世界中のスポーツが新型コロナウイルス感染拡大の影響を受ける中、バレーボールも、イタリア、ポーランド、フランスなどのリーグが中断を余儀なくされ、ドイツリーグは中止となってしまった。

 今季、ドイツ・ブンデスリーガのロッテンブルクでプレーしたリベロの川口太一(ウルフドッグス名古屋)は、「3月14日の試合に向けて普通に練習していたんですが、12日の練習後に急に、中止になったと聞いて、本当にびっくりしました」と振り返る。

 ロッテンブルクは9位で、8位以上によるプレーオフ進出の可能性もあっただけに無念さは隠せない。

 ただそれ以上に、「今季は得たものがすごく多かった。これからのために大切なことを学べました。本当にドイツに行ってよかった」と充実感を漂わせた。

 スターティングリベロとして試合に出続けたことはもちろん、人としての視野が広がったことが、一番の収穫だったと言う。

英語力を生かして適応した川口。

 川口は、所属するWD名古屋(昨季までは豊田合成トレフェルサ)の海外育成出向制度を利用して、2018/19シーズンから海外でプレーしている。

 川口はWD名古屋でトミー・ティリカイネン監督やクリスティアンソン・アンディッシュ前監督と英語でコミュニケーションを取る努力をしていたため、英語での会話を苦にしない。しかし昨季プレーしたフィンランドのサボバレーでは、チームメイトも監督もフィンランド語を使用していたため、なかなか周囲とコミュニケーションを取ることができなかった。

 その点、今季プレーしたドイツリーグは外国人枠がなく、様々な国の選手が集まる。ロッテンブルクにも6カ国の選手が所属し、チーム内の公用語は英語だったため、今季は持ち前の英語力を活かすことができ、それによって得られたものが大きかったと言う。

「多種多様な選手が集まる環境の中で過ごすことで、あ、そういう考え方もあるんだな、そういう生き方もあるんだなと感じることが多かった。今までは1つの角度からしか物事を見られなかったんですが、多面的に物事を見る力が身についたんじゃないかなと思います」

「お前は何考えてるんだ?」

 見方が変わっただけでなく、自身のチームへの働きかけ方も変わった。

「それぞれが違う意見を持っていて、みんながそれをしっかりと発言し合うというのは、これまではあまりなかった経験でした。日本人は自分の意見をあまり発しないというか、僕自身、自分の思っていることを自信を持って言えないほうでした。リアクションもオーバーにするほうじゃないですし。でも外国の人からすると、僕のリアクションの仕方や、自分の意見を主張しないということが不思議だったみたいで、『お前は何考えてるんだ?』とすごく言われました。

 日本だったら、言わなくても伝わったり、察してくれるだろうというのがあったんですけど、それはあくまでも日本の中でのこと。海外では、素直に自分の意見を言うことのほうが大切で、しかもそれを尊重してくれるんです。

 日本にいた時は、自分が言った意見が尊重されるのかな、という不安もありましたし、自分の発言に対して、人がどう受け取るか、どう思われるかというのをすごく気にしていました。でもロッテンブルクではそういう不安がなくなった。チームメイトのみんなにとっては、ありのままの意見を言うことが一番重要で、ありのままの自分でいていいんだ、自分を出してもいいんだ、というふうに変わっていきました」

トスを得意とするリベロ。

 川口は自分の意見を発するようになり、その成果は、試合の中にも見て取れた。

 今季のロッテンブルクは、川口の持ち味を存分に活かしたバレーを展開した。例えば、ラリー中にセッターが1本目を触ると、リベロの川口が素早くボールの下に入り、クイックやパイプ攻撃を積極的に使って相手ブロックを翻弄する。それはトスを得意とする川口が、自ら監督に売り込んで実現した。

「自分はこういう強みがある、というのを監督に話すと、監督もそうだなと納得してくれて、『こういうことをやってみよう』とみんなにシェアしてくれた。みんなは、そうやってリベロがトリッキーなトスを上げるというのを経験したことがなかったので、最初は対応できなかったんですけど、僕がやりたいことを理解してくれて、練習を重ねるごとにみんなも対応できるようになりました」

ドイツで芽生えた「プロ」への意識。

 また、チーム内に限らず、現地で知り合った人と話し、ドイツの人々の多様な生き方を知ったことで、川口自身の生き方のビジョンも大きく変化したと言う。

「前までは、(名古屋で)ずっとこのまま安定した正社員としてプレーを続けていくのかなと思っていたんですけど、今回、いろんな選択肢や可能性が見えたことで、自分がやってみたいなと思うことにチャンレンジするのがいいんじゃないかなと思うようになりました。プロになることにも今はすごく興味があります。

 正社員じゃなくなったら、リスクというか、将来不安定な生活になるかもしれない。プロでやって成功するかしないかはわからない。でも仮に成功しなかったとしても、それで自分の人生が終わるわけじゃないし、また違う人生があると思う。

 今まではそういう選択肢を見るだけの視野の広さがなかったんですが、今回、いろんな人たちと出会って話す中で、選択肢はいっぱいあるし、作れるし、自分次第でいろんな可能性が広がるんだなと、すごく感じました」

石川祐希と高校三冠、すぐにVリーグへ。

 プロになるという選択肢が膨らんだのは、ヨーロッパでプレーする日本人プロ選手の影響も大きかった。

 川口は星城高校時代、今では日本代表のエースとなった石川祐希(パドヴァ/イタリア)たちとともに2年連続高校三冠(インターハイ、国体、春高バレー)を成し遂げた。高校卒業後、チームメイトはみな大学に進学したが、川口は豊田合成に入社し、V・プレミアリーグ(現在のV.LEAGUE DIVISION1)の世界に飛び込んだ。

 豊田合成には古賀幸一郎という絶対的な守護神がいて、試合に出るハードルは高かった。そこで1年目には、イタリア・セリエAのモデナに短期留学した石川とともに、川口も練習生としてモデナで約3カ月間過ごした。3年目には豊田合成で、レシーバーとしてセット終盤の重要な守備固めを任されるようになった。

 それでも、スターティングリベロとしての出場を求めて、昨季フィンランドに渡り、今季、ドイツリーグへとステップアップした。

 これまで川口が選んできた道もかなりのチャレンジに思えるが、今季、プロ選手として活動する同級生の石川や、同じドイツリーグでプレーする柳田将洋(ユナイテッド・バレーズ)たちと話す中で、大きな違いを感じたと言う。

石川、柳田に感じた違いとは?

「今季は祐希や柳田さんたちと話す機会がたくさんあったんですけど、みんな本当に、チャレンジしてるじゃないですか。そういう人たちの言葉ってすごく重みがある。毎回話していて感じるのは、熱量の違いです。たぶん自分がバレーに対して持っている熱量と、祐希や柳田さんが持っている熱量は違うというのを、感覚的に感じるんです。

 2人だけでなく、ポーランドでプレーしている古賀太一郎さん、今季プロになってドイツでプレーした渡辺俊介さんもそうだと思うんですけど、覚悟を持って、厳しい道を選んで今やっている。それが、なんかカッコイイなと。1つのことに自分の情熱を注ぐ、もっと大きな言い方をすれば、人生を捧げる、ぐらいの勢いで取り組んでいる。そういうのは今の自分には、彼らと比較すると、ないなと感じた時に、自分もそういうふうにやりたいなと思った。

 自分も、バレーに情熱、熱量をもっと注ぎたい。それに、自分の力を試して、自分の価値を自分の力で上げていきたいというのもあります。毎年、自分が必要な人材だと判断してもらえれば契約してもらえる、そういうところに挑戦したい。もっと言えば、バレー以外のところでも必要とされる人材になっていきたいという思いもあります」

「みんな違うのが普通で、違っていいんだ」

 そうした思いから、今季はSNSで、英語、日本語問わず、様々なメッセージや動画を発信してきた。

「バレーボールをやっていない一般の人にも役に立つトレーニングの知識だったり、自分の考えを、自分の中だけにとどめておくんじゃなくて、世の中に発信していきたい。そうすることで、僕では気づけないようなフィードバックをもらえることもあると思う。

 前までは、何かを発信する時に、『誰かにこう言われたら嫌だな』ということを考えていました。でも今回、いろんな国の人がいる環境に身を置いて、いろんな意見があって当たり前、みんな違うのが普通で、みんな違っていいんだ、と感じたから、今、こういうふうにできているんです」

自宅待機中も「問題ありません」

 現在は、ヨーロッパからの帰国者に要請された14日間の自宅待機中だ。アスリートが2週間も外で練習できない状況には、相当な不安があるのではと思ったが、川口は「苦にならない」と言う。

「バレーの練習はできませんが、できないならできないで、やることはたくさんある。体を維持するためのトレーニングはもちろん、今はオンラインでスポーツ心理学や脳科学を勉強することもできます。やることはたくさんあるので、問題ありません」

 どんな状況に置かれても、今の川口には“可能性”しか見えない。

「みんな違って当たり前」

 そこから始まり、唯一無二のバレーボーラーへ。ドイツでのこの半年間は、川口の人生にとって大きな転機となりそうだ。

(「バレーボールPRESS」米虫紀子 = 文)