初は慎重になり過ぎじゃないかと思ったけど、今思えばあの判断があったから、今のところ、体育会各部で感染者の報告がないのだと思います」

 こう話すのは、競走部の相楽豊駅伝監督だ。

 当然、駅伝チームにも影響はあった。

 今季の主力の1人、中谷雄飛(3年)は翌日から実業団チームの合宿に参加するはずだったが、急遽取り止めに。3月には中谷と千明龍之佑(3年)がケニアで合宿を行う予定で、相楽監督も黄熱等のワクチンの予防接種も受けていたが、それも白紙に。また、毎年、千葉の鴨川で実施していた明大との合同合宿も今年は中止になった。

 それでも3月前半はまだ、宿泊が伴わなければ部の活動が認められていた。競走部の合宿所は所沢キャンパス内の競技場から徒歩圏内にあり、学生たちは電車やバスなど公共交通機関を使わずに移動できたのも幸いだった。3月8日にはキャンパス内で早稲田大学長距離競技会が開催。次回の競技会は3月28日を予定していた。

「落ち着いたら、再集合しよう」

 だが、ここから事態が急変していく。相楽監督が振り返る。

「その前日の27日の夕方に、全部の活動自粛を3日間行うという通達があり、結局、28日の競技会開催を見送りました。その後、一気に5月10日まで活動自粛の延長が決まりました。

 その時点で緊急事態宣言が出されるかもしれないという話もあり、不安になっている学生も多かった。親御さんもかなり心配されていたので、30日の夕方の時点で、地元に帰りたいという学生は帰省させました。“状況が落ち着いたら、再集合しよう”と言って送り出しました」

「やっぱり限界がありますね」

 当初は合宿所に残った者も数名いたが、状況は日々悪くなるいっぽう。そして大学の施設の使用も禁止になったために、結局は全員が地元に帰った。

 現在、各選手がバラバラの場所で自主練習を行なっている状況だ。相楽監督は遠隔で指導に当たる難しさを口にする。

「練習環境がバラバラなだけでなく、地域によっては、外出を控えなければいけないところもあるようです。競技場が使えていた地域もあったのですが、緊急事態宣言が全国に広がってからは使用できなくなり、ポイント練習を行うにしても、ショートインターバルとか坂ダッシュとかしかできない……。

 なので、僕らもこういう形でやったほうがいいよという目安を出したり、個別にメニューの相談に乗ったりはしていますが、選手みんなが手作りで練習をやっている感じです。

 これまでは集団で練習していたので、1人で練習することに慣れていない者もいる。それに6月いっぱいまで試合がなく、ゴールが見えない状況にだんだんモチベーションが薄れてきている学生も出てきていて、正直、意識が高い者とそうではない者とに、差が出てきているのを感じています。やっぱり(自主練習には)限界がありますね」

それでも試行錯誤は止めない。

 もちろん士気が下がらないようにと、様々な施策を試みている。

 学生とのコミュニケーションは、個別に電話面談を行なっているほか、スマートフォンの体調管理アプリを活用。睡眠時間や体重、痛みのある箇所を記録できるだけでなく、メッセージの送受信もできるので、学生は細かく報告を行い、それに対して、相楽監督もフィードバックする。相楽監督は、主に午前中を学生とのコミュニケーションの時間に当てているという。

自主性や主体性を育てるチャンスでもある。

 また、今季からは大迫傑らトップレベルの選手を指導している競走部OBの五味宏生トレーナーが、トレーニングの一部を担うことになったため、動画サイトに手本となる動画をアップロードしてもらい、それを各自に見てもらうなどして対応している。

 学生間でも、マネジャーが音頭をとって、短距離等の他ブロックも含めた競走部全体でLINEのグループを作り、毎日メッセージを送りあったり、トレーニングメニューを共有したりしているという。

 相楽監督はこのような状況にも光明を見出すつもりだ。

「自主練習という形でやることで、自主性や主体性が芽生えたり、自分でメニューを組んでみることで、普段の環境のありがたさに気づいたりする機会になればいいかなと思っています」

良い状況だっただけに残念だが……。

 今季の早大は、今年正月の箱根駅伝で7位に入り、2年ぶりに学生三大駅伝出場へのシード権を手にしている。下級生に有力選手が多く、再び頂点を目指して、再出発したばかりだった。もちろん忸怩たる思いはある。それでも再び学生たちが顔を揃える日に備えて、相楽監督の胸の内には確固たる思いがある。

「今年は1月、2月と良い形で練習ができていて、2月の合宿(鹿児島・日置)も良かっただけに、活動自粛は残念です……。指導者としてもそうだし、学生たち競技者も焦る部分はあると思う。

 しかし、今は、競技者としてではなく、人として、世界全体でこの感染症を広げないようにすることが優先されるべきこと。今は、アスリートであっても、アスリートではなくても、日々状況の推移を見守りながらも、活動しないことが重要なのかなと思います。再集合できて、リスタートした時には、ゼロからチームを作り直すぐらいの覚悟でいます」

(「箱根駅伝PRESS」和田悟志 = 文)