スポーツ報道においてよく使われるフレーズで、「キラー」という言葉がある。

 特定の相手に対して結果を残している選手に用いられるもので、サッカーにおいては決まった相手からよくゴールを奪う選手を称える意味で使われている。

「ウチのこの選手はあのクラブ相手だとよく決める」だとか、「ウチのクラブはいつもアイツにやられる」だとか。長年応援しているファン・サポーターの方にとっては、スターティングメンバーに名前があるだけでも気になってしまうだろう。

 ではJ1通算得点ランキングで上位に名を連ねるストライカーたちに、固有の「お得意様」は存在するのか? 対戦相手別のゴール数を調べていくと、ある選手の特殊性が目を引いた。

 通算得点数1位・185得点の大久保嘉人でも、同2位(161得点)の佐藤寿人でもない。

 通算148得点で6位に位置する、浦和レッズの興梠慎三だ。

通算148ゴールは歴代2位と13点差。

 鹿島アントラーズで2005年にプロキャリアをスタートさせた興梠はルーキーイヤーから試合に絡み、2007~09年のJ1リーグ戦3連覇に貢献。2013年に浦和へ移籍した後は、柔らかなポストプレーと質の高い動き出しを武器に攻撃陣を牽引している。

 通算成績は410試合出場148得点。昨季はJ1新記録となる8年連続の2桁得点を達成し、今季の第1節・湘南戦でも1ゴールを挙げ、浦和での通算100ゴールに王手をかけている。

 現在6位のJ1通算得点数を見ると、2位の佐藤と13点差。今後の成績次第では一気にランキングを駆け上がっていく可能性が十分にある。

 また、これまでの総シュート数は608。大久保(1108本・448試合出場)や佐藤(717本・404試合出場)と比べても少ない。これもまた卓越した決定力を裏付ける。

 そんな興梠の対戦相手別成績を見てみると。以下の通りとなる。カッコ内の数字は出場試合数だ。

18得点:仙台(20)
11得点:FC東京(24)、清水(24)
10得点:広島(23)
9得点:神戸(24)
8得点:川崎F(22)
7得点:新潟(20)
6得点:湘南(11)、C大阪(16)、名古屋(19)、柏(20)、大宮(21)
5得点:磐田(19)、G大阪(20)
4得点:鹿島(13)、鳥栖(14)
3得点:福岡(4)、浦和(12)、横浜FM(24)
2得点:松本(3)、千葉(6)、京都(6)、山形(7)、札幌(9)、甲府(11)、大分(11)
1得点:東京V(1)、横浜FC(2)、徳島(2)
0得点:長崎(1)

 V・ファーレン長崎を除き、興梠はこれまで対戦した全てのチームから得点を奪っている。その中で明らかに突出しているもの。それがベガルタ仙台相手の20試合18得点だ。

大久保、寿人、中山と比較してみる。

 ここで大久保、佐藤と比較してみよう。

 通算得点ランキング1位の大久保が最も多くゴールを奪っているのはガンバ大阪戦の14得点(25試合)。同2位の佐藤が川崎フロンターレ戦の13得点(23試合)。ちなみに同3位の中山雅史がサンフレッチェ広島戦の16得点(24試合)である。

 上記の3選手と比べても、興梠は仙台戦においてほぼ1試合に1得点のペースでゴールを奪う点が突出している。続いて、仙台戦のホーム&アウェーでのゴール数を年度別に見てみよう。

<鹿島時代>※ホーム戦得点/アウェー戦得点
2010年:0/1
2011年:0/0
2012年:2/0

<浦和時代>
2013年:0/2
2014年:0/2
2015年:0/2
2016年:1/1
2017年:3/2
2018年:1/0
2019年:1/0

 2012年からは毎シーズン仙台からゴールを奪っている興梠は、J1で最も「キラー」にふさわしい存在だ。

浦和加入後はなんと14試合15得点。

 鹿島時代も2試合に1得点の割合(6試合3得点)で得点していたが、浦和加入後は14試合15得点と驚くべきペースでゴールネットを揺らしている。

 スピード豊かなアタッカーはミハイロ・ペトロヴィッチ監督(当時)の攻撃的なサッカーにフィットし、Jリーグ屈指の点取り屋へと進化した。2トップだった鹿島時代と違い1トップに入ることが多くなり、フィニッシャーとしての仕事が増えたことも要因に挙げられるだろう。

 2016年から2018年にかけては5試合連続で得点をマーク。アウェーゲームで通算10ゴールを挙げている点も見逃せない。2016年の2ndステージ第3節では0-0で迎えた後半アディショナルタイムに劇的な決勝ゴール。2003年以来となるアウェー仙台戦での勝ち点3を浦和にもたらした。

 一方のホームゲームでは、2016年から4年連続でゴール中。2017年の対戦では自身リーグ戦初となるハットトリックも達成している。今季のホーム仙台戦で記録継続となるかどうかも注目したいポイントだ。

「浦和の興梠」はあの相手にも強い。

「浦和の興梠」の特殊性は仙台相手だけにとどまらない。

 通算24試合11得点の清水エスパルス戦、20試合7得点のアルビレックス新潟戦からも興味深いデータが見て取れる。

 鹿島時代は清水戦で12試合1得点だったが、浦和加入後は12試合で10得点。ホームではハットトリックを達成した2015年を皮切りに、昨年まで4試合連続でゴールをマークしている。

 同じく鹿島時代に11試合ノーゴールだった新潟戦も、浦和移籍後は9試合で7得点。新潟がJ1に在籍した2017年まで毎シーズンゴールを奪った。浦和が新潟に対して2007年から17勝5分け無敗と相性が良い点も加味する必要があるが、苦手を完全に払拭した。

 また、湘南相手にも通算11試合6得点。浦和加入後は対戦した毎シーズン(2014年、2017年は湘南がJ2)得点を取っており、アウェーゲームでは2015年から毎試合得点中。今季のJ1第1節でもゴールを決めたことで、BMWスタジアムでの連続得点試合は5に伸びた。

 鹿島時代から好相性をキープしているのは、通算11得点を挙げているFC東京戦だ。鹿島在籍時は2010年から、浦和加入後も2016年からそれぞれ3試合連続で得点を決めている。

 鹿島では11試合5得点、浦和では13試合6得点とコンスタントにゴールを重ね、こちらも相性が良い部類に入るだろう。

では完全に封じ込めているのは?

 一方で、相性の悪い相手は存在するのだろうか。ともに11試合で2ゴールの甲府戦、大分戦は、興梠の得点ペースからすると確かに低い数字にとどまっている。

 ただそれ以上に、「浦和レッズの興梠慎三」を完全に封じ込めているチームが存在する。過去24試合3得点の横浜F・マリノスだ。

 内訳は鹿島時代が12試合3得点。浦和では12試合に出場して得点がない。2ゴールを挙げた2010年10月24日を最後に、16試合ゴールから遠ざかっていることになる。

 浦和加入後に興梠が得点を決めていない相手は、山形、長崎(ともに2試合)、そして横浜FM(12試合)。10試合以上の対戦に限定すれば次に少ないのが10試合で2得点のG大阪戦だけに、横浜FM戦の異常性が際立つ。

昨季は初ゴールかと思われたが。

 興梠が加入した2013年以降、浦和は横浜FMに対して4勝2分け8敗。そのうち2勝はいずれも興梠が欠場した試合に挙げたものだった。

 攻撃の組み立てに積極的に関与し、典型的なボックスストライカーとは異なる点を差し引いたとしても、興梠の無得点がチームの勝敗に影響していることがわかる。

 昨年のアウェーゲーム(1-3)では、宇賀神友弥のクロスに中央で合わせて初得点を挙げたかに思えたが、直前で横浜FMの広瀬陸斗(現・鹿島)が右足を出しオウンゴールとなった。

 今季こそ“天敵”F・マリノス相手にゴールネットを揺らすことができるのか。仙台や清水に対してのキラーぶりは続くのか。

 数字上の「相性」がここまではっきりしている選手も珍しい。Jリーグ再開となった暁には、浦和のエースにレッズサポーターならずとも注目してみてはいかがだろうか。

(「JリーグPRESS」斎藤純 = 文)