箱根駅伝を走る関東の学生にとって非常に重要な大会である関東インカレ(関東学生陸上競技対校選手権大会)の5月開催の中止が決まった。

 コロナウイルスの拡大によって5月の開催が危ぶまれており、関東学生陸上競技連盟のホームページ上では5月7日までに最終判断を下すという案内があったが、6月末の日本陸上選手権の延期を受け、それに倣う形で決まったようだ。

 いろんなスポーツ同様に学生スポーツ、箱根を戦う陸上部にも大きな影響が出ている。

 3月の学生ハーフが中止になり、ロードシーズンを締めるレースができなかった。例年、この大会で結果を出した選手は箱根駅伝でも好走するケースが多いが、今年はその結果とともに、選手たちのロードシーズンの成長を実戦で確認することができなくなった。

 4月からトラックシーズンに入ったが、大会や記録会が次々と中止、延期になっている。そして4月3日に、は日本陸上競技連盟が6月末までの陸連主催、後援の大会はすべて中止、延期を要請するという発表をした。関東圏の大学の陸上部も現在は活動を中止、あるいは自粛しているが、再開の見通しはたっていない。

 7月にはホクレン・ディスタンスや関東学生網走夏季記録挑戦競技会を始め大学の記録会やレースが開催予定だが、これも実施できなくなると上半期はノーレースという異常事態になり、「空白の上半期」になってしまう。

 それは、チームに、選手にどんな影響を及ぼすのだろうか。

この時期に出すタイムの意味。

 4月からのトラックシーズンで選手たちは、1500m、3000m障害、5000m、1万mの個人種目にフォーカスし、自己ベストや2021年の主要レースに出場するための参加標準記録をクリアすることを目標にしている。

 だが、このまま大会や記録会がなくなるとタイムを残せなくなり、来年度の大会出場権を失ってしまう。これについては救済処置が取られる可能性があるが、現在のところ未定だ。

練習、調整、レースのサイクルが崩れる。

 またコンディションの維持が難しくなり、レース勘を失ってしまう。選手は練習、調整、レースというサイクルでトラックシーズンを過ごしていく。こういうリズムが実に大事なのだが、ずっと練習のままだとメリハリがなくなり、コンディションのピークの持っていきどころがなくなってしまう。

 そうなればモチベーションは低下するし、気持ち的にもモヤモヤしたままの状態がつづき、ストレスにもさらされる。

 いちばん大きいのは自己の成長をタイムで客観的に見られなくなってしまうことだ。

 陸上部の選手にとってタイムは目標であり、自分の現在地を知る重要なもの。公式レースで相手と戦い、良いタイムを出して、勝てば自分がやってきたことが正しかったと確認ができるし、自信がつく。

 そうして選手としてのレベルアップや成長を実感できるし、それが次への活力になる。

 ゆえにレースは重要なわけだが、とりわけ関東インカレは上半期の自分の取り組みを確認する場であり、トラックシーズンの後半戦に向けて自身の強化プランを継続するか、変更するかを判断する場でもあった。

 そのためにこそキツイ練習を頑張ってこなせるのだが、その成果を発揮する場を失うのはボクサーがリングに上がれなくなるのと同じくらいショックが大きい。

4年生があまりにも不憫。

 それでも2、3年生は、まだ先があるからいい。

 だが、4年生にとって上半期のノーレースは悲劇でしかない。

 学生最後のトラックシーズン、大学で競技生活の引退を決めている選手、3年間で芽が出ずラスト1年を勝負だと位置づけ、努力をつづけてきた選手はこの時にすべてを賭けていたはずだ。だが、何も勝負ができないまま上半期のシーズンを終えてしまう可能性が高くなった。実業団に行く選手はまだしも、覚悟を持ってラストシーズンに臨んだ4年生の気持ちを考えると、あまりにも不憫で、胸が痛む。

夏合宿の実施にも影響が?

 また、萩生田光一文科相が教育実習について、本年度前期の実施を見送り、秋以降に変更するよう通知する考えを明らかにした。仮に秋の駅伝シーズンに実施されると教育実習を考えていた4年生、特に主力選手に大きな影響が出るのは間違いない。

 1年生にとっても大会がなくなる影響は大きい。上半期は授業を受けて、練習をして、大会に出場するというサイクルに身体と頭を慣れさせていく大事な時期だ。だが、今年はこのままいくと寮生活には慣れても先輩との強度の高い練習やレースを経験できず、自分の力をタイムで証明するチャンスを失ったまま夏合宿に突入することになる。

 希望と野心に胸を膨らませ、力を試したいと入学してきた1年生にとっては出鼻を挫かれるだろう。

 コロナ禍の終息の兆しが見えなければ、今後、強化プランを含めあらゆるところに大きな影響を及ぼすことになる。

 例えば、夏合宿だ。7月ぐらいまでに状況が好転しなければ最悪の場合、大学から部活動の夏合宿の中止や自粛が求められる可能性が出てくる。実施できたとしても従来のように大人数での長期間の合宿は困難になるかもしれない。クラスター感染の危険性があるからだ。そうした場合、少人数に分け、合宿期間をズラして行うなど、これまでにない難しい対応が求められることになるだろう。

出雲駅伝と日本選手権のチョイスも発生?

 大学駅伝にも影響が出てきそうだ。

 3大駅伝の初戦である出雲駅伝が10月11日に開催予定だ。通常は、9月の日本インカレが終わった後ぐらいに出雲のエントリーメンバーを提出。日本インカレを走った選手はそこから出雲駅伝のチームに加わり、約1カ月で仕上げていった。

 日本陸連のアナウンスによると延期した日本陸上選手権を今年は9月末から10月上旬にかけて開催する予定だという。出場権を持つ選手は、日本選手権を優先することになるだろう。2021年は東京五輪があり、来年の選考会に挑むにはタイムが必要になるからだ。

 まだ正式決定ではないが、この時期に日本選手権が開催になると出雲駅伝のメンバーに影響が出てくる可能性が極めて高くなる。大学によっては出雲駅伝に主力選手が出場できないケースが生じてくるだろう。

出雲、全日本は開催の是非すら問われる。

 また、これから夏合宿を含め、練習環境などで大学間に大きな格差が生じ、選手のパフォーマンスにかなりの影響が出た場合、レースにおける公平さを担保できなくなる。その場合、全国の大学が参戦する出雲駅伝、全日本大学駅伝については開催の是非を検討する可能性が出てくるかもしれない。

 今後も予断を許さない状況がつづくが、7月のレースが開催されれば先が少し見えてくる。選手も指導者も現状に粘り強く対応し、来るべき時に備え、厳しい時間を必死に乗り越えようとしている。コロナ禍の一刻も早い終息はもちろん、少しでも早くトラックに灯りが戻ることを願うばかりだ。

(「箱根駅伝PRESS」佐藤俊 = 文)