監督が代わってもチーム内における重要さが変わらないというのは、選手として本物の証の1つではないだろうか。例えば、シュツットガルトの遠藤航のように。

 チームは中断期の冬休みにティム・ワルター監督を「チームに成長が見られない」との理由で解任し、新しくペジェグリーノ・マタラッツォを迎え入れる決断をした。

 指揮官が代わればカードはシャッフルされ、やり方や求められる役割が変わるところも出てくる。主軸だった選手がポジションを失いベンチで焦燥に暮れるなんていう話は、プロスポーツの世界では珍しくない。

 そんななか、遠藤は新監督の下でも中心人物として確かな評価を受けている。

 マタラッツォになってからの全7試合フル出場中。サッカー専門誌『キッカー』で平均2.78(1が最高で6が最低)と、地元紙からの採点も高い。

監督の狙いを表現できる選手として。

 遠藤は、新監督を次のように分析してくれた。

「戦術の幅は広がったかと思います。前監督は、どちらかと言うと自分の形をしっかり作っていきながら実行していくタイプでしたが、今の監督はある程度いろんなオプションを持ちながら、相手に合わせてどう戦っていくかを判断していくようなタイプ。

 どっちがいいとか悪いとかではなく、今は毎試合、監督の狙いとする形を選手が表現できています。監督の狙いを表現できる選手が揃っている部分もあると思いますが、うまくいっているのかなと思います」

 監督の狙いを表現できる選手。確かに、新監督を迎えたシュツットガルトはピッチ上の意思疎通がうまくいっている。選手全員が納得して、関与し合いながらプレーできている印象がうかがえるし、遠藤もまさに“そのための選手”として活躍している。

 アンカーだけでなく、センターバックとして起用される試合もある。どこで使われてもミスが少なく、チームが求めるプレーを体現できている。首脳陣は、その点を非常に高く評価している。

マリオ・ゴメスが得点を量産中。

 第21節のアウエ戦でのこと。試合後のミックスゾーンでスポーツディレクターのスベン・ミスリンタートが報道陣に囲まれている。「チャンスをしっかりと作り出し、ゴールを決めることができた。守備が安定し、相手にチャンスをほとんど与えなかった。どちらも大切なことだ。攻守の切り替えが改善されている」と満足気に勝因を語っていた。

 しかし、中断前のシュツットガルトはシュートまで持ち込めず苦しむことが多かった。パスの出しどころを探しながらボールが横にだけ動き、相手に詰め寄られると最後尾のGKまで大きく戻す。いつまでも動きに変化が生まれないことにファンのイライラがどんどん膨れ上がり、前半途中でブーイングが起きることも日常的だった。

 ところが、中断明けはチームの得点数が増え、なによりもFWのゴールが増えている。ベテランのFWマリオ・ゴメスは5試合出場4得点。前半戦は13試合で2得点だったので、その差は歴然である。

記者が称えたボール奪取と縦パス。

 地元記者は「なぜ急に復活したのか?」と問いかけるが、ミスリンタートにすれば視点が違う。

「彼がシュートチャンスを迎えることができるようになって、決めるだけのクオリティを持っているということだ。我々の前線にはゴールを決められる選手がいる。ということはチームとして、どのようにそこまでボールを運び、チャンスを作るのかが重要になるんだ。シュートチャンスを作ることができれば、ゴールの可能性は増えてくる」

 ミスリンタートはそう強調した。

 前に点を取れる選手がいても、そこにボールが入らなければどうしようもない。ゲームコントロール、チャンスメイク。どこでどのようにリスクチャレンジするのか。その点で遠藤が果たしている役割は大きい。

 地元記者が「(アウエ戦の)2点目、3点目のコンビネーションが素晴らしかった」と話を振ると、ミスリンタートは3点目がなぜ素晴らしかったのかを説明しだした。

「3点目は確かに素晴らしかった。(遠藤)ワタルがボールを奪い、そこから次のプレーで縦パスをFWにつけた。素晴らしいシーンだった。ああいったシーンを作り出すためには我慢強くプレーを続け、相手の守備陣がずれる瞬間を待たなければならない」

CB、ボランチとして様々な気配り。

 相手だって簡単にスペースを明け渡すつもりはない。2部では戦力的にトップレベルと言えるシュツットガルトが相手の場合、より守備に重心を置いてくる。少しのパス交換やシンプルなサイドチェンジだけでは崩せない。出しどころがないからどうしようではなく、出しどころがないなら、その前段階が大事になってくる。

 この日、前半はセンターバックで、後半途中からボランチでプレーした遠藤はボールの受け方で様々な気配りをしていた。パスがもらえないとポジションを下げがちだが、そうではなく、味方が持ち上がってきたときにどのように受けるのかを意識していたという。

「うまくアングルを取って、斜めのボールを入れてチャンスメイクできている。ボランチのところで受けて“同サイド、同サイド”になるんじゃなく、身体を開いて逆サイドの選手につけるとか。その辺はボランチをやっていく上で大事なことだし、特にアンカーをやる上では意識している部分です」

 前述の3点目のシーンは、遠藤のそうしたプレーから生まれたゴールだった。彼の持つゲームコントロール能力は試合を重ねるごとにチームに欠かせないものになってきている。

首位相手との我慢比べの中で。

 新型コロナウイルスの影響でドイツ各地のサッカーが動きを止める前の3月9日。首位ビーレフェルトをホームに迎えたシュツットガルトは、5万4302人の大観衆をバックに、試合を優位に運んでいた。勝てば首位との勝ち点差が3に縮まる大事な一戦だ。

 それまでわずか2敗。2部リーグのなかでは断トツの安定感を誇るビーレフェルトとの試合は「お互いしっかりプレッシャーをかけるところと、ブロックをしいて守るところははっきりしていたと思います。相手も切り替えは速かったので、中盤のセカンドボールの拾い合いでどちらが上回るか」(遠藤)という、さながら我慢比べの展開となった。

 そんななか、遠藤はアンカーとして試合をコントロールすべく攻守のポジショニングで入念な微調整をしていた。そして前半途中からインサイドハーフでスタメン出場していたマンガラが1列ポジションを下げて遠藤とダブルボランチのような形が多くなってくると、少しずつ流れを作れるようになった。

「最初、僕がアンカー気味にプレーしてたんですけど、途中から2ボランチ気味にしたので相手のトップ下の選手がちょっと困ったような感じがあった。ボールの引き出し方は、2ボランチにしてからの方が良くなったかな、と。

 自分がいい形でボールを受けた後に(味方選手が)相手の背後を狙う動き出しをしてくれれば、出せる自信はありました。ああいうプレッシャーのあるなかでもチャンスメイクしていく。それが中盤には求められると思うので。その辺りはは悪くなかったと思いますけど」

多くは語らずも必要なことは。

 52分にゴメスが先制したところまでは、シュツットガルトの狙い通りだった。しかし、ビーレフェルトも首位の意地を見せて76分に同点に追いつく。結局、試合は引き分けで終わった。もちろん勝ちたかったが、引き分けたことですべてが決まったわけではない。

「6ポイント差はまだまだひっくり返せないポイントではないと思います。大事なことは2位にいて、勝ち点を積み上げていくこと。監督も話しましたけど、これからハンブルク(ハンブルガーSV)と直接対決があるので、2位にいる僕らはアウェー2つで勝ち点6をしっかり積み上げて、ハンブルクに挑むことが一番大事」

 完全に中心選手となった遠藤には、自分のプレーに止まらず、チーム全体をどのように動かし、勝利に導くのかが求められている。責任感を持って取り組んでいる。だからといって、その両肩に重荷を負うつもりもない。

「僕としてはそれほどやることは変わらないというか、まずは後ろのリスクマネジメントのところで切り替えるとか、セカンドボールを拾うとか。後は攻撃でボールを受けて、しっかりと前につけるところ。それは自分の良さとして出していけていると思うので、続けていくだけ。より精度を高めていくだけだと思います」

 ミスリンタートは、遠藤のことを「静かなリーダー」と称していた。多くは語らない。だが、必要なことはぴしゃりと伝える。大事なところで踏ん張れる選手。大事なところで勇敢な選択ができる選手。その妥協なき姿勢がチームを支えていく。

(「欧州サッカーPRESS」中野吉之伴 = 文)